特撮界のレジェンド監督・×田﨑竜太(右)と 新進気鋭の脚本家・井上亜樹子 特撮界のレジェンド監督・×田﨑竜太(右)と 新進気鋭の脚本家・井上亜樹子

シリーズ放送開始50周年のスーパー戦隊は、5人のはぐれ者たちがスーパー戦隊の中で最高最強の"ナンバーワン"を目指す物語!

『仮面ライダー』『スーパー戦隊シリーズ』各シリーズを多数手掛けてきたレジェンド監督と3代にわたり特撮作品の物語を紡いできた新進気鋭の脚本家に制作への思いを語ってもらった。

■歴代戦隊も登場。お祭り作品に

――まずは初めておふたりがお会いしたときのお互いの印象を教えてください

井上亜樹子(以下、井上) 初めてお会いしたのは『仮面ライダーガッチャード』(2023年9月放映開始)の19話の打ち合わせでした。最初は緊張しましたが、すごく丁寧に接してくださって、すぐに緊張が解けたのを覚えています。

田﨑竜太(以下、田﨑) うれしいお言葉。忖度じゃないですよね?(笑)。僕ね、実は亜樹子先生が子供の頃にお会いしてるんですよ。

井上 そうなんですか!?

田﨑 初期の平成仮面ライダーの試写会で"大先生"(脚本家・井上敏樹氏)に娘だと紹介されたんです。あの頃は子供だったのに立派になられて。

井上 ありがとうございます。

田﨑 僕は敏樹先生と同世代だから亜樹子先生とは親子ほども年が離れていますが、若い方と仕事をするのは楽しいですよ。

世代間ギャップというか、自分の知らない世界をたくさん知っているし、仕事の中でも「今はこうするんだ」と教えてもらうことがけっこうあるんです。

――そんなおふたりがパイロット監督とメイン脚本家という形で今回再会されました。スーパー戦隊50周年記念作品で、その名もズバリ『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』。

田﨑 仮面ライダーや戦隊は"周年"の年はとりわけ気合いを入れる(笑)。もっと若い監督がやるべきとも思ったんですけど、ご指名を受けたので年寄り(笑)が精いっぱいがんばらせてもらいます。

何せ僕は(スーパー戦隊シリーズ第1作の)『(秘密戦隊)ゴレンジャー』(75年放映開始)を子供の頃にリアルタイムで見てましたからね。

井上 私は特撮歴がまだ2年なので、まさかこんなに早くメイン脚本家でお声がけいただけるとは......。

しばらく実感が湧かず、任命していただいたもののメインとしてちゃんとスタートまで持っていけるのかがまず不安でした。今はなんとか転がりだして、ひとつホッとしています。

『ナンバーワン戦隊 ゴジュウジャー』(左から)ゴジュウレオン、ゴジュウユニコーン、ゴジュウウルフ、ゴジュウイーグル、ゴジュウティラ 『ナンバーワン戦隊 ゴジュウジャー』(左から)ゴジュウレオン、ゴジュウユニコーン、ゴジュウウルフ、ゴジュウイーグル、ゴジュウティラ

――本作は歴代戦隊の登場もにおわせていますね。

田﨑 50周年なので、そういう企画にはしたいという話がまずありました。本作が"ナンバーワン戦隊"と銘打ったのは、そういった過去作品の中でナンバーワンを目指すというコンセプトからなんです。

井上 歴代戦隊をたくさんフィーチャーするということで、お祭り作品な立ち位置になるかなと思ってます。ただ、喜びの声だけでなく、「俺の持っていたイメージと違う!」といった反応もあるかもしれませんが......。

■田﨑氏も驚いた亜樹子氏の脚本

――井上先生のお父さまの井上敏樹先生といえば、登場するヒーローや設定が斬新すぎる『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(22年3月放映開始)や、古くは『鳥人戦隊ジェットマン』(91年2月放映開始)といった革新的な作品を手がけてきました。

井上 実は私は父の作品も特撮もあまり見たことがないんです。だから今回の最初のシナリオ会議で「見たことのある戦隊はなんですか?」と聞かれて、「『ドンブラザーズ』は見ました」と言ったら「あ、今回のはそういうのじゃないんで、それは一回忘れてください」と言われてしまいました(笑)。

――(笑)。井上先生は子供時代にどういった作品に触れてこられたのですか?

井上 私の親世代が読んでいたような昭和の少女漫画とかホラーも昔から好きでした。あとは『銀魂』とか主に(少年)ジャンプ系の漫画も読んでましたよ。でも私の作風にあまりジャンプ的なDNAはないのかな。

"友情・努力・勝利"みたいな王道的展開よりはシュールだったり、人間の意外な感情にスポットを当てた展開が得意かもしれません。

田﨑 それはなんだか腑に落ちる。『ゴジュウジャー』でも「王道じゃなくてそっちいくんだ」みたいな意外な展開がありました。

井上 プロデューサーはもうちょっと王道に寄せてほしいみたいですけどね(苦笑)。

毎週、怪人とヒーローたちが"人気者""きらめき"など漠然としたテーマでトップを競い合うだけに「勝負の方法にはいつも悩みます(苦笑)」(井上氏) 毎週、怪人とヒーローたちが"人気者""きらめき"など漠然としたテーマでトップを競い合うだけに「勝負の方法にはいつも悩みます(苦笑)」(井上氏)

――田﨑監督は井上敏樹先生ともお仕事をご一緒してますが、井上亜樹子先生との共通点を感じることは?

田﨑 敏樹先生も亜樹子先生もストーリーの破綻を恐れない。すべて整合性が取れてて説明がついて、お弁当箱の中に全部キレイに収まっているような(脚)本を書く人がいる一方で、ふたりはお弁当箱からはみ出すことがあっても、それが作品の面白さにつながるところは似ているなと思いますね。

井上 自分の中では暗中模索で......。

田﨑 最近の特撮ってバラエティ要素も多くて話が散らかっちゃいがちだけど、亜樹子先生の本はバラエティはバラエティとして機能させつつ、見せる部分はしっかりと見せる、その軸足の動かなさはスゴイですよ。

井上 光栄です。一度読み合わせにお邪魔したときに、監督が俳優さんたちにセリフの意図を説明されていたんです。

私の中ではフィーリングで書いていたセリフが監督の指導で「そういう意味だったのか」と逆に気づかされることもあって。ひとつひとつのセリフにここまで向き合ってくださるなんて本当にありがたいことだなと思いました。

田﨑 ゼロから作品を生み出すシナリオライターが一番大変ですからね。僕は本を読み込むことしかできないから。

井上 でも、2話で遠野吠(とおの・ほえる/ゴジュウウルフ)が自分の大切なものについて語るシーンは、シナリオを書いている段階ではそこまでお気に入りではなかったんです。それが映像になるとすごく大きな意味を持つシーンとして描かれていて、さすがだなと。

■ファンも驚くようなアクションあり

田﨑 吠は魅力的なキャラクターですよね。何しろ二人称が"てめぇ"だから。お母さま方に受け入れてもらえるかビクビクしてますが(笑)。

井上 私としてはその"尖り"を諦めたくないんです。キャラクターを好きになってもらえればどんなお話でも楽しんでもらえるくらいキャラクター造形って大事じゃないですか。

打ち合わせでも吠は視聴者に愛されるかという声もあったんですが、演じる冬野(心央)さん自身のキャラクターと相まって、不良チックだけどかわいげある人物になったと思います。

テガソードレッド。今回のロボットは、短剣型の変身アイテムが巨大化・変形。また自我も持つ テガソードレッド。今回のロボットは、短剣型の変身アイテムが巨大化・変形。また自我も持つ

田﨑 本だと今20話くらいまで上がっていますが、すでに各キャラクターたちが勝手に走り出した感じがしてますね。そういう意味でも亜樹子先生のキャラクター造形は見事。やっぱりツルンとしたキャラクターよりけば立ってたり、逆立ってたりしてるほうが摩擦が生まれて物語が面白くなるんです。

井上 人間ドラマというか、群像劇みたいにしたいのはありますね。ただ、『ガッチャード』で初めて特撮を書いたときにすごくアクションの力を感じたんです。だからドラマを大切にしつつ、アクションが引き立つ話にしたいと思ってます。

――本作のアクションの見どころは?

田﨑 それに関してはぜひ言っておきたい。『ゴジュウジャー』はスーパー戦隊というよりはスーパーロボットもので、過去作品にない激しいアクションにはファンもきっと驚くと思いますよ。(特撮監督の)佛田(洋)さんが気合い入れてやってくれてます。

井上 私は今までロボットアニメにハマったことがなかったのですが、本作のアクションシーンは本当にカッコいい! ロボットのおもちゃが欲しくなりました(笑)。

■初の女性ブラック。その狙いとイメージ

――今回の特集号ではゴジュウユニコーン、一河角乃役の今森茉耶さんや女性敵幹部、ブーケ役のまるぴさんがグラビアで登場しています。おふたりからご覧になって彼女たちはいかがですか?

井上 まるぴさんはフィーリングというより物事を知的に突き詰める方という印象ですね。ちなみにブーケがブチギレるシーンがあるのですが、(執筆時の)私の想像より100倍くらい怖くて、夢に出てきました(笑)。

田﨑 (笑)。まるぴさんはバラエティ的なお仕事も含めてキャリアがけっこうあって、彼女の素の部分を生かして今回の役に入っていくこともできた。

でも彼女はあえてこれまでのまるぴの殻を脱ぎ、ブーケというキャラをゼロベースで構築しようとしてる。それは真面目な取り組みだし、この作品を走り終えたとき、きっと新生まるぴ、"まるぴ2.0"になってるはずです。

ブーケ(まるぴ)。敵組織・ブライダンの幹部でテクニカル隊長。超絶かわいい上に物腰が低く、丁寧で優しい性格。「慈愛のブーケ」と呼ばれるが、果たして!? ブーケ(まるぴ)。敵組織・ブライダンの幹部でテクニカル隊長。超絶かわいい上に物腰が低く、丁寧で優しい性格。「慈愛のブーケ」と呼ばれるが、果たして!?

井上 期待したいです。今森さんは直感的に物事をつかまれる方だと感じました。

田﨑 われわれは彼女のことを"マヤヤン"と呼んでるんだけど、マヤヤンは確かに天才タイプ。お芝居ってその世界にどう入り込むかが重要な中で、彼女はその"入り込み力"がスゴイ。

あるシーンの撮影で、台本部分が終わってもカットをかけなかったんです。ですが、彼女は高次元で役に入り込んでいるから、長回しでもセリフや動きがいくらでも出てくる。これでまだ18歳というのだから今後が楽しみです。

一河角乃ゴジュウユニコーン(今森茉耶)。警察学校に通っていたが、ある事件をきっかけに同僚たちから疎外されはぐれ者に。現在は「ハイクラス名探偵」。クールだが、時に愛嬌も武器に 一河角乃ゴジュウユニコーン(今森茉耶)。警察学校に通っていたが、ある事件をきっかけに同僚たちから疎外されはぐれ者に。現在は「ハイクラス名探偵」。クールだが、時に愛嬌も武器に

――スーパー戦隊初の女性ブラックでもありますね。

田﨑 プロデューサーから聞いてるのは、みんながナンバーワンを目指す戦隊にしたいという狙いから、かわいらしいピンクよりも強そうに見せるブラックにしたと。確かに角乃のラグジュアリーでハイソサエティなキャラクターって女性ブラックならではかな。

井上 そうですね。書く上で『東京カレンダー』の表紙のイメージは少し意識してます(笑)。ただ、「みんながナンバーワンを目指す」という本作のテーマは最初の会議でも、「オンリーワンが大事という世の中で、ナンバーワンにこだわっていいのか」という話は出ましたよね。

田﨑 そう。でも"ナンバーワンよりオンリーワン"という手あかのついた言葉ってやっぱりきれいごとで、そのレトリックにハマらない時代になってきてるんじゃないかと個人的には思います。

今の日本って成功者とか、出るくいを叩いて、自分たちのレベルまで平均を下げようって社会の風潮があるじゃないですか。でもこれがアメリカとかだったら自分たちも出るくい側に、つまりナンバーワンになろうとするメンタルがある。そっちのほうがある意味で現代的だと思うんです。

「これまでのスーパー戦隊の中でも今回はコメディとシリアス、両方楽しめる作品。その振り幅の広さを1年間キープできたら」(田﨑監督) 「これまでのスーパー戦隊の中でも今回はコメディとシリアス、両方楽しめる作品。その振り幅の広さを1年間キープできたら」(田﨑監督)
井上
 そうですね。それと、ヒーローたちはみんな肉親と確執があったり、仕事をクビになっていたり、家族や社会からの"はぐれ者"。だから、横並びの仲間というよりはライバル同士の関係で描かれているのも特徴です。

田﨑 脱落者たちの戦隊と言えるかもしれません。脱落に対してリベンジだったり復活だったりしつつ、ナンバーワンを目指す姿もある意味で現代的だと思いますね。

井上 私自身、今後はまだ全然見えてませんが、ひとつ思っているのは吠が多大なる自己犠牲を払って丸く収めるような展開にはしたくないということ。一時的な自己犠牲はあったとしても、日々粛々と生きていくような、日常を大切だと感じられる物語にしたいです。

――最後に、次の新しい50年に向けてスーパー戦隊シリーズはどうなっていくと思いますか?

田﨑 僕みたいな年寄りがいなくなって若い人がやっていけば、若い感覚、新しい発想の戦隊がどんどん出てくるんでしょうね。でも、100周年でも相変わらず「ヒャクジュウジャー」とかやってる気もするけどね。

井上 それはそうかもしれません(笑)。

●田﨑竜太(たさき・りゅうた)
1964年生まれ、東京都出身。95年『超力戦隊オーレンジャー』で監督デビュー。以降、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズなど、東映特撮作品を数多く手がける。2022年の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ではパイロット監督を務めた

●井上亜樹子(いのうえ・あきこ)
東京都出身。2016年『魔法つかいプリキュア!』で脚本家デビュー。23年の『仮面ライダーガッチャード』で特撮作品に初めて参加する。祖父・伊上勝、父・井上敏樹は共に脚本家で、一家3代にわたり特撮作品を手がけることに

■『ナンバーワン戦隊 ゴジュウジャー』
各分野でトップを極めた「ナンバーワン怪人」や歴代レッドの力を持つライバルらと戦い、最高最強の"ナンバーワン"を目指し、戦いを繰り広げる。毎週日曜9時30分~テレビ朝日系で放送中