かつてイラク戦争にも従軍したサイトウ曹長が、実際の軍隊文化や兵士のリアルを知る視点でもノレた映画をセレクト! 銃撃戦だけじゃない軍人の敬意や矜持を描いた珠玉の作品たち――。このGW、彼の推薦作で"本物"に触れてみては?
* * *
■映画の影響で米軍に憧れた
日本の横須賀基地から米海軍に入隊。その後、海兵隊に転属し、ヘリに乗る衛生兵・フライトメディックとしてイラク戦争にも従軍。さらにその後、陸軍に入隊し、兵站大学での教官も務めたサイトウ曹長。
かなり濃い経歴の持ち主だが、米軍を志したきっかけは漫画や映画だった。
「昔から漫画や映画が好きで、特に漫画『沈黙の艦隊』を見て潜水艦に乗りたくて海軍に入りました。映画でいえば『トップガン』(1986年)。
この映画の影響で空軍入隊希望者が増えたという話もありますが、実は映画自体は海軍の戦闘機パイロットなんですよね。自分は海軍時代、下士官だけど憧れたあの白い制服を着ていましたよ。
あと、韓国映画の『JSA』(2000年)。38度線上の共同警備区域(JSA)を舞台に、韓国軍と北朝鮮軍の兵士たちが友情を育む話で、兵士が見ても泣ける、まさに名作ですね」
では、そんな映画好きなサイトウ曹長がオススメする戦争映画とは?
「まず、実話を基にした『ワンス・アンド・フォーエバー』(2002年)。ベトナム戦争初期のイア・ドラン渓谷の戦いを描いているのですが、主人公のハル・ムーア中佐は実在する人物です。
ベトナム戦争を描いた映画は多くありますが、中でも評価の高い作品です。ムーア中佐率いる米軍部隊が、敵軍に囲まれながら戦いを繰り広げる。ムーア中佐の、兵士を絶対に見捨てないという姿勢は、今でも米軍人にとって理想的なヒーロー像なんです。
とある教習中、教官に『ムーア中佐を知っているか?』と聞かれました。当然、誰もが『あの映画の中佐ですよね』となるわけですが、教官は『ムーア中佐は別の理由でも有名なんだ』と話しました。
実は、戦死した兵士の扱いにも革命を起こしたのです。
当時は、国防総省が発行した死亡通知をタクシー運転手が家族に届けに行くという、信じられないような対応でした。
ベトナム戦争で多くの部下を失ったムーア中佐は、妻と協力して、戦死者を丁寧に届ける文化をつくりました。彼の妻たちが、手紙とともに、尊厳をもって兵士を家族に引き渡す――そんなプロトコルをつくったんです。
それにまつわる話を描いたのが『戦場のおくりびと』。イラク戦争の戦死者を故郷に届ける海兵隊員を主人公に、ご遺体が家族の元へどのように運ばれるのかを丁寧に描いた作品です。
ご遺体に寄り添い、夜も棺のそばを離れず、最大限のリスペクトを払う主人公の姿に胸を打たれました。戦争映画といっても、ドンパチものだけじゃないんです」
『戦場のおくりびと』(2009年) イラク戦争で戦死した兵士の遺体を、故郷へと届ける海兵隊員を描いた実話ベースの作品。戦場とは違う米軍の側面を教えてくれる
サイトウ曹長もかつて似たような任務、CNO(Casualty Notification Officer)に就いたという。
「交通事故で亡くなった隊員の家族に、ご遺体が届けられた後、保険金の手続きなど身の回りのサポートをする役割を担いました。軍人は、保険金を誰に何%支払うかを生前に書類で残しますが、実際に支払うときになるとごねる人も出てきます。
自分が担当したケースでは、元妻との間にできた小さな娘の養育費に保険金を充ててくれとあったのに、その元妻が『私にもくれ』と主張。一方で、最後の頃に付き合っていた彼女も出てきて『私にももらう権利がある』と言い出す始末。いろいろと面倒な案件でした。
こうした処理では1年以上揉め続けることもあります。自分もそのときは、何度も現地に行き、1週間泊まり込んだりして、なんとか収めました」
■有名俳優たちも軍人を熱演!
さて、次に紹介するのは、『戦場のおくりびと』で主演を務めたケビン・ベーコンが若き検事役として出演している作品。
『ア・フュー・グッドメン』(1992年) 海兵隊内のイジメで隊員が死亡する事件が発生し、軍法会議が行なわれる。弁護士の正義、殺した海兵隊員の仁義への葛藤が交差する作品
「『ア・フュー・グッドメン』は、若い頃のトム・クルーズが主演を務めた法廷ドラマで、海兵隊内部のイジメによる死亡事件を巡って軍法会議が繰り広げられます。
小隊の中に訓練についていけない兵士がいて、上官が『シメてこい』と指示。雑巾を口に詰めて〝お仕置き〟するつもりが、窒息死させてしまうんです。殺してしまったふたりの海兵隊員を国は殺人罪で起訴する。
トム・クルーズ演じる弁護士は、ふたりに罪を認めさせて軽い刑で済まそうとするんですが、海兵隊の連中は違う。『俺たちは命令に従っただけだ』と話す。規律や仁義を重んじる海兵隊員からすれば、簡単に罪を認めるわけにはいかないんです。
きっと皆さんはトム・クルーズに感情移入すると思います。でも、元海兵隊員の自分からすると、トム・クルーズ演じる弁護士がもう少し海兵隊文化を理解していれば、こんなに大変な裁判にはならなかったのに......とも思います。もちろん映画なのであえて葛藤を描いて面白くしてるんでしょうけどね。
また、あえて言うことでもありませんが、イジメは絶対にあってはならないことです」
『英雄の条件』(2000年) イエメンの米大使館暴動で、海兵隊が民間人を殺傷してしまう。サミュエル・L・ジャクソン演じる隊長は英雄か、それとも罪人か?
©2000 BY PARAMOUNT PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED. U-NEXTにて配信中
続いて紹介するのは『英雄の条件』。
「トミー・リー・ジョーンズとサミュエル・L・ジャクソンによるW主演。イエメンの米大使館で起きた暴動に、海兵隊が出動するも、民間人に犠牲が出てしまうという話。
サミュエル・L・ジャクソン演じる隊長は『俺は大使館を守っただけだ』と主張しますが、政府は彼をスケープゴートに仕立てようとする。
政府にそんな扱いを受けても、最後の最後、国旗が掲げられるシーンでは彼がビシッと敬礼する。あの瞬間、『どんなときも軍人の誇りは失ってないんだ』と心打たれましたね。
ちなみに、世界中で米大使館の防衛任務に当たっているのは海兵隊の1個小隊。ダムや原子力発電所などは陸軍が守っていますが、重要な海軍施設、例えば日本の横須賀や厚木の海軍基地にも必ず海兵隊がいます」
『愛と青春の旅だち』(1982年) 航空士官学校に入学した若者(リチャード・ギア)が、鬼教官に鍛えられつつ、恋愛もしながら、過去を乗り越え成長していく青春映画
©Copyright (2014) by Paramount Pictures. All rights reserved. U-NEXTにて配信中
次は『愛と青春の旅だち』。
「若きリチャード・ギアが演じる主人公が航空士官学校に入学し、鬼教官のフォーリー軍曹に鍛えられる青春ドラマです。
注目してほしいのは最後のシーン。士官学校の卒業式では、生徒が教官に銀の1ドルコインを渡す文化があります。そして受け取った教官は、そのコインを左のポケットにしまうんですが、最も思い出深かった生徒のコインだけは右ポケットにしまうんです。
よく見ていないと見落としそうなくらい一瞬なのですが、その瞬間が映画でも描かれていて『ここまでちゃんと表現するのか!』と感動しました。
また、士官学校を卒業すれば少尉になり、軍曹よりも階級が上になります。だから卒業式後、教官が敬語に切り替える――その描写も細かくて素晴らしいんです。
ちなみに、海軍の士官学校で教官を務めるのは海兵隊員です。海兵隊は海軍省の組織である上、厳しい訓練を乗り越えてきた優秀な人材が多いから、そうしているのだと思います」
さて、最後にオススメする映画は『ラスト・キャッスル』だ。
「カンザス州にある軍人専用の刑務所を舞台にした物語で、主人公の元将軍が暴力的な刑務官に立ち向かって囚人たちと反乱を起こします。
軍人が基地の外で罪を犯すと、まず州や連邦の刑務所に入れられます。そこを出て基地に戻ったら脱柵、つまり休暇届を出していないのにどこに行っていたのか、と処分を受け、さらに犯した犯罪の罪にも問われる。二重に罪を問われるんです。だからよく『犯罪するなら駐屯地内にしとけ』なんて笑えないジョークが言われるんですが......。
ちなみに軍人専用の刑務所も実際にあって、懲役10年以上の刑務所と10年以下の刑務所のふたつがあります。自分も行ったことありますよ。入ったわけじゃないですよ!
戦争映画と聞くと派手なアクションを繰り広げる映画をイメージする人が多いかもしれませんが、米軍をリアルに描いた作品にもたくさんの名作があるんです」
このGW、ぜひ匍匐で一気見してみては?
米空軍出身でアクション映画界のレジェンド、チャック・ノリスとの写真。『地獄のヒーロー』シリーズや『デルタ・フォース』など、軍隊・特殊部隊モノで人気を博した