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「何百年もその名字が受け継がれてきたって聞くと、やっぱり魅力を感じます」と語る中野信子
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた最終回です。最後の対談のテーマはなぜか「珍しい名字は得をするのか?」に。普段、あまり名字のことを考えないので、意外と新鮮な感じがします。それが脳にいいのかも。。
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ひろゆき(以下、ひろ) 僕の名字は「西村」で割とオーソドックスなんですけど、珍しい名字の人ってけっこう得をするんじゃないかと思うんですよ。
中野信子(以下、中野) 確かにそうかもしれないですね。普通の名字だと集団の中で埋もれやすいけれど、珍しい名字だと覚えてもらえる可能性が高いですから。
ひろ 僕の知り合いに珍しい名字の人がいるんです。で、その人だけロイヤルファミリーの方から声をかけられたらしいんですよ。
中野 ええ! すごいですね。
ひろ 大使館かどこかで職員がズラーッと並んでいてロイヤルファミリーの方に挨拶するんですが、珍しい名字の人の前に立ち止まって、「名前が珍しいですね」と直接言葉をかけてもらったと。やっぱり珍しい名字って得するんだなと思いました。それから名字が長すぎるのも面白いと思うんです。
中野 というのは?
ひろ フランスやアメリカだと、結婚を重ねて母方、父方、祖父母と姓を継ぎ足していって、何十個も名前がある人がいますよね。例えば、画家のピカソもパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ......ピカソと非常に長いじゃないですか。それに複雑なのでミステリアスさも生まれる。
中野 それがピカソのカリスマ性のひとつかもしれないですね。あと名字は長い時間を経てきたからこそ表れる価値もありますよね。
ひろ 「これは江戸時代から続く名字」とか言われると価値を感じる人は多いですよね。
中野 やはり時間の蓄積は大きいですよね。いわゆるキラキラネームって、珍しい名字と同じように人目を引けますが、名づけた親が白い目で見られることが多い。
ひろ でも、珍しい名字ってバカにされないし、聞いたほうはなんだかすごいルーツがあるように思ってしまう(笑)。
中野 少し話題はそれますが、名前に関連していうと「女性研究者の論文は引用されにくい」というのがあるんです。
ひろ 論文の著者名を見て「男性か女性か」で無意識に判断する人が多いんですか?
中野 実際に女性研究者が男性研究者に比べて引用数が少ないという調査結果があります。もちろん、まったく引用されないわけではありませんが「女性の研究は信頼度が低い」「レベルが低いのではないか」という先入観を持たれてしまう場合があるようなんです。
ひろ もし同じような内容の論文を男性研究者と女性研究者の両方が発表していた場合、男性研究者の論文のほうが参考にされがちということですか。
中野 そうです。少なくともその傾向は完全に否定できないんです。しかも自然科学の分野ですらそういう話が出てくるので、主観や解釈が加わりやすい人文科学の分野だと、女性研究者はより厳しい環境かもしれません。
ひろ そうなると、自分の娘を将来研究者にしたいんだったら、性別がわかりにくい名前をつけるのがいいってことになりそうですね。
中野 冗談みたいですけど、それは一理あるんですよ。
ひろ 「アキラ」とかなら、どっちの性別かわからない感がありますよね。日本語だと男女どちらでも使われることが多い名前ですし。
中野 そうですね。ただ、海外では「a」で終わると女性名だと認識されることが多いので、国際的には女性だと思われる可能性が高いかもしれません。例えば、「ケイ」とか「リオ」ならどちらの性別でも通じそうです。すみません、名字の話でしたよね。
ひろ はいはい。
中野 実は私、「瀬堀」という名字がすごく気になっているんです。これは小笠原諸島に多い名字みたいです。1830年頃にナサニエル・セイヴァリーさんというアメリカ人が小笠原諸島に移住して、その血筋が受け継がれて日本人の名字として定着したんだとか。
ひろ へえ。歴史があっての名字なんですね。
中野 そうなんです。何百年もその名字が受け継がれてきたって聞くと、やっぱり魅力を感じるじゃないですか。名字のルーツはアメリカなのに日本で根づいてる感じが面白いと思います。
ひろ 時間を重ねれば勝手に価値を感じる人が増えてくる。要はどれだけ続くかですね。
中野 そうです。古代日本に技術をもたらした人たちは秦さんという名字が多いのですが、将来的に「うちの家系は何百年前に外国から渡ってきた高度技術者なんだ」と言えるようになるかもしれない。
ひろ なので、自分の子孫を幸せにしたいと思うのであれば、今のうちに新しい名字を作っておくと、何百年か先には「うちの先祖はレア名字を継いできたんだ」ってなるかもしれないですね。外国人と結婚するとか、なかなかハードルは高いですけど......。
中野 幸せの定義によりますが、希少性や注目度は上がるかもしれないですね。世間からも大切にしてもらえる確率も高まると思いますよ。
ひろ ブラジルから日本国籍になった「三都主」さんなんかも、500年後には「すごいレアで由緒ある姓」になっているかもしれない。
中野 日韓ワールドカップで活躍した三都主アレサンドロさんですよね。何百年後には「これはブラジルから先祖が渡ってきて、サッカーで活躍して......」みたいな家系譜になるかもしれないですね。
ひろ でも、日本の名字って実はどんどん減っているらしいんですよ。約500年後には日本人全員の名字が「佐藤」になるなんていう試算も発表されています。
中野 それはちょっと衝撃ですね。
ひろ 日本って結婚のたびにどちらかの名字を選ぶので、レア名字は半数の確率で消滅していく。それに加えて少子化だからなおさら消失の速度が速いみたいです。
中野 歴史ある名字が消えていくのは寂しいですよね。
ひろ そうなると、どこかで「レア名字を守ろう」みたいな文化や政策が出てくるんじゃないかと思うんですよ。「レア名字だと結婚するときに有利になる」みたいな優遇措置が生まれるかもしれないですね。
中野 そういえば、お茶の家元として有名な千家は、お役所で複雑な手続きをするときに意外とスムーズに通るなんて話を聞いたことがあります。
ひろ 伝統ある家柄だと役所側も「はいはい、あの千さんね」みたいな感じでスムーズに処理してくれるんですかね。やっぱりレア名字にはある種の価値があるわけですね。
中野 ネット検索もされやすいし、名前を覚えてもらいやすい。メリットは多いと思います。
ひろ というわけで、AI時代に得をしたいなら珍しい名字にすればいいと。どれだけの人が参考になるかわかりませんけど(笑)。ということで、実は中野さんとの対談はこれでラストになります。
中野 最後の最後に、脳科学に全然関係ない話題になってすみません(笑)。
ひろ いえいえ、めっちゃ面白かったです。ありがとうございました!
中野 こちらこそ、ありがとうございました!
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など
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