柳沢先生いわく、「人はひと晩に4、5回レム睡眠に入り、そのたびに9割以上の確率で夢を見ている」とのこと 柳沢先生いわく、「人はひと晩に4、5回レム睡眠に入り、そのたびに9割以上の確率で夢を見ている」とのこと

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。睡眠学者の柳沢正史先生を迎えての4回目です。

「今日は夢を見なかった」と感じること、ありますよね。でも、実は人間はほぼ毎日夢を見ているそうです。では、なぜ夢を覚えていないのか。そもそもなぜ、夢を見るのかについて柳沢先生が答えています。

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ひろゆき(以下、ひろ 人がどんな夢を見ているかを直接調べることって、できるんですか?

柳沢正史(以下、柳沢 実は10年ほど前に、京都大学の神谷之康教授らがfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使った実験を行ないました。まず被験者にfMRI装置に入ってもらい、さまざまな映像を見せます。そのときの脳の活動パターンをAIで解析してデータベース化しておき、次に同じ被験者にfMRI装置内で眠ってもらう。そして、睡眠中に起こして「今、どんな夢を見ていましたか?」と聞く。すると、睡眠中のfMRI画像から、見ていた夢の内容を高い精度で言い当てることができたんです。

ひろ その研究をさらに発展させると、脳の活動パターンと夢の内容との関連がより詳しくわかりそうですね。

柳沢 私たちの研究所ではもっと手軽な方法として、高密度脳波を用いた研究も行なっています。多数の電極を頭部に装着して脳波を計測したところ、レム睡眠中の夢の具体的な内容まではわからなくても、「楽しい」「不快」「興奮している」といった感情状態を判別できたんです。

ひろ 時間と手間はかかるでしょうけど、徹底的に取り組めば夢の解読も不可能ではなさそうですね。

柳沢 そうですね。現在のfMRIは脳の血流を測定しているため、時間分解能が数秒から数十秒、空間分解能も最高1mm程度にとどまります。1mm角の中に1万から10万個の神経細胞があることを考えると、どうしても解像度に限界があります。しかし、夢の解読が少しずつ現実味を帯びてきているのは確かです。

ひろ 将来的にfMRIの分解能力が飛躍的に向上して、24時間装着可能なデバイスが出てきたら、「何を見たときに脳がどう反応するか」を継続的に記録・解析できるかもしれませんね。

柳沢 ありえるかもしれません。ただ、fMRIの実験は技術的に非常に難しい面があります。ひろゆきさんは人間ドックか何かでMRI(磁気共鳴画像法)の検査を受けたことがありますか?

ひろ あります。巨大な装置の中で大きな音が響いていましたね。

柳沢 そうなんです。MRIは非常にうるさくて、コイルが振動するため「ガチャーン、カーン」という。まるで建設現場のような騒音が発生します。あの環境で眠ってもらうことが大変なんです。

ひろ 確かに。あの騒音が気にならず、しかもあの特殊な環境でも平気で眠れる人でないと被験者になれませんね。

柳沢 そうなんです。実験では、被験者に前夜から徹夜してきてもらうなど、できるだけ眠りやすい状態をつくって臨んでもらいますが、それでもなかなか寝つけない方は多いです。

ひろ やはり人間の脳を研究するには、人間の被験者の協力が必須ですからね。

柳沢 そうですね。人間を対象とする研究は制約も多いですが、人間にしかできない研究テーマもあります。例えば夢の研究は、主観的な体験を当人に報告してもらわない限り正確に把握できません。つまり動物では限界があるんです。

ひろ マウスに「今どんな夢を見ていた?」とは聞けませんからね(笑)。ちなみに、人間はどれくらいの頻度で夢を見るんですか? 見る日があったり、見ない日があったりしますよね。

柳沢 人は、ひと晩に4、5回レム睡眠に入りますが、そのたびに9割以上の確率で何かしらの夢を見ています。しかし、マウスの研究では、レム睡眠中に「忘却」を促すようなシステムが活性化されているらしいんですよ。

ひろ へえー。

柳沢 確かに「昨夜はまったく夢を見なかった」と感じることは多いのですが、それはほとんど忘れてしまっているからです。レム睡眠から直接パッと目覚めた場合だけ、たまたま覚えているんです。

ひろ ときどき中学時代の同級生など、どうでもいい人物が夢に出てくることがありますが、あれは脳が「忘却リスト」に入れるためにわざわざ登場させているんでしょうか(笑)。

柳沢 どうでしょう(笑)。

ひろ とはいえ、そもそも人はなぜ夢を見るんですか?

柳沢 それはまだ解明されていない部分が多いんです。一般的には、覚醒中に体験した出来事や見聞きした情報が睡眠中に「リプレイ(再演)」され、それが夢として表出すると考えられています。なぜそうした現象が起こるのかははっきりしませんが、記憶の整理や定着などに関係している可能性が高いんです。

ひろ でも、体験したことのない嫌な出来事も夢に見ることがありますよね。

柳沢 レム睡眠中に見る夢は、非常に鮮明かつ感情的な内容を伴いやすいのが特徴です。多くの心理学者は、夢には現実のストレスフルな状況をシミュレーションする「予行演習」の役割があると考えています。つまり、夢の中で嫌な体験をすることでストレス耐性が高まるわけです。実際、夢を見ることでストレス反応が鈍くなるといった研究結果も多数あります。

ひろ 例えば、何かに追われる夢を見て怖い思いをするのは、実際に追われるような状況に遭遇したときに、過剰に恐怖を感じないようにするための練習のようなものなんですか。

柳沢 そうです。恐怖刺激への反応が鈍化する現象も報告されています。夢を見ることで「動じない心」が鍛えられているのかもしれません。脳がそうなるように仕組んでいる可能性が高いと考えられています。

ひろ 耐性はつけなければならないけれど、本人が積極的に経験したくないことを寝ている間に代わりにやってくれるわけですね。

柳沢 そうです。

ひろ ところで、現実世界での希望や目標を語る「夢」と、寝ているときに見る幻想や空想を指す「夢」は、まったく異なる概念なのに同じ言葉で表現するのはどうしてだと思いますか? 英語で夢は「dream」ですし、フランス語では「rêve」です。

柳沢 中国語でも「夢」の字を使いますよね。

ひろ もし、欲しいものややりたいことが夢に表れるのであれば、同じ単語を使うのも理解できますが、今のお話では、むしろやりたくないこと、嫌なことが夢に表れることが多い。

柳沢 しかも、覚えている夢の8割はネガティブな内容だともいわれています。

ひろ 夢に出てくる内容の多くは「やりたいこと」よりも「やりたくないこと」や「嫌なこと」が多いのに、なぜ「希望」を示す単語と同じなんでしょうね。古代では夢は神からのメッセージや予言としてとらえられていたとか?

柳沢 もしかしたら、どちらも「非現実的なもの」というイメージがあるのかもしれませんね。

ひろ まあ、寝て見る夢も将来の夢も「人間の想像力が生み出すもの」という点では共通しているのかもしれないですね。

柳沢 言葉が同じになった経緯は謎ですし、夢についてはまだまだわかっていないことが多いんです。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA) 
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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柳沢正史

柳沢正史

1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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