睡眠学者の柳沢正史氏いわく「照明を暗くすると睡眠の質が上がり、 電力消費量が下がる」という 睡眠学者の柳沢正史氏いわく「照明を暗くすると睡眠の質が上がり、 電力消費量が下がる」という

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。睡眠学者の柳沢正史先生を迎えての2回目は、家の照明の明るさと睡眠の関係について。ひろゆきさんが住んでいるフランスは夜、レストランなどもかなり照明が暗いそうなんです。

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ひろゆき(以下、ひろ 僕はフランスに引っ越してから睡眠時間が明らかに増えたんですよ。んで、それって生活環境の違いが大きいと思うんです。ヨーロッパの家って照明が暗いじゃないですか。

柳沢正史(以下、柳沢 それは本当に大事なポイントです。私もセミナーでよく話しますが、日本の住宅って夜が明るすぎるんですよ。欧米の人が日本のホテルに泊まると「部屋が明るすぎる」とクレームを入れることがありますよね。

ひろ 逆に日本人がヨーロッパのホテルなどに行くと「暗すぎる」って文句を言ったりしますけど(笑)。

柳沢 でも、夜の明るい環境は睡眠にはかなり悪影響があります。理由は主に3つ。まずひとつ目は、人間は昼行性の動物なので、光自体に覚醒作用があること。コンビニなどがやたら明るいのは商業的な理由からです。明るいほうが人間のテンションが上がって物がよく売れるんですよ。

ひろ カジノやパチンコ店は典型的ですよね。あのキラキラした照明と大きな音がずっと流れている空間は「覚醒させてお金をたくさん使わせる」仕組みですよね。

柳沢 ふたつ目は「メラトニンの抑制」。メラトニンは体内時計に合わせて夜に分泌されるホルモンで、深部体温を下げるなど体を睡眠モードに近づける働きがあります。ところが夜に強い光が目に入ると、体内時計が「夜だよ」というシグナルを出していても、そのシグナルを無視してメラトニンの分泌が抑制されてしまう。

ひろ じゃあ、まだ眠くない時間帯でも、部屋の照明は暗くしておいたほうがいいってことですか?

柳沢 そうです。夜、早めの時間帯から照明を落としておくと、メラトニンの分泌がしっかり行なわれます。3つ目は「体内時計そのものが遅れる」こと。体内時計は主に光で調整されますが、朝から午前中の間に目から光が入ると体内時計の針が〝進む〟方向に動きます。逆に晩から深夜の時間帯に強い光が目に入ると、最大で3時間くらい遅れます。つまり、本来なら夜に差しかかっているはずの体内リズムが「まだ昼間だ」と勘違いして、どんどん夜型になってしまう。

ひろ ちなみに「体内時計が進んでいる、遅れている」って、どうやって調べるんですか?

柳沢 メラトニンや深部体温の変化を継続的に計測するんです。そうすると「今のあなたの体内時計は◯時くらいです」というのが客観的にわかります。

ひろ 深部体温が下がり始めたり、メラトニンが増え始めることで「寝る時間に近づいたな」って体が判断しているわけですね。

柳沢 そうです。それを細かく測定すると、睡眠や覚醒のタイミングがどのようにコントロールされているのかがわかります。いずれにしても夜の強い照明は体内時計を遅らせるし、メラトニンを抑制するし、光自体が覚醒作用を持っているので、眠りを妨げる要素がそろい踏みなわけです。

ひろ だから日本人は夜になってもなかなか眠れない人が多いと。

柳沢 そうなんです。日本の住宅に関して、私はずっと「夜はもっと暗くするべき」と言っています。具体的な目安としては、外が暗くなったら100ルクス未満に照度を落としたほうがいい。100ルクスというのは、だいたい街灯のすぐ下くらいの明るさです。

ひろ 本を読むのはちょっと厳しいレベルくらいですか?

柳沢 いや、意外と読めるんですよ。最初は暗く感じるかもしれないけれど、人間の目は順応しますから、数分いれば普通に読書できます。食事も問題ありません。むしろヨーロッパのホテルではもっと暗い所が多い。

ひろ アジア人系と白人系では瞳の色に違いがありますよね。それって影響はあるんですか? 白人系の人は虹彩が青や緑だから光に弱く、日中もサングラスをかけたりするじゃないですか。アジア系はやっぱり光に強いんですか?

柳沢 「虹彩が薄いと光を通しやすいからまぶしさを感じやすい」というのは確かにあると思います。でもそれは屋外の太陽光レベル。例えば数千ルクスくらいの話です。夜の100ルクス程度の室内照明なら人種差はそこまで大きくないと思います。暗い環境への慣れは、ほとんど心理的なものだと思いますよ。

ひろ ヨーロッパのレストランって本当に暗いですよね。目の前の人の顔が少し見づらいくらいの店もある。それでも十分生活できる。でも日本にいると、電車の車内もめちゃくちゃ明るいし、コンビニも家も明るい。どうしても明るい環境にいることになってしまいますよね。

柳沢 それは日本社会は戦時中の灯火管制の反動もあって「明るいのが豊かさの象徴」と考える人が多いからだと私は推測しています。「暗い=貧しい」というイメージを払拭したい。そんな流れが今日までずっと続いているんじゃないでしょうか。

ひろ 「明るいほうが平和で豊かだ」という感覚ですね。

柳沢 「明るいことはいいこと」と多くの人は感じていると思います。でも、照明を暗くすることで得られるメリットってすごく大きいんです。睡眠の質が上がって、電力消費量が下がる。国全体が夜間にもう少し照明を落とすだけで、健康面や経済面にプラスがあると私は本気で思っています。

ひろ 確かに、医療費の削減とか予防医療の普及も大事ですけど、照明を暗くするというのは、かなり簡単で安上がりな対策ですよね。

柳沢 ええ。会社や電車みたいに難しいところはあるかもしれませんが、せめて自宅だけでも夜は暗くしたほうがいい。私自身、家では照明の明るさを人一倍気にしていて、ダイニングテーブルの上のLED電球を120Wから40W相当に下げたんです。妻には内緒で(笑)。でも、私が言うまで彼女は全然気づきませんでした。

ひろ 10%ずつ徐々に減らすとかじゃなくて、いきなり70%近く減らしても気づかれないんだ(笑)。

柳沢 「言われてみれば確かに暗いかも?」くらいの反応でしたよ。それぐらい人間の目は順応するんです。もちろん細かい作業をするキッチンの手元なんかは別として、リビングや食卓は読書に支障が出ない程度の明かりで大丈夫です。

ひろ 暗さは別に不便じゃないんですね。むしろ習慣で明るくしすぎているだけで。

柳沢 そうなんです。睡眠環境を整えて、体内リズムをスムーズに回すには、夜はなるべく暗いほうが圧倒的にいいんですよ。

ひろ 今回の話を聞いて、ちょっと家の電球を換えてみようかなと思いました。言われてみれば、僕も無意識に「明るいほうがいいだろう」と最初から明るめの電球を選んでましたから。でも今回、柳沢先生の話を聞いて「なんのためにこんなに明るくしてるんだ?」って自問すると明確な答えがない(笑)。

柳沢 ぜひ試してみてください。夜、しっかり暗くすると翌朝の目覚め方が違ってきますから。

ひろ 不必要な照明を切れば部屋を暗くできるので、今夜から実践できますね。僕もやってみます。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA) 
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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柳沢正史

柳沢正史

1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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