日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。驚異の実話! 「スポーツと政治問題」を鋭く問う柔道サスペンス!

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『TATAMI』

評点:★4点(5点満点)

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個人は国の利益のための道具ではない

米国屈指のスタンダップ・コメディアン、ジョージ・カーリンはかつて「個人としての人間は好きだが、グループになった人間は、たとえそれがごくごく小さな人数のグループだとしても、とたんに個人の持つ美点をないがしろにして『グループの利益』を上位に置くようになる」と語ったが、国家や宗教といった巨大な人のグループはまさにそのように機能する。

「お国のために」どうこう、という考え方の根底には、個人は国の利益のための道具に過ぎない(し、そのように扱って構わない)、というおそるべき人権への軽視がある。

本作ではイラン代表の女子柔道選手が、世界選手権で勝ち進むも、「決勝でイスラエル人選手と対戦することは許さない(なぜなら自国がイスラエルを国家と認めていないから)」という理由で自ら棄権することを迫られる。

物語のベースは2019年に日本で開催された世界柔道選手権で起きた事件だが、家族を人質にとり、あの手この手で脅迫を繰り返す「国家」とは一体誰のためのものか?といえば、それは支配層が好きなように振るう権力のためのものでしかあり得ない。

観客の感情を猛スピードで揺さぶり引き回すジェットコースターのような映画である。

STORY:ジョージアで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラは金メダルを目前に、政府から敵対国イスラエルとの対戦を避けるべく、棄権を命じられる。政府に服従するか、自由と尊厳のために戦うか、レイラは決断を迫られる

監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン、ナディーン・マーシャルほか
上映時間:103分

全国公開中

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