日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。パレスチナ人とイスラエル人が命がけで撮影したドキュメンタリー!

* * *

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

評点:★4点(5点満点)

Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

「大きな物語」が小さな個人や家族を押し潰す

舞台はヨルダン川西岸、いくつもの小さな村で構成される村落「マサーフェル・ヤッタ」......というが、どこにあるのか分からなかったので、Googleマップに「Masafer Yatta」と打ち込んで検索してみたが出てこない。

仕方なくWikipediaに載っていた座標を打ち込んで、ようやく地図上の位置が分かったが、「ストリートビュー」は望むべくもない。

そういう小さな村落を、現地を支配するイスラエル軍が踏みにじり、人々の生活を破壊し(住居や小学校はもとより、井戸や水道管まで壊す非道ぶりだ)、さらに武装した「入植者」たちが押し寄せる。

数十年もそういう状況が続く中、そこに生まれ育ったパレスチナ人と、彼と友情を築いたイスラエル人ジャーナリストらが作ったドキュメンタリーが本作である。

「その場の当事者」というミクロの視点から見えてくるのは、「〈法律〉で決まったことなんで」と言い募る血も涙もないビューロクラシーの不条理であり、「命令に従い〈任務〉をこなすこと」を最優先し、目の前の生きた人間の苦しみを無視するよう「しつけられた」軍人の非人間性だ。

小さな個人や家族を押し潰す「大きな物語」に一体どんな意味があるというのだろうか。

STORY:ヨルダン川西岸地区生まれのパレスチナ人青年バーセルは、イスラエル軍に占領されていく故郷を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト・ユヴァルが訪れ、協力を申し出る

監督:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール、ラヘル・ショール
上映時間:95分

全国公開中

★『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』は毎週金曜日更新!★