「これをやれば確実に眠れるという方法が実現できたら、ノーベル賞ものですよ」と語る柳沢正史先生 「これをやれば確実に眠れるという方法が実現できたら、ノーベル賞ものですよ」と語る柳沢正史先生

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。睡眠学者の柳沢正史先生を迎えての5回目です。なかなか寝つけない日ってありますよね。そんなときに「こうすれば確実に眠れる」という方法があったら知りたくないですか? というわけで、柳沢先生に聞いてみました。

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ひろゆき(以下、ひろ 今回のテーマは入眠法です。僕が実践している方法を書籍とかユーチューブ配信で紹介したら、「ひろゆき式睡眠法で寝落ちする人が続出!」と話題になったんですよ。「ひろゆきさんのおかげでぐっすり寝られるようになった」と感謝されることもあって(笑)。

柳沢正史(以下、柳沢 ほう、どんな方法ですか?

ひろ 実は〝ひろゆき式〟でもなんでもなくて「連想式睡眠法」と呼ばれる方法です。先生はご存じだと思いますが、やり方としては、まず「cat(猫)」みたいに適当な単語を決めます。そして、頭の中で「c」から始まる単語をひたすら挙げていく。このとき「cat food(猫の餌)」みたいに関連性のあるものはNGです。んで、「c」で単語が思いつかなくなったら次は「a」。その次は「t」と続けていくといつの間にか寝ているという仕組みです。僕もこれで寝られるようになりましたし、感謝されることもあるんですけど、実際のところこの方法は睡眠学的にはどうなんですか?

柳沢 いわゆる「ベッドタイムルーティン(入眠儀式)」と呼ばれるものですよね。いろいろな方法が紹介されていますが、何が効くかは本当に人それぞれで、個人差が大きいんです。ですから、ある意味、科学的なアプローチが難しい領域でもあります。万人に共通して「これをやれば確実に眠れる」という方法は、基本的に存在しません。逆に、「これをやったらほぼ確実に眠れなくなる」というNG行動はいくつかあります。

ひろ 例えば? 

柳沢 「明るい部屋で寝る」「夜にコーヒーを飲む」などです。あとは部屋が暑すぎたり、寒すぎたりするのも良くない。日本人はストイックな方が多くて、光熱費を気にしているのか寝ている途中にエアコンが切れる設定にしている方もいますが、これは良い睡眠を取りたい人にとってはNGです。

ひろ 快適な温度で寝たほうが良いということですね。

柳沢 ええ。快適な温度を保つことは非常に重要です。こうしたNG行動はたくさんありますが、その一方で「これをやれば確実に眠れる」という唯一の方法はないんです。真面目な話、もしそれが実現できたらノーベル賞ものですよ。

ひろ へー、それは意外です。

柳沢 寝ている人間や動物は大きな刺激さえあれば起きるけれど、起きている状態からパッと眠らせることは基本的にできません。いわば、一方通行のような非対称性があるんです。だからこそ入眠ルーティンは人によって違う。連想式睡眠法みたいなのがピタッとハマる人もいれば、まったく効かない人もいます。

ひろ ちなみに、先生の入眠ルーティンはあるんですか?

柳沢 はい。私には非常に効果的な方法があります。それはつまらない論文を読むことです(笑)。内容が退屈だと、イントロの3パラグラフ(段落)目くらいで眠くなる。研究者としては本来最後まで読まなければいけないけれど、「これ面白くないな」と思いながら読むと、途端に意識が落ちる。

ひろ 僕もつまらない本を読んでいるとよく寝ます(笑)。んで、本を読もうとすると電気をつけて、読み終わったら本を閉じるという動作が必要じゃないですか。それってダルいし、電気を切ろうとして目が覚めることもある。なので、最近はNHKのフランス語講座や英会話講座を電気を消して、目をつぶって聴くというパターンも試しています。これが、面白いように途中で寝てしまうんですよ。もうすでに寝る体勢で聴いているので、電気を消したり本を閉じたりする手間もいりません。おかげで、まったく内容が頭に入ってこないんですが(笑)。

柳沢 紙の本ではなく電子書籍のほうがかえって良い場合もあります。私も、つまらない論文を読むと言いましたが、PDFをスマホにダウンロードして、寝ながら見ています。「寝る前にスマホやパソコンを見るのは良くない」と言われますが、そんなことはありません。

ひろ え、そうなんですか?

柳沢 私は、ベッドルームでスマホを一律に禁止する必要はないと思っています。むしろ自分の入眠ルーティンに使えるものは積極的に使うべきだと考えます。よくブルーライトが悪いと言われますが、今のスマホは文字どおり〝スマート〟なので、画面の青色を抑えて就寝時など暗い環境でも見やすい夜間モード(ナイトシフト)などもある。ですから、スマホの明るさやブルーライトは、それほど気にする必要はありません。明るさでいえば前にも言いましたが、部屋の照明が明るすぎるほうがよほど有害です。

ひろ 日本の住宅は明るすぎて、それが体内時計を狂わせているという話でしたよね。

柳沢 ええ。ですからスマホをうまく使って、自分に合う入眠ルーティンが作れるなら、活用したほうがいいですよ。私自身、最近、新たな入眠法を発見しました。よく「ついていけない授業を聞いていると眠くなる」という話がありますよね。それを応用するんです。

ひろ というと?

柳沢 私は「観る将」(将棋の対局を観戦するファン)なんです。自分で将棋を指すわけではないんですが、観戦するのは大好き。最近は元奨励会員などの非常に強い方々が将棋の解説動画をアップしているんですが、そういう棋譜解説動画を1.5倍速ぐらいで少し早回しして見ていると、あっという間に眠くなることに気がつきました。

ひろ へー、興味があるものでも寝てしまうんですね。

柳沢 興味はあるんですが、自分の能力を超えているので、眠くなってしまうんです。

ひろ なるほど(笑)。背伸びをして「頑張ろう」というより「これは無理だ」と諦める感じですね。

柳沢 そうです。脳がキャパオーバーになって「無理だ」となると、そのまま意識が落ちるんです。

ひろ 本当に人それぞれですね。そういう動画を見ると、逆に頭がさえたり、アドレナリンが出て寝られなくなる人もいるでしょうし。

柳沢 そうです。ですから、私がオススメするのは、とにかく自分にとって「これをやると眠くなる」「リラックスできる」「日中の仕事のことを忘れられる」といったものを見つけることです。

ひろ ユーチューブで「睡眠用BGM」みたいな動画があるじゃないですか。ああいうのでもいいんですか?

柳沢 それで落ち着いて寝られるならOKです。ほかにも「アロマオイルをたく」でも「ジャスミンティーを飲む」でもなんでもいいんです。自分にとって眠りを誘うものを見つけることが大切です。

ひろ 今回出てきた方法でもいいですし、ネットでバズっている方法でもいいと。

柳沢 そうです。試してみて合わなかったらやめればいいんです。で、合うものが見つかれば、それを続けて習慣化してほしい。そうすると、心理学でいうところの「条件づけ」が起きて、それをやると自然と眠くなるように体が覚えていきます。そこまでいくと本当に素晴らしい入眠ルーティンと言えるでしょう。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA) 
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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柳沢正史

柳沢正史

1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある

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