桃月なしこ
『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975~1977)の放送をきっかけにスタートしたスーパー戦隊シリーズが2025年に50周年を迎える。2月17日発売の『週刊プレイボーイ9・10号』の特集「素顔のスーパー戦隊ヒロイン大集結」では、歴代ヒロイン5名のインタビューを最新撮り下ろしカットとともに連続掲載した。
そちらの本誌特集では掲載しきれなかったインタビューの<完全版>を週プレNEWSで5日間に渡って配信。今回はシリーズ第44作『魔進戦隊キラメイジャー』(2020~2021)でヨドンナを演じた桃月なしこさんが登場。
ヨドンナは、大敵・ヨドン皇帝直属の秘書官を名乗る、ヨドン軍の幹部。普段は悪漢鞭を持ち、打ちつけることで、邪面師(怪人)やベチャット(兵士)をパワーアップさせる能力を持つ。当時の心境や秘蔵エピソードなどを通じて、作品の魅力を語る。
* * *
――もともとヨドンナは、どんな経緯で演じることになったのでしょうか?
桃月 『キラメイジャー』は通常のヒロインオーディションの後に悪役オーディションがあって、それを受けました。決まったときは、すごく嬉しかったですね。特撮好きの父の影響で、幼い頃は『忍風戦隊ハリケンジャー』や『爆竜戦隊アバレンジャー』が好きだったし、あとお芝居の仕事を始めた頃から、いつか特撮作品で悪役を演じてみたいと思っていましたから。
――ヒロインではなく悪役を、ですか?
桃月 はい。私、悪役向きの性格というか、ヒロインって柄じゃないんですよね(笑)。
――いやいや、そんな(笑)。ヨドンナは、キラメイジャーの宿敵・ヨドン皇帝直属の秘書で、冷酷無情なキャラクター。役作りで心がけたのは?
桃月 当初は「ラスボスの部下」「冷酷無情」「ほとんど感情がない」ってことくらいしか聞いていなかったんです。ただスーパー戦隊シリーズって、それまで8年にわたって、顔出しの女幹部は出ていなかったらしくて。エスケイプ(特命戦隊ゴーバスターズ/演・水崎綾女)が最後かな。
であれば、せっかくだし、いままでにないキャラクターにしたいなと思いました。過去の作品を見返して、女幹部たちがやっていないことを研究して。その上で笑顔を見せないとか、動きのパターンとか考えながら、役作りしていきましたね。
――ヨドンナは自分を「ボク」と呼んだり、舌を出しながら目をむいて見下ろすキメ顔が印象的でしたね。
桃月 「ボク」と「舌を出す」は台本に書いてあったんですけど、目をむく表情は自分で考えました。そうすると怖いかなと思って。これまでの女幹部ってどこか小悪魔っぽくて可愛い感じがあったので、それにはしたくなかったんですよね。それこそ悪役ですし、好かれちゃいけない、たくさん嫌われようと思っていましたから。
――ビジュアルも非常に斬新でした。銀のアシンメトリーなヘアスタイルで、ミリタリー系の衣装を着て。
桃月 コスプレをやっているので、楽しんじゃいました。乃木坂46さんとかアイドルも好きだし、ロリータにも憧れがあるので、"軍服ロリータ"っぽい衣装はすぐ気に入りましたよ。
これまでの女幹部は胸元が空いていたり、ハイレグだったりと肌の露出がありましたよね。一方でヨドンナは露出がないのが意外というか。新しいスタイルなんだと思って、さらに気合いを入れました。
――桃月さんは番組中盤からの出演でしたが、現場にはすぐに馴染めました?
桃月 ヨドン軍のガルザとクランチュラを担当されたスーツアクターの矢部敬三さんと神尾直子さんと一緒にいる機会が多かったんですけど、おふたりとも優しく話しかけてくれるんです。それがすごく嬉しくて。最初、緊張はありましたけど、おかげで楽な気分で演じられました。
――現場で苦労したことは?
桃月 う~ん、特にはなかったですね。朝早いとは聞いてたけど、ちょうどコロナ禍で、比較的ゆっくりな6時入りだったんです。4時、5時ではなかったです。常にマスクをつけなくてはいけないから、メイクが落ちるとかの苦労はあったけど、それくらいです。
あ、苦労したといえば衣装です。夏は見ての通りの重装備なので暑いんですよ。ネクタイ部分はかさばらないよう、つけ襟にしてくれたり、裏地をメッシュ加工にしてくれたりと衣装制作の方が工夫してくださったけど、それでもたくさん動きますから。
逆に冬は寒い。肩にある鳥の飾りが邪魔で、ベンチコートが着られないんです(笑)。風邪ひかないようにするとか、体調管理には気を遣いました。
――約半年間にわたる撮影で、転機はありました?
桃月 一番アクションを頑張った34話(『青と黄の熱情』)ですかね。ヨドンナって、そもそもアクションをやる設定ではなかったんです。それが登場回の25話(『可愛いあの巫女』)でキラメイエロー(演:木原璢男)を蹴飛ばすシーンを撮ったら、思ったより楽しくて(笑)。「アクションもやりたいです」とプロデューサーさんに話したところ、実際にやることになったんです。
――34話は戦闘だけでなく、爆破シーンなどもありました。
桃月 あの時は炎に囲まれましたね。実際の炎とは距離があって、熱さを感じることはないんですけど、"爆破"はやり直しがきかないんですよ。「一発で決めろ」って指示があり、それは圧がかかりました(笑)。撮影を終えたら達成感があって、それ以降はのびのびと演じられるようになりました。
――達成感が自信になったんですかね。アクションはもともと得意だったんですか?
桃月 いえ、まったく(笑)。『キラメイジャー』の前に殺陣のある舞台に出たことがあったんですけど、初めてだったのと練習期間が短かったこともあり、ろくにできず周りの足をひっぱっちゃったんです。アクションはもう2度とやりたくない!と思うほど、トラウマになったんですけど、おかげでそれを払拭できて、さらにアクションの楽しさまで覚えました。
――素晴らしい! 出演された中で特に印象的なエピソードというと、やはり34話ですか?
桃月 登場回、最終回が印象に残るのは当たり前として、それ以外だとやはり34話かな。あと35話(『マブシーナ放浪記』)ですね。アイスを食べて「ん!? うまい!」って驚くシーンがあって、それが予想以上に受けたので。
――「ヨドンナ=アイス好き=可愛い」みたく話題になりましたよね(笑)。
桃月 それと36話(『RAP【ラップ】』)で、ラップをしたのも印象に残っています。ラップはアフレコで入れたんですけど、ものすごく大変で! 何度も何度も録り直しました。
――アイスといい、ラップといい、制作陣がヨドンナというキャラを面白がっている様子が伝わってきます。そうした演出に伴い、ヨドンナ人気はどんどん上がっていきました。
桃月 そうですね。オンエア直後は毎回、ヨドンナがトレンドワードにあがっていて、みんな注目してくれてるんだなと思っていました。
ヨドンナはもともとゲスト、あるいは準レギュラーの位置付けだったんです。スタッフさんから「人気がなければ、すぐ死ぬから」とも言われていましたし、台本はもらう時は、今回は登場するのかどうか、そこからチェックしていました。それがまさか、最終話まで毎回出演して、さらにはスピンオフ(『ヨドンナ』)までつくっていただくなんて......。自分でも本当にびっくりしましたよ。
――そのスピンオフはパート4まで制作され、本編以上に激しいアクションあり、キュートなコスプレありと、さらにヨドンナの魅力あふれる作品でした。
桃月 最初、スピンオフのお話をいただいたとき、アクションとゴスロリっぽい衣装を着たいとお話をしたんです。そうしたら、パート1でネコ耳&メイド服姿のままバチバチのアクションをやるという展開になって。いや、もう最高でしたね(笑)。
――大満足だったと(笑)。桃月さんにとって『キラメイジャー』のヨドンナ役とはどんな存在ですか??
桃月 えー、なんだろう。欠けがえのない存在というか......恩人ですかね。もしヨドンナを演ってなかったらお芝居の仕事もこうして続けていなかっただろうし。今の自分もいないです。本当に世界が変わりましたよ。
――そこまで! 今後、ヨドンナがまたどこかで登場することもあるかもしれませんよね。
桃月 いやもう、また演りたいですよ。キラメイジャー関連じゃなく、他作品のスピンオフでもいいので(笑)。また彼女と出会える日を本当に楽しみにしています。
●桃月なしこ(ももつき・なしこ)
1995年11月8日生まれ 愛知県出身
○bisレギュラーモデルや多数の雑誌に出演。女優として特撮作品から映画、連続ドラマまで幅広く活動中。日本テレビショートドラマ『センサイのシナリオ』では主演・大島明日実役として出演中