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結成26年目を迎えたフットボールアワー
2003年の『M-1グランプリ』優勝後、バラエティ番組で活躍しながらも、着実に漫才師としてのキャリアを重ねてきたフットボールアワー。昨年、コンビ結成25周年を迎えた彼らが語る漫才の原点と進化。
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■刺激をもらう相手は銀シャリ、かまいたち
――昨年でコンビ結成25周年。漫才師としての原点はどなたになるんですか?
後藤 僕は姉がふたりいるんですけど、下の姉ちゃんがめちゃくちゃ漫才好きで。地元が大阪なので、週末のお昼には漫才番組を姉ちゃんの横でよく見させられました。特に「ちょっと待ってね」ってギャグで有名な、はな寛太・いま寛大さんが好きでしたね。
岩尾 僕も大阪なので自然と目には入ってきてたんですけど、ホンマに衝撃を受けたのはダウンタウンさんの漫才。小学生のときに「誘拐」とか「クイズ」のネタを見てスゴいなと思って。後藤とコンビを組む前にコントをやろうと思ったのも『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)の影響でしたけど、漫才で一番笑った記憶があるのもダウンタウンさんですね。
――90年代は大阪でもコントが人気で、心斎橋筋2丁目劇場では「漫才禁止令」を発令。おふたりがコンビを結成する99年には、漫才人気が戻る気配はあった?
後藤 まったくないです。コントばっかりやってた岩尾のコンビ「ドレス」と僕のコンビ「エレキグラム」が解散して、残り者同士でコンビを組んだら周りは「またコントやるんだろ?」って思うじゃないですか。それで、少ないながら見に来てくれてたお客さんや劇場のスタッフに向けて「今までとは違うことをやりますよ」って姿勢を示すために漫才を選んだだけっていう。そしたら、たまたま少しして『M-1グランプリ』が始まったんです。
フットボールアワー・後藤輝基
――今も劇場に立たれていますが、刺激になる方はいますか?
後藤 僕は銀シャリですね。漫才の筋肉量が見えるんですよね。もちろん、どの芸人もテクニックがあるし、切り口も多岐にわたるし、若手のコなんか見ても、われわれの駆け出し時代と比べたら圧倒的にうまい。でも、銀シャリはトレーニングジムに入会せず、公園の鉄棒で鍛え上げた筋肉みたいな(笑)、そんな感じがあるんですよね。
岩尾 僕も劇場出番の前後に袖で見たりして面白いなと思うのは銀シャリとかまいたちです。言ってることとかやってる内容もそうですけど、後輩とはいえ年齢はそんな変わらないので、同世代の面白い漫才師という意味でも刺激をもらってます。
――今年結成50周年を迎えたオール阪神・巨人師匠は、いまだに「なんばグランド花月」で活躍されています。
後藤 単純に漫才師としてすげえなと思います。僕が思う理想的な漫才師は、"どんなネタか"より"誰がやってるか"で見応えを感じさせてくれる人たち。
阪神・巨人師匠は、もちろんコンビ名の大看板もありますけど、「今日、阪神・巨人見たなあ」みたいな満足感があるじゃないですか。それって「フットボールアワーの『○○』ってネタを見た」とは別の味わい深さだと思う。
あと、例えば「今いくよ・くるよを見た」ってお客さんに「どんなネタやってました?」って聞いても、たいていは「『御堂筋、なにわ筋、堺筋』とか『こんなとこ(肩の部分)から足出して』とか......」って返ってくる。さっき見たのになんのネタやったのかわからないんですよ。でも、確実にいくよ・くるよで笑ってる。そんな漫才師はやっぱすごいなと思うし、われわれもそうありたいですよね。
岩尾 われわれが、25年後に阪神・巨人師匠ぐらいのテンションで漫才やれてるのか......想像もつかないです。ベテランになると「まあこれぐらいでいいか」ってところがあってもおかしくないのに、全然妥協せず、ずっと現役で舞台に立ち続けてますから。
後藤 阪神・巨人師匠とかは、良き先輩の背中を見せてくれてるし、われわれも続かないといけないなと思います。今も数十年後も、フットボールアワーの漫才を見た後輩に「何してんねん」って思われたくないですしね。
――若手に目を向けると、昨年は令和ロマンが『M―1』連覇を果たしました。
後藤 あれ、スゴいでしょ!? 優勝してから時間がたって、なんかスゴさが薄まってません? もっと言ってもいいと思う。
いまだに『M-1』王者の歴史をさかのぼって、2001年「中川家」、2003年「フットボールアワー」みたいな映像が流れるじゃないですか。競技性のある大会で時代ごとにいろんな漫才の形が出てきたわけですけど、われわれが優勝した年からはだいぶたってるので、ある時期から「われわれが優勝した頃はもうセピア色やなあ」と感じるようになったんです。それが2023年の大会を見たときに「あ、もうわれわれは白黒なんやな」と思って。単純に月日の流れもありますけど、あの頃とは参加の仕方が全然違いますよね。
岩尾 僕らの時代は情報も少ないし『M-1』の歴史も浅かったから、とにかく面白い漫才を作って一番になるって挑み方しかなかったんです。けど、今はネタの配信があったり、それこそ大会の傾向を分析したりもできるから、令和ロマンはホンマに研究し尽くして連覇したんやなって。単純には勝てなくなってる大会で、ちゃんと結果を出してるのはスゴいと思いますね。
後藤 さっきの銀シャリの話と重なりますけど、昔は漫画『あしたのジョー』みたいに泪橋(なみだばし)の下のボクシングジムで殴り合いしてたのが、今や最新のマシンで最適な筋肉をつけ、派手な横浜アリーナでタイトルマッチを迎える感じ。
同じ競技やけど、別物じゃないですか。根性と腕っ節で這い上がる時代から、センスのある人が対策を練って体を強化していくアスリートの時代になった。たぶんわれわれの時代はもっとグローブも小(ち)っさかったから受けるダメージもデカかったですよ(笑)。
フットボールアワー・岩尾望
■「ふたりでやるのも楽しい」と思いたい
――昨年11月には、アキナとのライブで久々にコントを披露されましたよね?
後藤 ホンマのこと言うと別に出なくてよかったんですけど(笑)、だいぶコントをやってないわれわれに「コントやりませんか?」なんてよう言うてくるなってちょっと笑ってもうて。あと、頭にはぼんやり自分たちの単独ライブのこともよぎってたから、「久しぶりにやったらどうなるのかな」ってことで誘いに乗ったのは大いにあります。
岩尾 久々にコントをやるってところが大きかったですね。ふたりでやるネタって意味では一緒なんですけど、やっぱり漫才とは違う新鮮さがあって楽しかったし、だいぶ前にやってた単独ライブのことも思い出しました。
後藤 ずーっと漫才師をやってると、衣装を着て誰それの役になるのが、ちょっと恥ずかしくなるんですよ。周りから見た違和感というよりも、「どれだけちゃんと演じられるか」っていう自分の中の感覚的な部分なんですけど。アキナとやったライブで、やっぱりそこは感じましたね。
――昔から稽古はみっちり行なうほうだったんですか?
岩尾 稽古というより、ネタを作るまでに時間がかかるんです。ネタができたら、すぐ合わせて本番に臨むというか。いわゆる何週間も稽古するものとはちょっと違うイメージかもしれないですね。
後藤 逆に言うと、ふたりで作ってるから、ネタが完成した時点でだいたいの筋書きは頭に入ってるんですよ。とはいえ、ほかの人たちと比べれば、ネタ合わせの時間は少ないほうかもしれません。昔から、本番当日の午前中までネタを作ってる、みたいなことも多々ありましたから。
岩尾 ホンマに若手の頃は、月1回単独ライブをやるのが劇場のルールやったので、クオリティが二の次になってるネタもあったと思います。
後藤 普通、月1回単独ライブなんかできないですよ(苦笑)。終わった瞬間に、もう次のライブのこと考えてないと間に合わないですから。でも、やるしかないので、当時あった若手の劇場「baseよしもと」に泊まり込んでよくネタを作ってましたね。
岩尾 毎月、舞台で漫才していたものの、単独ライブは久しくやってないので「年1回、ふたりだけでやるのも楽しいな」と思えたらいいですね。
どんなお客さんが来るのか想像もつかないんですけど、『M-1』の優勝後みたいに「さあフットボールアワー、どんなの見させてくれんねん」って感じでは来ないと思うので(笑)。単純にお客さんも僕らも、お互いに楽しめるライブになればいいなと思います。
後藤 新ネタは鋭意制作中ですし、かつてのネタをやる可能性もあります。もちろん楽しませるつもりで臨みますが、なんせ久しぶりなものでいつもより多めに笑っていただきたいです! こっちのテンションが下がってしまわないよう、足を運んでくださる方々も僕らを楽しませてくれるとありがたいです!(笑)
■単独ライブ「フットボールアワー25」
4月13日(日)に大阪公演(なんばグランド花月)、4月19日(土)に東京公演(ルミネtheよしもと)を予定。詳しくは『FANYチケット』へ
●後藤輝基 Terumoto GOTO
1974年生まれ、大阪府出身。ツッコミ。『行列のできる相談所』や『THE世代感』などで司会を務める。『女芸人No.1決定戦 THE W』2代目MC。趣味・特技はギター
●岩尾望 Nozomu IWAO
1975年生まれ、大阪府出身。ボケ。『M-1グランプリ』優勝時の年齢(当時28歳)は、2018年に霜降り明星に破られるまで15年にわたって最年少記録だった
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