プロデューサーの辻本良三氏(右)とアートディレクター兼エグゼクティブ・ディレクターの藤岡 要氏(左) プロデューサーの辻本良三氏(右)とアートディレクター兼エグゼクティブ・ディレクターの藤岡 要氏(左)

全世界累計売り上げ1億本を突破した人気シリーズ 『モンスターハンター』の最新作が発売間近! ということで、同作を開発・リリースする「カプコン」のキーマンふたりに直撃。進化を遂げた 『モンスターハンターワイルズ』の魅力と開発秘話に迫る!

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■モンスターと人が共生する世界を描く

――『モンスターハンターワイルズ』(以下、MHWs)発売目前ですが、心境はいかがですか。

辻本 とにかく忙しくて、まだ何か思いにふける時間がないというのが本音です(笑)。

藤岡 昔はゲームが完成したら「あとは待つだけ!」という時代もありましたが、今は発売後のアップデートに向けてやることも多く、発売への実感はまだ湧かないですね。

――最新作にはかなり注目が集まっています。

辻本 特にグローバルでの反応が顕著ですね。2018年の『モンスターハンター:ワールド』(以下、MHW)発売時と比べても熱量がまったく違って、ユーザー層が広くなったとめちゃくちゃ感じます。

藤岡 MHWは日本国内にユーザーが集中していたモンハンシリーズを海外にも広めようと試みたタイトルで、その挑戦は成功したと思います。そのときと比べてMHWsは、すでに世界に広まったモンハンというゲームの進化・変化が期待されている、という感覚です。

次世代機だからこそ表現できた自然の景観は、それぞれ雄大かつ美しい。ちなみに『ワイルズ』は時間経過により天候の環境変化があり、特定の環境で出現するモンスターも存在する 次世代機だからこそ表現できた自然の景観は、それぞれ雄大かつ美しい。ちなみに『ワイルズ』は時間経過により天候の環境変化があり、特定の環境で出現するモンスターも存在する

――では、その進化について教えてください。

藤岡 MHWsで特に意識したのは〝没入感〟です。ゲーム性やリアルなグラフィック、アクションの流れなど、その世界に入り込んでいるかのような体験をしてもらうにはどうしたらいいかを突き詰めました。

――具体的には?

藤岡 ひとつは「シームレスさ」ですね。従来のモンハンは拠点でクエストを受注してからフィールドへ行き、モンスターをハントして、また拠点へ、という往来を繰り返す形だったのですが、没入感が途切れる瞬間がありました。しかし、今作では拠点に戻らずクエストに連続で挑戦することができます。

また、モンスターたちの生態系の描写もレベルアップしています。

『ワイルズ』に登場する新モンスターたちの(ほんの)一部。「鎖刃竜アルシュベルド」。白い孤影と呼ばれその生態は謎に包まれている 『ワイルズ』に登場する新モンスターたちの(ほんの)一部。「鎖刃竜アルシュベルド」。白い孤影と呼ばれその生態は謎に包まれている

「波衣竜ウズ・トゥナ」。豊富な水源に適応した生態で集中豪雨の際に目撃されることが多い海竜種 「波衣竜ウズ・トゥナ」。豊富な水源に適応した生態で集中豪雨の際に目撃されることが多い海竜種

――MHWでは、森の木々になった木の実を食べ、体内の毒液と混ぜ合わせることで毒ブレスを吐く「プケプケ」や、ほかの生物の巣から卵を盗み出し、自らの食料にする「クルルヤック」など、モンスターたちの独自の生態系を丁寧に描写していましたね。

藤岡 MHWsでは、例えば大型モンスターも群れで一斉に行動し、群れ同士が争う様子など、より高度な処理を必要とするシーンも積極的に組み込みました。

また、MHWsではモンスターと共存している人々の生活にも目を向けています。モンスターやそのほかの生物の生態ピラミッドに人間も含んでいるイメージです。

例えばモンスターが安定している期間には人々も生活のため水汲みや鉱石掘りへ出かけますが、モンスターが攻撃的になる時期は静かに暮らしている、といった具合に人間とモンスターが共生する奥行きある世界を冒険してもらえればと思います。

モンスターがいない間に水を汲みに行く人々。『ワイルズ』ではモンスターと人間の共生関係も描かれる モンスターがいない間に水を汲みに行く人々。『ワイルズ』ではモンスターと人間の共生関係も描かれる

■「オトモアイルー」が人の言葉を話す!

――従来のシリーズにはなかった新要素として、MHWsでは2種類の武器を持ち込んで、モンスターに挑むことができるようになりました。

辻本 シリーズを知っている人ほど驚くシステムだと思います(笑)。ただ、これは「武器をふたつ持てるようにしてみよう!」というアイデアが先行したシステムではないんです。

藤岡 先ほども言ったように、拠点に戻らず連続でクエストに挑めるシステムのため、狩りの戦略の幅を広げる必要がありました。先を見据えてサブ武器を用意するなどして、より冒険のプランを考えてもらいたいです。

モンスターを狩猟中の画面 モンスターを狩猟中の画面

本作から登場する乗用動物「セクレト」は広いマップを移動するのに欠かせない相棒だ 本作から登場する乗用動物「セクレト」は広いマップを移動するのに欠かせない相棒だ

――武器アクションの進化についても教えてください。

藤岡 モンスターに攻撃を与えていくと弱点となる傷口が生まれ、そこを狙うとダメージが上がります。また、その部位を狙って「集中弱点攻撃」を当てることでモンスターの怯みも狙うことができるので、まず傷を狙って、大技を出したら次は別の箇所を、と遊びに変化が生まれます。

辻本 集中モードを使えば、カメラの方向に攻撃できるのでモンハンのアクションで重要な距離感をつかみやすいですよ。

ちなみに、「新しい武器は登場しないんですか?」という質問もいただくのですが、今回は従来の武器それぞれの長所を伸ばす調整によって新しいアクション体験を目指しています。

シリーズのマスコットキャラとも言えるサポートモンスター「オトモアイルー」。今回は人の言葉を話せるようになり、声をかけながらハンターを支える シリーズのマスコットキャラとも言えるサポートモンスター「オトモアイルー」。今回は人の言葉を話せるようになり、声をかけながらハンターを支える

――そういえば、シリーズ定番のサポートモンスター「オトモアイルー」が、本作で人間の言葉を話してくれるようになりました。

藤岡 フィールドや天候によって狩りの環境がどんどん変わるので、ボイスで「今はこんなことができるよ」とサポートしたほうがチャンスを見逃してしまう人が減るだろうと考えたからですね。言葉を話すことでキャラクター性が深まり、相棒としていっそう親しめる存在にもなってくれると思います。

――MHWsにおいて、シングルプレイとオンラインで複数の人と一緒に遊ぶマルチプレイの違いについてはどう考えていますか。

辻本 データを見るとシリーズを通してマルチが人気ではありますが、シングルで遊ぶ方も、もちろん多いです。

藤岡 「シングルプレイで遊び続けられますか?」という質問もよくありますが、心配ありません。モンスターハンターは「4人のハンターが協力して1体のモンスターに挑む」が遊びのベースになっていますが、ひとりでのプレイでもNPC(プレイヤーが操作しないキャラクター)である「サポートハンター」を活用すればその体験が十分に可能なように設計しています。

辻本 マルチプレイへのハードルを感じる方や初心者の方は気軽にサポートハンターを呼んで、「皆で狩る」体験に慣れてもらえたらいいですね。

――プレイの難易度についてはどう設計されていますか。

藤岡 初めて遊ぶ方も少しずつアクションを覚えていけるような〝階段〟の設計は意識しています。

辻本 階段を上がった先にある達成感や気持ち良さを味わってほしいですね。

過去の作品を手に取っていただいたのに離れてしまった人たちのことは私たちもかなり分析しましたが、迷子になってしまったり、ふと手に取った武器が合わなかったりと「ゲームの面白さまでたどり着けない」ことが問題になっていました。

ですので、今回はゲーム序盤でプレイヤーにアンケートを取って、オススメの武器をサジェストする機能も取り入れています。

――MHWsでは過去のシリーズに登場したモンスターの復活も話題になっていますね。

藤岡 登場モンスターは毎タイトルさまざまな目線で判断しています。人気があってもキャラクター性を崩してまでは出せないですし、新鮮さも気にしています。

今作は調査の手が及んでいない「禁足地」と呼ばれるエリアが舞台なので、序盤は初登場のモンスターとの出会いを楽しんでいただいて、合間合間で懐かしいモンスターが登場することで安心感や進化を感じてもらえるかな?と、ユーザーさんの新鮮さや体験の流れも考えて選んでいます。

復活モンスターとして話題になったのが「イャンクック」。旧作では序盤に登場し、プレイヤーがハンティングの基本を体得するのに最適な相手であることから一部では「先生」と慕われてきた 復活モンスターとして話題になったのが「イャンクック」。旧作では序盤に登場し、プレイヤーがハンティングの基本を体得するのに最適な相手であることから一部では「先生」と慕われてきた

――復活モンスターにも背景があるのですね。

藤岡 はい。例えばシリーズの名物モンスター「イャンクック」が復活するのですが、このモンスターは元から群れで行動するという設定があり、群れが描けるようになった本作と相性が良いと考えての起用となりました。

最新機種ならではの制御ができることもあり、僕たちも「このモンスターを今の技術で作り直すとどうなるんだろう」と、ワクワクしながら作りましたね。

『ワイルズ』に登場する謎の少年「ナタ」。従来シリーズよりも厚みと面白さを増した同作のストーリーにおいて、カギを握る存在だ 『ワイルズ』に登場する謎の少年「ナタ」。従来シリーズよりも厚みと面白さを増した同作のストーリーにおいて、カギを握る存在だ

■こだわりは食事シーンにも

――開発中、大変だったことは?

辻本 始動から6年くらい開発を続けていますが、もう大変なことだらけですよ(笑)。そういえば、藤岡はずっと「ナン」を作っていたよね。

――「ナン」? カレーとかと一緒に食べる、あのパンのことですか?

辻本 それです。「ナン」とそれを食べるシーンのグラフィックにめちゃくちゃこだわっていたんです(笑)。

藤岡 「シンプルな食材をおいしく見せたい」と考え、平焼きのパンに溶かしたチーズをのせて食べるシーンを、それこそ2、3年ぐらいずっと試行錯誤しながら作っていました。

CGで料理をおいしそうに見せるのって実はかなり難しいんです。しかもキャラクターが食べるシーン込みで、動いている形でそう見せるのは相当にハードルが高い。

でも、デザイナーはものすごく努力してくれて、僕も〝食べる演技〟をたくさん研究しました。そのかいあって、納得できる出来になったと思います。

辻本 チーズの垂れ方から、ちぎったパンの外はパリッと、中はモチッとした感じまで、本当に細かいところにこだわっていたよね。開発初期の試作版から、めっちゃ長い食事シーンが入っていたし(笑)。

モンハン名物の食事シーン。今回の「こんがり肉」はシズル感マシマシで、プレイ中に腹が減ること間違いなし!? モンハン名物の食事シーン。今回の「こんがり肉」はシズル感マシマシで、プレイ中に腹が減ること間違いなし!?

――モンハンは「こんがり肉」に代表されるように、プレイヤーの食欲を誘うような食の描写が秀逸でしたが、MHWsでその進化系が見られるわけですね。では、最後に、MHWsを「こう遊んでほしい」というのがあれば教えてください。

藤岡 今回はアクションやグラフィックだけでなく、これまでのシリーズ以上に「ストーリー」に力を入れています。エンディングまで遊んでほしいですね。

その後は皆でワイワイ遊ぶのもよし、ひとりでじっくりと高難易度のモンスターを攻略するのもよし、ずっと釣りをするのでもよし、自由に遊んでいただけたらと思います。

辻本 自分でテストプレイしていても、やめ時がわからない仕上がりになりました。久々にシリーズをプレイするという方にも「今のモンハンってこんなに変わったんだ!」と、ゲームの進化を味わっていただければうれしいです。

●『モンスターハンターワイルズ』 
《開発・販売》カプコン 
《対応プラットフォーム》○PlayStation 5 ○Xbox Series X/S ○Steam(PC) 
INTRODUCTION 
2024年に20周年を迎えた『モンスターハンター』シリーズの最新作。ハンターたちの支援組織であるギルドは未踏の領域「禁足地」との境界でひとりの少年「ナタ」を保護した。謎のモンスターの襲撃から単身生き延びた彼の言葉を手がかりにギルドは調査隊を結成。「白の孤影」と呼ばれるモンスターの調査と、襲撃された守人一族の救助を任命されたハンターたち「調査隊」の旅が始まる。

●辻本良三(つじもと・りょうぞう) 
1996年、カプコン入社。2004年、『モンスターハンター』1作目ではネットワークのプランニングや運営などを担当し、2007年の『モンスターハンターポータブル 2nd』以降は一貫して同シリーズのプロデューサーを務める。

●藤岡 要(ふじおか・かなめ) 
1993年、カプコン入社。アーケード格闘ゲームのグラフィックデザイナーを経て、『モンスターハンター』シリーズのディレクターに。最新作ではアートディレクター兼エグゼクティブ・ディレクターを担当。