Perfume、中元すず香(BABYMETAL)、鞘師里保、谷口愛季(櫻坂46)など、数々の才能を輩出してきた芸能学校「アクターズスクール広島(ASH)」。その開校25周年を記念した『アクターズスクール広島 25thアニバーサリーBOOK- NEW HORIZON -(以下、『- NEW HORIZON -』)』(PICK UP PRESS刊)が3月31日に発売された。なぜこれほど多くの卒業生たちが、世界に羽ばたくことができたのか? それを検証すべく、学校の四半世紀の軌跡を、卒業生や講師たちへのインタビュー、貴重な資料を通して振り返った一冊だ。
『- NEW HORIZON -』は書籍として十分に魅力的な内容だが、もうひとつ興味深いのは、版元の「PICK UP PRESS」が木田祐介氏によるひとり出版社だということ。なんでもASHに強い愛情を抱き、ASHの本を作りたくて在籍していた会社を退社。自らの会社を立ち上げ、以来本書の制作を目標に四苦八苦してきたという。
そこで木田氏を直撃。『- NEW HORIZON -』の制作秘話を語っていただきながら、自らの会社設立への経緯、そしてASHへのまっすぐな思いを聞いた。
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――日本エンタメ界屈指の芸能学校と言われる「アクターズスクール広島」(ASH)。その25周年記念本『- NEW HORIZON -』を拝見しましたが、あまりの熱量に圧倒されました。Perfume、段原瑠々さん(Juice=Juice)、中元すず香さん(BABYMETAL)、鞘師里保さん、谷愛季さん(櫻坂46)ほか卒業生・講師たち20名超の1万字インタビューやメッセージ、豊富な資料写真、さらには全25年分にわたる伝統の発表会セットリストまでが全224ページに収録。ASHのエッセンスがこれでもかと詰まっています。
木田 約1年かかりましたけど完成して、正直ホッとした心境です。企画がスタートした当初は誰が取材を受けていただけるか何も決まっておらず、不安しかなかったんですけど、日を追うごとに次々と取材OKに。ページ数も120p程度予定だったのが、倍近くとなりました。改めてASHの功績の素晴らしさを実感しています。
――中でも興味深かったのは、各アーティストたちのページにあるクロスメッセージ。Perfumeの3人や鞘師里保さんから中元すず香さんへ、谷口愛季さんから山本杏奈(=LOVE)さんへなど、それぞれの胸アツな言葉が送られていますね。
在籍期間や関係性がまとめられた相関図。今、それぞれのグループで活躍しているアイドルの意外な繋がりや発見がある!?
木田 ASH出身の方々って、私はスパイダーマンやアベンジャーズなど色々なヒーローが登場するマーベル映画みたいだと思うんです。「Perfumeすごい」「BABYMETALすごい」とかいろいろな世界線がありますけど、その世界線はASHでつながっていて、言わばマーベルユニバースならぬ、ASHユニバース。
それをわかりやすくに見せるために、クロスメッセージのほか相関図のようなものまで作り、個々が繋がっていることを示しました。あと載せたかったのは、発表会の全セットリスト。ASHでは、選抜された生徒たちによる発表会が毎年春と秋にあるんですが、いつ、誰が何の演目をやったのかを25年分すべて掲載しました。
――小さな文字でびっしりと書かれていて、じつに圧巻です。
木田 発表会があるからこそ、小学生から大人まで全員が、その華やかなステージを目指しスキルを磨いていく。そこから芸能界へと羽ばたいていくのがASHの伝統ですが、それはそのまま卒業生たち自身の歴史でもある。ただのリストに見えるかもしれませんが、鉄道オタクが時刻表を見て楽しむように、この時期に山本杏奈さんと鞘師里保さんが共演していたんだとか相関関係を含め、想像を膨らませて楽しんでいただけたらと思います。
――木田さん自身が、制作しながら胸が熱くなったのは?
木田 ファンの間では、「歌の中元、ダンスの鞘師」と、中元すず香さんと鞘師里保さんの関係を語る都市伝説のようなものがあるんですが、インタビューの際、それについて直接ご本人たちに伺ったことですね。それを聞けた瞬間、思わず涙があふれそうになりましたよ。
――濃いファン目線で制作されていたんですね。誰もが思うと思うんですが、ASHは一体、なぜこれだけの才能を生み出すことができたのでしょう?
木田 いわゆる画一的なメソッドではないですよね。先生方の指導は個人個人によってまったく違うので、一言でそれをくくるのは難しいです。あるとすればASHの事務局長・南典秀さんが後書に書かれていたような「夢に向かう情熱」と「仲間との絆」のような気がします。
あのコが頑張っているから自分も負けないようにしなきゃとかって、それぞれが情熱をもって切磋琢磨していく。それはライバル関係よりも、一緒に頑張ろうっていう仲間との意識があるから。それがASHで生まれるから、結果としてたくさんの才能が開花していくんじゃないかという気がしています。もちろん私が個人的に思うことで、読んでいただいた方がどう思われるかはそれぞれだと思いますけど。
総勢20名の1万字インタビューを収録!
――その答えを見つけるためにも皆さんには是非、本文をご覧いただきたいです。ところで本書の版元であるPICK UP PRESSは木田さんが、この本を制作するためにゼロから立ち上げた"ひとり出版社"だとか。
木田 そうなんです。もともと私はアイドル好きで、特にさくら学院の初期の頃からの大ファン。ある時メンバーだった中元すず香さんと杉本愛莉鈴さんが、ともに同じ卒業生であることを知って、ASHに興味を抱きました。
で、2013年にASHの発表会を訪れたところ、プロではないにも関わらず才能の豊かさと演目のレベルの高さに感動しまして。しかもそのすごいメンツによるパフォーマンスはその時、一回しか見られない。毎年通い続けるうち、これは絶対に本にして、この素晴らしさを多くの人に伝えなくてはいけない! と思うようになったんです。そこからすべてが始まりました。
――強い使命感に駆られたと。南事務局長はあとがきで「最初は断った」と書かれていましたが、とはいえそう簡単に本を作るとはならなかったわけですよね?
木田 そうなんです。まぁ当然ですよね。でもどうしてもあきらめきれず、オフィシャルでASHの紹介をしているサイト「About ASH」の制作チームにご連絡して。するとお互いASH愛の熱量が高かったからか、意気投合しまして(笑)、その上で再度、ASHにオファーしたところ、OKが出ました。
――つくづく情熱的です。もともと木田さんは編集のお仕事を?
木田 いえ。編集の仕事はほとんどしたことがなかったです。
――えっ? ほとんどって......なかったんですか!?
木田 はい。前職はデジタルコンテンツ流通会社の営業担当で出版社へ出かけ、紙の写真集のデジタル化を促したり、デジタル写真集の販売施策を練る仕事をしていました。各出版社ともお付き合いがあったので、ASH本の話をしようと思いましたが、まだASHと直接の面識もないですし、どんな本が作れるのかはまったくの未知数でしたから。
このご時世、紙の本を作るハードルは高いし、どこもまともに取り合っていただけないと思って。また出版社で作るとしたら、自分のイメージ通りの中身になるかもわからないですし。そんなことを考えているうちこれは、自分でやったほうが早いし、面白いものが作れるだろうと思うようになりました。正直、ASHへの熱量だけで見切り発車しちゃった感じです(笑)。
――とはいえ出版社を立ち上げるって、単純な話ではないですよね。それこそお金だってかかるし。
木田 ものすごく大変でした。デジタルはともかく、紙の本に関してはまったくの素人だったので、まずは小規模な専門書の出版社に転職し、紙の出版物ができるまでのノウハウを学びました。
小規模であれば自分が現場に携わる機会はたくさんありますからね。会社で仕事をしながら3年目の2020年、貯金をはたいて出版社を立ち上げ、初の単行本『新たなるインド映画の世界』の制作に着手。翌2021年に販売しました。約1年かかりましたね。ちなみにいまも会社員です。
――3年目で制作に着手したのは、単純にノウハウをある程度得られたから?
木田 それもありますけど、一番はコロナです。当時は大勢の方々が亡くなり、みんな不安を抱えていましたよね。自分も「やばい! 自分も死ぬかもしれない! もうグズグズしてられない」と危機感を持ちました。
でも、現実的にコロナ禍で広島に移動したり、アーティストを起用する本の制作は難しいですよね。そこで「ASHに負けないくらいの情熱を向けられるものは何だろう」と悩みぬいて、自分自身大好きだったインド映画の本を作ったんです。
――インド映画とはまたニッチな内容ですよね。勝算はありました?
木田 自分が大好きな分野なのである程度、納得のいく内容を作れる自信があったし、あと類書は在庫切れのままで、アマゾンでは倍以上の値段がついていたことから、自分のように潜在的に欲しい人はいるのではと思ったんです。発売後は地道ながらも売れ続け、幸運にも2022年公開のインド映画『RRR』のヒットも背中を押してくれることに。現在では刷った分のほとんどを売り切っています。
――それはすごい! 最初の単行本ということで大変だったことも多かったのでは?
木田 インド映画本でいえば編集者を立て、その方との共同作業だったのでそこまでの苦労はなかったです。デザイン全般や用紙の選定や印刷など実質的なことはデザイナーさんから細かく教えていただけましたし。苦労に近いといえば映画評論的にいくか、よりガイド的な要素を強めるかで、編集の方と意見を交わしたくらい。そこまでではなかったです。大変だったといえば、その後に作った、女優さんの写真集ですね。
――大変、というと?
木田 より良い内容を求めていたら、制作費が当初予定していた倍近くかかってしまったんです。撮影を重ねながら、次から次に支払いが続き、会社のボーナスも右から左に流れていく事態に。生活費を支払いにあてることもありましたし、さすがに限界かな、出版業あきらめようかなと思いましたよ(笑)。その後、インド映画の本の第二弾やコミックなどの売れ行きがよく、回復しましたけど。いいものを作るとはいえ、ズルズルいっちゃうと本作りってダメなんだなと学びましたね。
――今回のASH本「NEW HORIZON」は6冊目となる単行本だとか。
木田 2020年に創業して、一年に一冊以上出せているのは、順調だなと自分では思っています。
――会社はこの本を出すために作られたとお話されていましたけど、できあがった今、この先はどのようにお考えでしょう?
木田 いやー、それ、答えに困るんですよね。今回ほど、高い熱量でできる本なんて、これからもそうそうないと思うんです。正直なところ、燃え尽きました(笑)。だからこの先、何を目標にやっていこうか、自分でもまだわからなくて......。
ただ今回、ASHに関わる方々のお話を伺っているうち、長く継続していくことの大切さを実感しました。自分も25周年、さらにその先を迎えられるよう、これだという本を作り続けていきたいと思います。早速ですが、既に新しいインド映画の本も出版も決まっています。
――この先も今回以上に熱い本を楽しみにしています。
木田 はい。ただ今回の本、気合いを入れるあまり、いつもの約3倍の予算をかけ、3倍の部数作ったんです。だからまずは頑張って売るところからですけどね(笑)。
■木田祐介(きだ・ゆうすけ)
大手電子書籍配信会社へ入社後、約10年にわたって数百にも及ぶ出版社の電子書籍配信の立ち上げやプロモーションをサポート。その後、出版社勤務やフリーランスを経て独立。ひとり出版社PICK UP PRESSの代表として、編集から流通までを一人で手掛ける。
■PICK UP PRESS
2020年12月28日創業、木田祐介氏によるひとり出版社。生産性だけを考えると捨てられてしまうかもしれない、大事なモノやコト、声や願いなどを拾い上げて形にすることをコンセプトに、無駄かもしれないけどと思いつつ、つい手に取ってしまうような出版物の刊行を目標としている。2025年4月現在、インド映画のガイド本のほか、女優・南琴奈のファースト写真集など計6冊を刊行。
公式X【@PressPick】
■『アクターズスクール広島 25thアニバーサリーBOOK -NEW HORIZON-』(PICK UP PRESS) ¥3,080円(税込)
Perfume、中元すず香(BABYMETAL)、鞘師里保など、他に類を見ない数の才能を輩出してきた芸能学校「アクターズスクール広島」。開校25周年を記念して、学校の四半世紀の軌跡を、卒業生や講師たちへのインタビュー、貴重な資料を通して振り返る一冊。
【主な収録内容】
・20名超の卒業生×1万字ロングインタビュー
・本書を通じた卒業生同士のクロスメッセージ
・学校内の貴重な写真アーカイブ
・2024年春に行われた「SPL∞ASH同窓会」ライブレポート
・年2回行われる伝統の発表会・25年分の全演目リスト
ほか多数。
【ロングインタビュー】
Perfume、まなみのりさ、Mebius、Shingo Okamoto、西脇彩華、MIKIKO、鞘師里保、中元すず香、Mizki、山本杏奈(=LOVE)、段原瑠々(Juice=Juice)、石野理子、今村美月、由良朱合、STU48、谷口愛季(櫻坂46)、吉武千颯、広本瑠璃(OCHA NORMA)、戸高美湖、MIRI(RIRYDAY)、山本愛梨、奥野心羽(SKE48)
【メッセージ】
杉本愛莉鈴(LUCY)、中元日芽香、米田みいな(zanka)、反田葉月、永尾梨央(可憐なアイボリー)ほか30名超