「ピッチャーにたとえるなら、速い球を正面から投げ込んでくる本格派」と語るピエール瀧 「ピッチャーにたとえるなら、速い球を正面から投げ込んでくる本格派」と語るピエール瀧

「せっかくなら、好きなものを紹介したい」ということで始まった新連載。もやしソバだけを紹介するこの企画で町中華ブームに一石を投じることはできるのか?

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――今号から始まったピエール瀧さんの新連載『萌え萌やしソバ探訪録』ですが、なぜ〝もやしソバ〟をテーマに選んだんですか?

ピエール瀧(以下、瀧) 俺、昔からラーメン屋さんとかに行くとなぜかもやしソバを頼んでたんだよね。五目ラーメンとか、チャーシューメンとかいろいろあるのに、いつももやしソバ。で、俺はなぜ毎回もやしソバを頼むのかというと、まあ、好きなものに理由なんかないんだけど、たぶん「自分の中に何か引っかかってるものがある」からだと思うんだ。せっかく週プレで連載をやらせてもらうんだったら、そういう妙な「引っかかり」を掘り下げてみようかなと思ったわけ。

この連載は誰の役にも立たないものになるかもしれないけど、無駄なことでもたくさん集めれば、なんかしら意味がありそうなことになるかもしれない。まあならない可能性のほうがデカいけど(笑)。

――自分、今までもやしソバを意識したことなかったです。

 でも、もやしソバって意外と多くの店でメニューに載っているでしょ。

――ちなみに、もやしソバの定義みたいなものってあるんですか?

 わかんない。もやしが入ってること以外は(笑)。例えば「サンマーメンと何が違うのか?」とかまだよくわかってないもんね。食べに行った店のご主人に質問したり、回数を重ねていけば「もやしソバとは何か?」ってことも徐々にわかってくると思うな。たまにはもやしの産地に行ったりするのもいいかもね。

――ということで、記念すべき第1回は東京・後楽園にある「新三陽 後楽園店」にやって来ました。

 ここは東京ドームシティの観覧車の目の前だね。聞いたところによると、王貞治さん(元プロ野球巨人軍選手・監督、現福岡ソフトバンクホークス会長)がよく食べに来ていた店なんだって?

――そうみたいです。

 ほら、入り口のショーケースに、ちゃんともやしソバの食品サンプルがあるよ。800円だって。この立地ならかなりリーズナブルなんじゃないの?

――今はラーメンが1000円超えも当たり前の時代ですからね。

 店内に入ってみよう。巨人軍の選手のサイン色紙がたくさん飾ってある。王さん、原辰徳さん、堀内恒夫さん、須藤豊コーチのもある。渋い。

――30枚くらいはありますね。

巨人の選手のサインがたくさん張られている店内 巨人の選手のサインがたくさん張られている店内

 たぶん、もっとあるでしょ。試合が終わった選手たちが食べに来たりするだろうから。王さんはここで何を食べてたんだろう。店員さんに聞いてみようか。すみませーん。王さんは、いつも何を頼んでたんですか?

店員さん もやしソバです。

 えっ、本当ですか!? 王さんももやしソバが好きだったとは衝撃的だわ。勝手にタンメンとかを食べてるイメージだったんだけど。

店員さん この間、いらしたときもやはりもやしソバを頼んでくださいました。

 今も普通に来てるんですね。ブレないな、王さん。メニューのもやしソバの所に人気No.1って書いてあるわ。そりゃ、そうだよね。王さんが食べに来るくらいなんだから。なんか連載1回目にして、もう答えが出ちゃったような気がしないでもない(笑)。

――取りあえず、われわれももやしソバを頼みましょう。

(注文したもやしソバが来る)

「もやしそば」(800円) 「もやしそば」(800円)

 いただきます! うん、うん。なるほど、これはすごくうまいわ。スープは醤油ベース。麺は細麺のストレートで柔らかめ。具はもやしに豚肉が少し入っている感じでシンプル。とろみも少しついてる。麺に具のとろみが絡みついて、スープと一緒に口の中に広がるね。シンプルだけど強いな。ピッチャーにたとえるなら、速い球を正面から投げ込んでくる本格派な感じ。

――まったく、くどくないですね。

 そうね。きれいなフォームから投げ込まれる回転のいい速球って感じ。これから、もやしソバを食べ比べる基準となる味としては、すごくいいかもしれない。もやしソバ感、ど真ん中。

――でも、王さんはなんでもやしソバが好きなんですかね?

 店長さんに聞いてみますか。すみませーん。

店長の山本秀彦さん はい。

 このもやしソバってすごくシンプルですよね。この一杯を王さんが好んで食べていたんですか?

山本さん はい。私は3代目なんですが、先代は(巨人の本拠地が)東京ドームになる前の後楽園球場だったときに、いつももやしソバを出前していたそうです。

 あ、それは試合前に食べていたってことですか?

山本さん そうみたいです。

 そうか。試合前ということは〝戦闘食〟ということか。

山本店長いわく「後楽園球場にもやしソバを出前していたそうです」とのこと 山本店長いわく「後楽園球場にもやしソバを出前していたそうです」とのこと

――でも、王さんほどの人だったら、もやしソバじゃなくて、アワビソバくらい食べてもよかったんじゃないですかね。

 いや、試合前にウオーミングアップをしてさ、その後に体が冷えちゃうといけないから、温かいあんがかかっているもやしソバを食べて試合に備えてたんじゃないの? それに、もやしソバはシンプルだからさ、試合前の気分が高ぶっているときに「初心に戻る」という意味があったのかもしれない。

――なるほど。さすが、世界の王さんですね。

 まあ、完全に俺の推測だけどね(笑)。あとは、もやしの形って一本足で立っている姿に見えなくもないじゃん。だから、ゲン担ぎみたいな意味でも食べてたのかもしれない。

――ちょっと強引かもしれません。

 それにしても、連載1回目で巨人の背番号1だった王さんが大好きだったもやしソバを食べられるなんて幸先がいい。だって世界一の人だよ!

――ですね。次回が楽しみです!

 ただもやしソバを食べ散らかしていくだけの連載だけどね。

――もやしソバブームをつくりましょう!

 張り切りすぎ。落ち着け(笑)。

「新三陽 後楽園店」東京都文京区本郷1-33-8 電話:03-3814-0434 「新三陽 後楽園店」東京都文京区本郷1-33-8 電話:03-3814-0434

※営業日時、メニュー、価格などは変更になる場合があります
※この連載は隔号で掲載予定です

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■ピエール瀧(ぴえーる・たき)
1967年生まれ、静岡県出身。ミュージシャン、俳優、声優、タレント。
「無駄こそ宝なり」が信条。好物はもやしソバ。
公式Instagram【@pierre_taki】