「CAPCOM CUP 11」優勝候補ときどが語る「戦いにかける覚悟」と「格ゲーブームの行方」 「CAPCOM CUP 11」優勝候補ときどが語る「戦いにかける覚悟」と「格ゲーブームの行方」

3月5日から9日にかけて東京・両国国技館で開催される 「CAPCOM CUP(カプコン・カップ) 11」は 『ストリートファイター6』の世界最強を決めるビッグイベントだ。優勝賞金は100万ドル(約1億5000万円)!

限られた強者しか出場できない本大会で、頂点を狙う日本人選手・ときどに本誌が直撃! 東大卒という経歴を持ちながら、格闘ゲームに人生をささげた男の背中を見よ!

■『ストⅡ』以来の熱

――『ストリートファイター6』(以下、スト6)の世界大会「CAPCOM CUP 11」が目前に迫っていますが、ときど選手が同大会に出場するのは、2019年以来です。

ときど 長い間出場できなかった悔しさを日本で爆発させたいので、気合いが入っていますよ。

――『ストリートファイター』の大会が両国国技館(東京都墨田区)で開催されるのは、『ストリートファイターⅡ』(以下、ストⅡ)の全国大会から数えて約30年ぶりなんですね。

ときど ストⅡの発売当初(*1)はまだ幼かったので、僕は当時の"熱"を直接体感できていないんですよ。  

今、『ストリートファイター6』ブームは本当に勢いがあって、そのおかげで日本開催が実現したと思いますし、格闘ゲームが世間に「根づいたな」って感じます。街を歩いていて声をかけていただく機会も増えていて、ヘタなことはできないなと(笑)。

(*1)『ストⅡ』の発売当初 
1991年にアーケード版が稼働し、1992年にスーパーファミコン(SFC)へ移植。SFC版は爆発的なヒットを記録し、全国で格ゲーブームを巻き起こした

3月5日(水)から開催!「CAPCOM CUP」は『ストリートファイター』シリーズで世界最強を決めるカプコン公式世界大会だ 3月5日(水)から開催!「CAPCOM CUP」は『ストリートファイター』シリーズで世界最強を決めるカプコン公式世界大会だ

大会が実施される両国国技館(東京都墨田区)。かつて『ストⅡ』の全国大会が行なわれた、同シリーズとは縁がある場所だ 大会が実施される両国国技館(東京都墨田区)。かつて『ストⅡ』の全国大会が行なわれた、同シリーズとは縁がある場所だ

「CAPCOM CUP 11」の公式ロゴ 「CAPCOM CUP 11」の公式ロゴ

――スト6は誰もが操作しやすい新システム(*2)の実装などで、多くの新規プレイヤーを獲得しました。ただ、これほどのブームの背景には、ゲーム配信で大流行したことの影響がありますよね。

ときど ものすごい人気のある配信者(ストリーマー)の方が連日スト6を配信してくれていますもんね。プロ選手の力だけでは裾野を広げる活動に限界があると感じていたので、訴求力のある方たちのパワーに感謝しています。

(*2)誰もが操作しやすい新システム 
『ストリートファイター6』から登場した「モダン」操作のこと。従来のストリートファイターシリーズでは、特定のコマンドを入力して必殺技を出すシステムが定着していたが(例:波動拳↓?→+Pボタン)、本作では簡易的なボタンの入力だけで技を出す「モダン」が新しく登場し(波動拳:特定のボタンをひとつ押すのみ)、操作のハードルが高かった同シリーズを初心者にも広める大きな要因となった。本作は従来のコマンド式を「クラシック」、簡易版を「モダン」としている

――ただ、ほんの数年前までは格闘ゲームには「コアな人気はあるけれど、年齢層もハードルも高い」という視線がゲームファンからも向けられていました。

ときど 新しく始める人よりやめていく人が明らかに多い。そんな時期が続いていましたね。どれだけ自分が大会で勝っていても、プロの興行は見てくれる人がいなければ成立しません。プロになってからは「格闘ゲームに興味を持ってもらうためにはどうすればいいのか」を、ずっと考え続けてきました。

――「このままでは危ない」と感じたことは?

ときど 一番感じていたのはプロになった直後、14年頃ですね。国内では社会的な知名度も地位もなくて「友達にも職業は言えないな」と思えるくらいでした。

2023年6月に発売された対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター6』 2023年6月に発売された対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター6』

――窮地から脱するアイデアはあったのでしょうか。

ときど ウメハラさん(*3)を中心に、当時まだ日本に数人だったプロ格闘ゲーマーで集まって、将来について何度も話し合いました。解決策と言えるものではなかったかもしれませんが、ウメハラさんは「いつかチャンスが来るから、そのときに向けて準備はしよう」と話していました。

(*3)ウメハラさん 
梅原大吾氏のこと。日本人としては初のプロ格闘ゲーマーとして知られるレジェンドであり、ときど氏が東京大学大学院を2010年に中退してプロゲーマーになったのも、彼の存在やアドバイスが大きな後押しになった

――例えば?

ときど いろいろありますが、例えば"見られる存在"だということへの意識です。簡単に言うと、清潔感のある見た目になろうってことですね。

僕なんか美容院を紹介されましたからね。それまでは自分で髪を切ることもあったんですが、美容院なんてほとんど行ったことがなかった(笑)。

ときど氏が使用する「ケン」は、長い足技と画面端に運ぶ能力の高さが特徴的なキャラだ ときど氏が使用する「ケン」は、長い足技と画面端に運ぶ能力の高さが特徴的なキャラだ

――プロがストリーマーにコーチングをしたり、タッグを組んでイベントに出演したりと、格ゲー関連のコンテンツは広がりを見せていますね。

ときど 特に若いプロは積極的に交流していて、面白い取り組みにつながる可能性を感じますね。格闘ゲームというジャンルを盛り上げるため、ベテランも若手も皆が真剣に考えて行動しているのを感じます。

――ただ、格ゲーに漂っていた、ある種のアンダーグラウンドな雰囲気はだいぶ失われましたよね。ゲームセンターに若い人がたむろして、夜な夜な対戦にいそしむような。

ときど そうですね。ただ、あの頃の経験は僕にとってすごく楽しい思い出ですし、独特なエッセンスが継承されてくれたらなとも思っています。

時代に合わせた調整はしなければいけませんが、良いバランスで昔ながらの魅力も残していければ。

■業界を背負う自覚

――ときど選手は今や格闘ゲームのシーンを牽引する存在です。時には業界を背負って行動しなければならないときもありますか。

ときど その自覚はありますよ。最近、世界最大の格闘ゲーム大会「EVO(エボ)」(*4)の殿堂入り表彰式に出席するため、アメリカに行ったんですよ。カプコンカップ前ということもあり、「こんな時期にか~」と、正直気が進まなかった(笑)。でも、自分が「表彰式を欠席した前例」をつくってしまうのがどうしても嫌で、行くしかありませんでした。

その式の何が憂鬱だったかっていうと、英語でのスピーチ。英語はインタビュー程度なら話せるんですが、スピーチとなると適切な内容を考えて、話し方もしっかりしなければいけないでしょう? できれば日本語でやりたいなあ、と思ったんだけど......。

(*4)「EVO」
「Evolution Championship Series(エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ)」の略称。毎年夏にアメリカ・ラスベガスで開催されている格闘ゲームの世界大会。ときど氏は2002年に『CAPCOM VS SNK 2』、2017年に『ストリートファイターV』など計3つのタイトルで優勝実績があり、2024年からスタートしたEVOの殿堂選手を表彰する「Evo Hall of Fame」で梅原大吾氏、ジャスティン・ウォン氏(アメリカ)に続き3人目の殿堂入りを果たした

2014年7月、「第4回TOPANGAチャリティーカップ」に出場したときど氏(撮影・写真提供/大須晶) 2014年7月、「第4回TOPANGAチャリティーカップ」に出場したときど氏(撮影・写真提供/大須晶)

――しっかりと英語でスピーチしていましたね。

ときど 去年、僕はストリートファイターリーグ(SFL)のチームメイトとして、韓国人の選手「LeShar(レシャー)」(*5)を招き入れたんです。初の海外選手とあって彼にはインタビューの打診もすごく多かったのですが、本人は当初「僕は日本語が全然できないから、できるなら断りたい」と言っていました。

でも、僕からすれば、十分に話せていると見えたんです。だから「これもチャレンジだから日本語でのインタビューを受けなよ」と諭してきた。

そのことが、どうしても頭をよぎってしまったんですよね。ここで僕が日本語でスピーチしたら、すごくダサいやつになってしまうな、と。だから意を決して、英語でスピーチしました。大会よりも緊張した(笑)。

(*5)「LeShar(レシャー)」
韓国のeスポーツチーム「DRX」に所属するプロゲーマー。昨年から日本における『スト6』の公式リーグ戦「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」に参戦、「Yogibo REJECT」に加入し、ときど氏とチームメイトに。同リーグにおいて獲得ポイントで全選手1位を達成するなど目覚ましい活躍を見せた

■どこまでいっても「格闘ゲームは面白い」

――格闘ゲームのシーンが10年後どうなっているか、想像できますか?

ときど いやぁ、想像つかないですね。ただ、指針はあると思っています。

日本はずっと「日本産のゲームだけど、大会の盛り上がりはアメリカにかなわないよね」と言われ続け、選手もメーカーさんも大会の運営さんも悔しい思いをしてきたんです。

それでも取り組み続けた結果が今に表れていて、準備が間違っていなかったことの証明にもなっていると思うんですよ。だから、やり続けるしかありません。

――では、10年後のときど選手はどうでしょうか。

ときど うーん。さすがに現役の選手ではないかもしれない、とは考えますけど。

――20代で引退する選手も珍しくないeスポーツですが、格闘ゲームは43歳の梅原選手をはじめ、まだまだ上の世代が現役で活躍しています。

ときど 上の世代の人たちが頑張っている姿を見ると、まだまだ僕もやれるって安心感がありますね。同時に自分の経験を下の世代に伝えていく時期に差しかかっているなと感じますよ。

2017年7月、「EVO 2017」のルーザーズセミファイナルで、板橋ザンギエフ氏(左)と熱闘を繰り広げたときど氏は、同大会で優勝を果たした(撮影・写真提供/大須晶) 2017年7月、「EVO 2017」のルーザーズセミファイナルで、板橋ザンギエフ氏(左)と熱闘を繰り広げたときど氏は、同大会で優勝を果たした(撮影・写真提供/大須晶)

――ときど選手は今年の7月で40歳を迎えますが、年齢による衰えは感じますか。

ときど 質の高い練習を長く続ける集中力は昔より厳しいかな、ぐらいです。あとは週1回の空手で息が上がるようになってきましたね。

――フィジカル的な変化はあっても、パフォーマンスには影響はないと。

ときど 選手としては、今が自分史上一番強い自信がありますよ。

――プロゲーマーには勝利にこだわるあまり「ゲームが嫌になってしまった」とこぼす人も少なくないですが、10年以上、プロの最前線で戦い続けてきたときど選手はそういった経験はありますか?

ときど ないですね。僕は今でも毎朝「早くケンを動かしたい」と思ってPCを起動してますから(笑)。

――なぜ、そこまで情熱が衰えないのでしょうか。

ときど どこまでいっても「ゲームが面白いから」。仮にプロの舞台でまったく勝てなくなって、生活のためにほかの仕事をするしかなくなっても、ゲームはやりますもん。ほかにのめり込む趣味もない僕にとって、この世界は情熱を注ぎ込める唯一の場所なんです。

2023年7月、ときど氏はeスポーツチーム「REJECT」に加入。「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」では「Yo  gibo REJECT」の一員として過酷なリーグ戦を戦った 2023年7月、ときど氏はeスポーツチーム「REJECT」に加入。「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」では「Yo gibo REJECT」の一員として過酷なリーグ戦を戦った

――先月のSFL決勝(*6)では敗れた後に涙する姿も見られて、それだけ情熱を燃やした戦いだったと感じさせられました。

ときど もう泣くことなんてほぼないんですけどね。無理して参加してくれたLeSharの存在もあって、心が揺さぶられちゃいました。

(*6)SFL決勝 
今年2月11日に実施された『スト6』の公式リーグ戦「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」のグランドファイナルのこと。リーグの頂点をかけ、ときど氏所属の「Yogibo REJECT」は「Good 8 Squad」と戦うが惜しくも敗れた

――これは僕が見た範囲での話ですが、eスポーツ選手はベテランほど敗北をドライに受け入れる印象が強かったので、正直意外な光景でした。

ときど 昔とは違ってすぐに「次はこうしよう」と切り替えられるようになりましたよ。ただ、勝負事においては感情を揺さぶられないほうが正しいと思います。『ジョジョの奇妙な冒険』にエシディシってキャラがいるじゃないですか。

――あえて号泣することで感情を発散し、すぐにスッキリするキャラですよね。

ときど そうです。彼みたいに一瞬だけ揺さぶられることはあっても、すぐに次のことを考えなきゃいけないんですよ。負けた瞬間から次のSFLの準備が始まっていますし、目の前にはカプコンカップが控えていますから。

――カプコンカップもその先も、まだまだ現役プロとしての活躍に期待しています。

ときど ありがとうございます。僕は「生きざまを見せて人の感情を動かす」というのが、人生で変わらない「やりたいこと」です。

これからも皆さんを楽しませられるよう、まずはカプコンカップ11に全力を尽くします!

●東大卒プロゲーマー・ときど
1985年生まれ、沖縄県那覇市出身、神奈川県横浜市育ち。株式会社CELLORB取締役、eスポーツチーム「REJECT」所属のプロゲーマー。東京大学(工学部マテリアル工学科)を卒業した経歴を持つ「東大卒プロゲーマー」で、格闘ゲームシーンを牽引してきたひとり。海外ではプレイ中の鬼気迫る表情が殺し屋に見えることから「マーダーフェイス」とも呼ばれる。著書に『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』(PHP新書)、『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ダイヤモンド社)がある

■『ストリートファイター6』
2023年6月に発売された対戦型格闘ゲーム。売上本数は2024年末の時点で世界累計440万本、日本では有名ストリーマー(YouTubeなどで動画配信をしている人)が主催する大会やイベントが毎月のように開かれ、プロ格闘ゲーマーが出場選手やコーチとして積極的に参加するなど、現在の配信カルチャーにガッツリはまる形で今もブームを持続。2024年12月には国内累計100万本のセールスを達成した

■3月5日(水)から開催! 「CAPCOM CUP」とは?
『ストリートファイター』シリーズで世界最強を決めるカプコン公式世界大会。1年を通して開催される世界大会やカプコンプロツアーの決勝大会であり、世界各地の予選を勝ち抜いた選手たちが集結する。タイトルはシリーズ最新作『ストリートファイター6』。11回目となる「CAPCOM CUP 11」は、同大会初の日本開催。出場選手は48人でそのうち日本人は5人。ときど氏はその中のひとりとして優勝を狙う。3月5日(水)から9日(日)にかけて、東京・両国国技館は世界中から猛者たちが集う熱狂の渦と化す!