小萩ぼたん先生が作画を担当する『COJI-COJI』新作の第2話が4月3日発売のりぼん5月号に掲載されている 小萩ぼたん先生が作画を担当する『COJI-COJI』新作の第2話が4月3日発売のりぼん5月号に掲載されている

ほのぼのとした世界観とナンセンスなギャグ、そして「コジコジはコジコジだよ」に代表される印象的なセリフの数々で人気を博してきた、さくらももこ先生の名作『COJI-COJI』。

昨年、マンガ連載30周年を迎え、完全新作の不定期連載も始まった同作について、さくら先生の元アシスタントであり、新作の作画を担当する小萩ぼたんさんにインタビュー。その唯一無二の魅力に迫る。

■独特で難しいさくら先生のキャラ

「最初はやっぱり緊張しました。先生の原作があるとはいえ、新作を描くのが自分でいいのかという思いはいまだにあります」

そう語るのは現在、『COJI-COJI』の作画を担当している小萩ぼたんさん。

動物なのか人なのかわからない謎のキャラクターである「コジコジ」を主人公に、人間の世界から遠く離れたメルヘンの国で巻き起こる物語を描いた、さくらももこ先生の『COJI-COJI』。

ほのぼのとしたファンタジー世界でありながら、個性的なキャラクターたちが繰り出すブラックユーモアやナンセンスギャグがクセになるとして、『ちびまる子ちゃん』と並ぶ、さくら先生の代表作となっている。

全4巻という短いシリーズながら根強い人気を誇っている作品であり、さくら先生が生前執筆していたアニメ用の脚本を原作とした新たな不定期連載が昨年11月から集英社の「りぼん」で始まったことも話題を呼んだ。4月3日発売の5月号には待望の第2話も掲載される。

それだけ多くのファンを抱える『COJI-COJI』新作の執筆には、やはり苦労が少なくなかったと小萩さんは振り返る。

「新作を描くうえでは、先生が描いたキャラクターを壊さないように常に気をつけています。

でも、先生のタッチはすごく独特で難しいんです。いわゆる美術のデッサンみたいに顔に十字を切って、目鼻のバランスをしっかり描いてしまうと、かわいくなくなってしまうんですよね。なぜかのっぺりしてしまうんです。

よく見ると目がまん丸じゃなくて、少し変な形をしていたり、デッサン的にはおかしいところがあったりするんですけど、先生が描くと魅力的なキャラクターになります。

どうしてそうなるのか。トレースしても完全には再現できないんです。30年見続けても、いまだに謎が解けないですね」

小萩さんは1993年にさくら先生の絵本で作画を手伝って以来、2018年に先生が亡くなるまでアシスタントを務めてきた。

現在もさくらプロダクションのスタッフとして、『COJI-COJI』だけでなく、『ちびまる子ちゃん』でも新作の作画を担当するなど、誰よりも長くさくらももこ作品を手掛け続けている。

「それでも先生の絵の法則は見つけられていないんです。だから、描いていて迷ったら、とにかく先生の原稿を見て、なるべく近づけるようにしています。

『COJI-COJI』のキャラクターも難しいですけど、特に『ちびまる子ちゃん』が難しいですね。先生も時々、『たまちゃんは描くのがめんどくさい』とかこぼしていました(笑)」

■先生は「まる子そのもの」

実はアシスタントになる前から、さくら先生のファンだったという小萩さん。先生がパーソナリティを担当していた「オールナイトニッポン」(1991年~1992年)も聴いており、そのリスナープレゼント企画にハガキを送ったことが、すべてのきっかけだった。

「インド旅行のお土産をプレゼントする企画にイラストを描いて応募したんです。インドっぽくエスニックな枠でハガキを飾り、ゾウやタージマハルを描きました。先生にもオンエア中に、『すごい絵だね』と褒めてもらえて、まさか当選したんです」

しかし、驚きはそれだけで終わらなかった。

「それから1カ月後、さくらプロダクションから『遊びに来ませんか』と電話がありました。びっくりしたんですけど、こんな機会はないと、当時は東京の東中野にあった事務所を訪ねました。

すると今度は、『もしよかったら、さくら先生がお仕事をお願いしたいと言っている』と聞いて。私自身、将来に迷っている時期でもあったから、『ぜひ!』と即答しました。

最初は実家で絵のお手伝いをしていたんですけど、しばらくしたら通いのアシスタントの打診があって、それが1995年頃でした。

それからはさくらプロダクションの所属として、『ちびまる子ちゃん』や『COJI-COJI』の扉絵のほか、背景や着色などのお手伝いをするようになりました」

あこがれの先生のもとで仕事ができるうれしさ。しかも小萩さんによると、さくら先生はマンガやエッセイのイメージそのままの人だったという。

「まる子は先生自身がモデルですけど、まさにそのまま大人になったような人でした。明るく天真爛漫で、興味があることはまっすぐ突き詰めるタイプでした。

そしてせっかちなんです(笑)。よく仕事場で出前をとっていたんですけど、いつもアシスタントが食べ終わる前に先生が食べ終わっていました。

原稿に向かっているときも、集中しているときは黙っていましたけど、いったん手が止まるとすごくおしゃべりになるんです。ただ、他愛もない世間話がほとんどで、仕事の話はした記憶がないですね。

だから、どこから『COJI-COJI』みたいな話を思いつくんだろうと、いつも不思議でした。何も考えてないように見えるのに、いつの間にか原稿ができあがっているわけですから。

先生はエッセイもたくさん書かれていますけど、きっと目の付け所とか、物事の感じ方が人と違っていたんでしょうね。でも、そんな先生のユニークな視点が大好きなんです」

発表以来、熱烈ファンを獲得し続けているさくらももこ先生の『COJI-COJI』。現在は集英社より新装再編版(全3巻)が発売されている 発表以来、熱烈ファンを獲得し続けているさくらももこ先生の『COJI-COJI』。現在は集英社より新装再編版(全3巻)が発売されている

■『COJI-COJI』は何マンガか?

その意味で『COJI-COJI』は、さくら先生の〝ユニークな視点〟が、まさに凝縮された作品といえる。

「私は『COJI-COJI』の中で、『不思議屋がやってきた』という回が、いちばん『COJI-COJI』だなって感じます。大きなメッセージがありそうなのに、最後のオチが全然関係ないという、まさにさくら先生でなければ描けない話だと思っています」

この回では、不思議屋という謎のおじさんがコジコジたちの街にやって来て、不思議な現象を次々と披露する。種も仕掛けもわからない〝不思議〟に魅了された雪だるまのコロ助は弟子入りを志願するが、「不思議の世界で自分を見失ってしまう君は素質がない」と拒否される......。

しかし、こうしたセリフから予感される〝自分って何?〟といった哲学的な考察に踏み込むことはなく、物語は作中の表現で言う「しょうもないできごと」が起こり、唐突に終わってしまう。

実際に登場人物が言うように、「なんだか不思議だったね......」としか言いようのない奇妙な味わいを残す内容だ。

いったい、この話のジャンルはなんなのか?

「先生の作品でも、例えば『ちびまる子ちゃん』は日常系ギャグマンガだと思うんです。でも、『COJI-COJI』は私も何マンガなのかわからないんですよね。

シュールなギャグマンガ、メルヘンマンガ、あるいは哲学的マンガだとか言われますけど、私からすると、どれでもあって、どれでもないというか。全然違うジャンルの本が一冊の中に詰め込まれている感じがします。まさに先生にしか描けない作品だなと」

それだけに新作の制作にあたっては、企画の開始から「りぼん」での掲載まで2年近く試行錯誤の期間が必要だったという。

「やっぱりファンの方々が期待しているのは、さくら先生の『COJI-COJI』なので、実際に連載が始まるまでは、自分の絵が先生の世界を崩してしまったらどうしようと不安でした。でも、ありがたいことに新作の反響が良くてホッとしています」

■『COJI-COJI』を楽しめる条件

ところで、もともとは小萩さん自身もさくら先生のファンだったわけだが、小萩さんが考える「さくらももこ作品」の魅力とは、どういったものなのか?

「先生の作品はかわいいキャラクターだけではなくて、ひねくれていたり、嫌われ者だったりするキャラクターもたくさん登場するんですよね。でも、そういう存在だからって排除されることはないんです。

『ちびまる子ちゃん』の〝藤木くん〟なんかも、現実だったらイジメられそうなキャラクターだけど、作品の中ではみんな普通に付き合っているじゃないですか。

『COJI-COJI』にいたっては、なんのために存在しているのかわからないようなキャラクターまでたくさん登場します。でも、先生の作品だと、なんの役にも立たないキャラクターも魅力的に見えてくる。

その優しい世界観が、先生の作品が広く愛される理由じゃないかと思っています」

そうした世界観の真骨頂と言えるのが、『COJI-COJI』における次のセリフだ。

学校で勉強もせず、毎日遊んで食べて寝てばかりいるというコジコジに呆れた担任の先生は、「君はいったい、何になりたいんだ」と問いかける。

するとコジコジは平然と、「コジコジだよ コジコジは生まれたときからずーっと、将来もコジコジはコジコジだよ」と答えるのだ。

これは同作を代表するセリフとして、近年はSNSでも頻繁に引用される。

『COJI-COJI』を代表するセリフとして挙げられる1コマ 『COJI-COJI』を代表するセリフとして挙げられる1コマ

主に「自己肯定感を高めるポジティブな名言」として紹介されることの多いセリフだが、その直後に「半魚鳥の次郎」が母親に対して同じ発言をすると、「バカ言ってんじゃないよ!」と殴られるように、「コジコジの言葉=作者が伝えたいこと」なのかどうかは、どこまで読んでもわからない。

それだけに多様な解釈を呼び続けているとも言えるのだが、小萩さんは、この有名なセリフをどのように解釈しているのか?

「難しいですね......。多分、いろんな要素があって、『これだ』とは説明できないと思うんですよ。

むしろ、説明してしまうとつまらなくなるというか。『コジコジはコジコジだよ』の意味では、『コジコジだよ』としか言いようのない気がします。

私は思うんですけど、『この言葉はどういう意味なんだろう?』と引っかかってしまう人は、『COJI-COJI』を読んでも、あまり面白いとは感じられないかもしれません。

反対に、意味なんてわからなくても、すっと受けいれられる人は、『COJI-COJI』をすごく楽しめると思いますよ」

■『さくらももこ展』全国巡回中
次回開催場所:鳥取県 米子市美術館
会期:2025年4月12日(土)~5月26日(月)
詳細は公式HPをチェック!https://sakuramomoko-ten.com/