「私としては、社会全体が朝型に有利になっているのは問題だと思います」そう語る睡眠学者・柳沢正史氏 「私としては、社会全体が朝型に有利になっているのは問題だと思います」そう語る睡眠学者・柳沢正史氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。睡眠学者の柳沢正史先生を迎えての3回目です。今回は、柳沢先生に「朝型人間」と「夜型人間」について聞いてみました。ひろゆきさんは夜型人間ですが、夜型から朝型に変えることはできるのでしょうか? 変えられるとしたらどうすればいいのでしょうか?

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ひろゆき(以下、ひろ 「朝型人間」とか「夜型人間」ってよくいいますよね。僕は完全に夜型なんですけど、そういうタイプって明確に分かれるものなんですか?

柳沢正史(以下、柳沢 はい。「朝型夜型質問紙」というものがあって、ネットで検索すると簡単に出てきます。19問の質問に答えると、「超朝型」「朝型」「中間型」「夜型」「超夜型」など、自分がどのタイプか判定してくれます。この朝型とか夜型の個人差は、生まれつきの遺伝的な素因で決まるとされているんです。

ひろ 朝型と夜型は、どっちが多いんですか?

柳沢 人数でいうと偏差値などのように、きれいな正規分布、つまり釣り鐘形になります。そして、朝型夜型には体内時計が深く関係しているんです。われわれの体内時計は、通常、光の明暗によって24時間周期に「フェーズロック(同期)」しています。ところが、光が一定で明暗差がない環境にいると、それぞれの個人が持つ固有の周期で回り始める。これを「自走周期(フリーラン周期)」といいます。人間の場合、自走周期は平均すると24時間前後ですが、個人差があって、24時間より少し短い人もいれば少し長い人もいます。

ひろ それが、どう朝型か夜型かに関わってくるんですか?

柳沢 例えば体内時計が23・5時間と短めの人が、強制的に24時間周期に合わせていると、「位相(体内時計の時刻)」が早まります。一方、夜型の人は体内時計が24時間より少し長めなので位相が遅れやすい。だから「夜になると元気になる」というより、「体内時計の位相が後ろにずれる」と考えるほうが正しいんです。

ひろ なるほど。夜型の人は特別に夜だけ活動的というより、そもそも位相が遅れていると。

柳沢 そうです。朝型の人は朝のうちからすごく元気で、夜10時くらいを過ぎると猛烈に眠くなる。一方、夜型の人は深夜12時を過ぎたあたりからエンジンがかかって、午前中はボーッとしていることが多い。

ひろ 自走周期の差ってどれくらいあるんですか? 平均が24時間として、極端に短い人は21時間とか?

柳沢 いえ、実はそこまで極端な差はありません。個人の自走周期は、平均で24時間7分ほど。研究によっては24時間10分くらいともいわれています。そして、短い人でも23.5時間、長い人でも24.3時間程度。しかし、このわずかな違いが、結果として数時間単位に増幅されるんです。ですから、朝型と夜型では3~4時間くらいのズレが生じます。しかも、生まれつきの朝型・夜型に加えて、年齢によっても位相が変わるんです。

ひろ 「年を取ると早起きになる」ってよく聞きますよね。

柳沢 そうです。ただ、自走周期自体は年齢で変わらないことがわかっています。あくまで位相が変わるんです。10歳くらいの子供は平均すると朝型ですが、思春期から20代にかけて大きく夜型に傾きます。最大で2時間くらい遅れます。

ひろ 若者が夜更かしをするのは、ネットとかスマホのせいじゃないんですね。

柳沢 私が学生の頃にはインターネットなんて影も形もありませんでしたが、それでもラジオの『オールナイトニッポン』を夜更かしして聴くような生活でした(笑)。そして30代、40代、50代と年齢が上がるにつれて、また少しずつ朝型に戻っていく。後期高齢者になると超朝型になります。おじいちゃん、おばあちゃんが朝早く目覚めてしまうのは、これが理由です。

ひろ そうすると、年齢が上がると日の光の刺激に影響されやすくなるってことなんですか?

柳沢 実は、どうして年齢による位相変化が起きるのかは、はっきりわかっていないんです。一部の研究者は「生殖行動のタイミングと関連があるのでは」と推測していますが証明はされていません。

ひろ IT系エンジニアは、深夜に元気な若い人が多い印象があります。僕も若い頃は夜型でしたし、今も朝は相変わらず苦手です。

柳沢 私としては、社会全体が朝型に有利になっているのは問題だと思うんです。例えば学校や会社の始業時間が早いため、生まれつき夜型の人たちは損をしています。あえてこの表現を使いますが、これは「差別」だと思います。差別の定義を「自分で選ぶことのできない属性によって不利益をこうむること」とするなら、夜型に対する立派な差別です。だって、本人が選べない遺伝的な特性なのに、朝起きなさいって強要されるわけじゃないですか。早寝早起きなら誰にも怒られないのに、「遅くまで寝ているのは悪い」と見なされがちです。

ひろ それなのに、学校では朝練とか朝早くからの活動をさせたがりますよね。

柳沢 「朝課外」もありますよね。でも、若い子は夜型傾向が強いので、朝早く起こされたらつらいし、実際にパフォーマンスも上がらないんです。「夕課外」に切り替えるほうがずっと合理的です。

ひろ なるほど。

柳沢 若い子たちの睡眠時間ですが、必要な睡眠時間というのは年齢によって大きく変化します。例えば、子供はとにかく長時間の睡眠が必要です。アメリカでよく使われている小児科の医学教科書によると、高校生では8時間半の確保を推奨していて、13歳なら9時間15分、9歳なら10時間寝るように推奨している。あくまで「このぐらいの睡眠時間を確保すべき」という推奨値であって、必ずしもみんながこれだけ寝なければいけないわけではありません。でも、日本の中高生で、ここまでしっかり眠れている子はほとんどいないと思うんです。

ひろ 17歳で睡眠時間を8時間半確保している学生は少ないでしょうね。

柳沢 こうした推奨時間は大人になるにつれて少しずつ短くなり、25~30歳くらいでは7~8時間が平均的とされます。高齢になるとさらにやや短くなりますが、同時に「睡眠効率」という、ベッドにいる時間のうち実際に眠っている割合も低下していくんです。

ひろ ベッドに横になっていても、しっかり眠れていない時間が増えるということですね。

柳沢 そうです。若い人だと95%くらい、それこそほとんど眠っているんですが、高齢者になるとベッドの上で覚醒している時間が長くなる傾向があります。結果として一晩当たりの「実際の睡眠時間」も減っていくということです。

ひろ なるほど。年齢で変わるのは体内時計の位相だけじゃなくて、睡眠効率もなんですね。

柳沢 中学・高校の始業時間を決める教育委員会のお偉方は、高齢(朝型)の方が多い。そして、必要な睡眠時間も少ない。それを基準に物事を決めようとするんでしょうね。自分が若い頃は夜型で、夜な夜なラジオにかじりついていたことなど、すっかり忘れてしまっているんだと思います。

ひろ まあ、偉くなるためには、早寝早起きして、朝から晩まで猛勉強......だったのかもしれませんけど。でも、その結果、若者の気持ちがわからなくなるというのは、皮肉なものです(笑)。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA) 
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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柳沢正史

柳沢正史

1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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