日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。イラン発! 家族と国のあり方を問うサスペンス巨編!

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『聖なるイチジクの種』

評点:★4点(5点満点)

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体制の「無謬性」はディストピアの指標だ

国家や体制というものは例外なく自らの無謬性を声高に主張するものだが、その度合が強ければ強いほどディストピアへと接近する。その最悪の形はもちろん神権政治である。

物語の背景には2022年、髪をスカーフで「ちゃんと」覆っていなかったという理由で、若い女性がテヘランで「道徳警察(服装警察ともいう)」に逮捕され、暴行を受けて殺害された事件と、それをきっかけに巻き起こった大規模なデモと当局の激しい弾圧がある(当局は女性が突然心臓発作を起こして死亡したと主張している)。

多くのイスラム教国で女性は頭や身体を布で覆うことを強要されているが、根拠はそれが彼らの「神の教え」だからである。であるがゆえに反論の余地はなく、疑問を挟むことも許されない。

映画の主人公たる一家の父親はそんなイランで検察に勤める人物で、彼に護身用に支給された拳銃が自宅で紛失したことから家庭内の「体制」が揺らぎ始める。

本作は現在も神権政治が続くイランをディストピアとして描いたサスペンスフルな作品であり、それはやがてホラー映画的な展開へと至る。それが当然の帰結に感じられるのは、宗教が支配する世界は個人にとって常に悪夢そのものだからだ。

STORY:市民による反政府デモで揺れるイラン。一家の主イマンの仕事はデモの逮捕者の起訴状を捏造すること。ある日、家庭内で彼が国から支給された護身用の銃が消える。家には疑心暗鬼が広がり、やがて予測不能な事態へと急変する......

監督:モハマド・ラスロフ
出演:ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキほか
上映時間:167分

全国公開中

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