マシンガンズ(2年ぶり2回目) 結成28年目(1998年結成)。滝沢秀一(左)、西堀亮(右)。第1回大会準優勝。ノックアウトステージでは、見取り図(270点)に295点で大勝した マシンガンズ(2年ぶり2回目) 結成28年目(1998年結成)。滝沢秀一(左)、西堀亮(右)。第1回大会準優勝。ノックアウトステージでは、見取り図(270点)に295点で大勝した
今年もベテラン漫才師がしのぎを削る季節が来た! 結成16年以上の漫才賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~2025』の決勝が、5月17日(土)夜7時から生放送される。第1回大会で準優勝して以来、2年ぶりとなるグランプリファイナル進出を決め、念願の優勝を目指すマシンガンズ・西堀亮さん、滝沢秀一さんのおふたりに今大会のくせ者かつ強者のライバルたちの分析、見どころと意気込みを語ってもらった!

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■自分たちより声が汚い最強の敵

――グランプリファイナル進出おめでとうございます! 決勝進出をかけた「ノックアウトステージ16→8」で勝利したときの心境は?

滝沢 「テレビに出られる!」と思って純粋にうれしかったです。今の若い人たちと違って、僕ら世代はやっぱりテレビに出たくてやってますもん。

西堀 テレビで生放送ですから。「32→16」とでは心境が違いましたね。

――『THE SECOND』は選考会で32組に絞られ、その32組が4組ずつ8つのブロックに分けられ、1対1のトーナメント形式で対決。各ブロックのトーナメントを制した計8組が、グランプリファイナルに進出しました。

西堀 そう。つまり、「16→8」のときにはどのコンビも1回ノックアウトステージで勝っている状態だから、皆、優勝への欲も出始めていて、少しヒリヒリしたもんね。

滝沢 そもそも売れるチャンスを一回逃している人たちですから。『THE SECOND』ってちょっと人生変わりますしね。

観客100人が審査員となり、ネタごとに「とても面白かった=3点」「面白かった=2点」「面白くなかった=1点」の3段階で採点し、点数が高かった組が勝ち進む(最大300点) 観客100人が審査員となり、ネタごとに「とても面白かった=3点」「面白かった=2点」「面白くなかった=1点」の3段階で採点し、点数が高かった組が勝ち進む(最大300点)
――マシンガンズは第1回大会以来の返り咲き。どのように勝ち進んだんですか?

西堀 それが、「32→16」のときは、滝沢が割と"かかってる状態"だったのを俺がツッコんでけっこうウケたんですけど、次の「16→8」は俺が噛み倒したのを滝沢がフォローする形で笑いがきて。だから、戦略的に勝ち上がったわけじゃないんですよね。ただまあ、ミスは織り込み済みって感じで(笑)。

滝沢 うちらは目の前で起きてる状況を笑いにするタイプだから、もちろんハマらなくてウケないことも全然あって。去年の「16→8」は笑いがこないままネタが終わっちゃったもんね。

西堀 2年前、初年度の大会で準優勝して一回いい思いしてるから、われわれにも気負いがあったんでしょうね。

――そんな2年ぶりのグランプリファイナル進出。初戦の相手は、はりけ~んずです。

はりけ~んず(初進出) 結成35年目(1990年結成)。前田登(左)、新井義幸(右)。長年、『M-1』『R-1』『THE W』予選でMCを担当。ザ・ぼんちに次いで2番目に芸歴が長い はりけ~んず(初進出) 結成35年目(1990年結成)。前田登(左)、新井義幸(右)。長年、『M-1』『R-1』『THE W』予選でMCを担当。ザ・ぼんちに次いで2番目に芸歴が長い
滝沢 実は僕、駆け出し時代に「ヨシモトファンダンゴTV」(2000~08年まで放送していたCSお笑い専門チャンネル)を見ていて「こんな面白い漫才があるんだ」って衝撃を受けたコンビがはりけ~んずさんなんです。それこそ、おふたりのネタを書き起こしたり、言い方をまねしたりしてたぐらい。

過去2大会は選考会で落ちていましたけど、「今年は来る」と言われていて、本当に勝ち上がった。お互いに「当たりたくない」って言ってたら1回戦で当たってびっくりしました。

西堀 もしかしたら最強の敵かもしれないです。まず、自分たちより声が汚い(笑)。あと、ご本人たちは否定されてましたけど、どっちもぼやき系でやり口の方向性も似てるし、「先攻でよかった」って安心感と「でも、やってみなきゃわかんねぇな」って気持ちの五分五分ですね。

■出るたびに使い果たす強い"エースネタ"

――マシンガンズが勝ち進めば、次に対戦するのは第1試合の勝者、つまりツートライブとモンスターエンジンのどちらか勝った組になります。

ツートライブ(初進出) 結成18年目(2008年結成)。たかのり(左)、周平魂(右)。ノックアウトステージでは、ジャルジャルとななまがりというビッグネームを倒してきた実力派 ツートライブ(初進出) 結成18年目(2008年結成)。たかのり(左)、周平魂(右)。ノックアウトステージでは、ジャルジャルとななまがりというビッグネームを倒してきた実力派
西堀 『THE SECOND』ってかわいそうなほうが有利なんです。『M-1グランプリ』みたいに名もなき若手が夢をつかむんじゃなくて、今まで報われなかった芸人が応援される独特の大会。ツートライブはその意味でアドバンテージを持ってると思う。

滝沢 しかも、その日のことをアドリブで盛り込める芸風ですよね。そこはうちらと被(かぶ)るから、先攻でやられたらイヤかもな~。

西堀 モンスターエンジンは『あらびき団』(TBS)で披露した「神々の遊び」で注目されて、『M-1』と『キングオブコント』のダブルファイナリストにもなってるでしょ? そこからしばらく潜って漫才の腕を磨いてたってストーリーがありますよね。

モンスターエンジン(初進出) 結成19年目(2007年結成)。西森洋一(左)、大林健二(右)。かつて「神々の遊び」で注目され、『M-1』『キングオブコント』のファイナリスト経験コンビ モンスターエンジン(初進出) 結成19年目(2007年結成)。西森洋一(左)、大林健二(右)。かつて「神々の遊び」で注目され、『M-1』『キングオブコント』のファイナリスト経験コンビ
滝沢 俺はモンスターエンジンが好きだから、こっちもイヤだな~。「16→8」は2008年の『M-1』決勝ネタをやったらしいけど、年齢を重ねて過去のネタがさらに面白くなってきたってことなんでしょうね。

一方のツートライブは、まだ強いネタを隠し持っている可能性がある。その意味では、モンスターエンジンに勝ち上がってほしいかな。

西堀 確かに正攻法で漫才がうまい人あってのわれわれだから、モンスターエンジンみたいにきれいなタイプの漫才師のほうが戦いやすいかもしれないよね。

――続く第3試合は「囲碁将棋vs吉田たち」、第4試合は「金属バットvsザ・ぼんち」。ちなみに過去2大会では、ノックアウトステージの得点を足してトップだった組が優勝していて、今大会でいえば「32→16」で297点、「16→8」で287点(計584点)の囲碁将棋が断トツです。

囲碁将棋(2年ぶり2回目) 結成22年目(2004年結成)。文田大介(左)、根建太一(右)。第1回大会ベスト4。ノックアウトステージでは大会最高得点の297点を叩き出した優勝候補 囲碁将棋(2年ぶり2回目) 結成22年目(2004年結成)。文田大介(左)、根建太一(右)。第1回大会ベスト4。ノックアウトステージでは大会最高得点の297点を叩き出した優勝候補
滝沢 異常ですよ、大会最高得点の297点を叩き出すって。やっぱりネタがしっかりしてるからね。勝ち上がって3本披露することになっても、3本ともちゃんと見れるネタなんだろうな。

西堀 当たり前だろ(笑)。まあ世間的には、囲碁将棋が優勝候補じゃないですか。でも、吉田たちも面白いんだよな。滝沢がモンスターエンジン推しって言うなら、俺は吉田たち推し。

滝沢 そりゃあ数年前まで『M-1』で腕を磨いてたわけだからゴリゴリだよ。ここは双子の漫才師と囲碁将棋がクオリティの高さで激突する感じだね。

吉田たち(初進出) 結成18年目(2007年結成)。こうへい(左)、ゆうへい(右)。双子ならではの息の合った漫才が魅力。ytv漫才新人賞優勝、上方漫才大賞奨励賞など受賞多数 吉田たち(初進出) 結成18年目(2007年結成)。こうへい(左)、ゆうへい(右)。双子ならではの息の合った漫才が魅力。ytv漫才新人賞優勝、上方漫才大賞奨励賞など受賞多数
西堀 加えて、「僕らはかわいそうなおじさんです」ってことをネタに入れないストロングスタイルなふた組。われわれとは対照的ですね。

滝沢 もうネタでは囲碁将棋に勝てないですから。いかに同情を引くか、当日までに優勝にふさわしい人間になれるかの戦いですよ。

西堀 「子供も見てる」って言わなきゃな(笑)。

滝沢 子供も親もね(笑)。

西堀 これがね、ボディブローのように効いてくるんですよ。

滝沢 ザ・ぼんち師匠は金属バットの約3倍の芸歴ですか。この間、ウッチャンナンチャンの内村(光良)さんと話したら、「俺が高校生のときに見てた」って言ってて(笑)。考えてみたら、40年以上前からスターなんですよ。

ザ・ぼんち(初進出) 結成54年目(1972年結成)。ぼんちおさむ(左)、里見まさと(右)。1980年代の漫才ブームを牽引したレジェンド漫才師。同期にツービートら ザ・ぼんち(初進出) 結成54年目(1972年結成)。ぼんちおさむ(左)、里見まさと(右)。1980年代の漫才ブームを牽引したレジェンド漫才師。同期にツービートら
西堀 けど、今のぼんちおさむ師匠もめちゃめちゃで面白いんだよなあ。

滝沢 4月に73歳の誕生日を迎えた里見まさと師匠も舞台上まで走って出てましたから。俺、笑っちゃったんだよね、「元気だなあ」って。

西堀 ひとつのカッコいい例になりましたよね。われわれ、たまに浅草の東洋館に出るんですけど、そこの諸先輩方は漏れなくヨボヨボなんですよ。あの年でここまで笑いを取りにくる師匠なんて見たことなかったもん。

滝沢 漠然と「60歳まで芸能の仕事ができたらいいな」って考えてたところに、「73歳まで現役漫才師でいられるぞ」って希望を与えてくれましたよね。驚いたのが、まだ漫才の新しいパッケージを考えてるらしいんですよ。

西堀 やっぱ姿勢なんだろうな。グランプリファイナルの抽選会のときに早く帰りたがってて。その理由が、翌日に単独ライブがあったからっていう(笑)。

金属バット(3年連続3回目) 結成19年目(2007年結成)。小林圭輔(左)、友保隼平(右)。独特の漫才スタイルを貫きながらも、観客採点の同大会唯一の3年連続ファイナリスト 金属バット(3年連続3回目) 結成19年目(2007年結成)。小林圭輔(左)、友保隼平(右)。独特の漫才スタイルを貫きながらも、観客採点の同大会唯一の3年連続ファイナリスト
滝沢 金属バットの小林(圭輔)君に感心したのは、対戦カードが決まってすぐXで「本物の漫才ブーム(編集部注:ザ・ぼんちらが活躍した1980年代初頭のお笑いブームであり、かねて金属バットが出演しているミルクボーイ主催の漫才ライブの名称)と当たりました 優劣つけましょう」ってポストしてたこと。金属バットは3年連続ファイナリストの実力者でネタも面白いけど、そこにパンク的な魅力を感じましたね。

西堀 金属バットはきっと初戦に自信のある"エースネタ"を持ってくるよね。

滝沢 金属バットはここで優勝しないと「また来年もか」ってなるからね。ザ・ぼんち師匠の1発目は新鮮さもあってウケるだろうから、一番強いエースで来ると思う。

西堀 一回でもグランプリファイナルに出ると、そのときに持ってるエースを使っちゃうんですよ。でも、次の年はもう出せないから、第2、第3の候補をエースにして持っていかなきゃいけない。つまり、金属バットはずっとエースを失っている状態。

滝沢 高校野球と同じでエースは必ず卒業するから(笑)、同時に1年も育てていかなきゃいけないっていうツラさね。

■ザ・ぼんち師匠と声量で勝負!

西堀 逆に初進出組のツートライブ、モンスターエンジン、はりけ~んず、吉田たちは大エースを持ってる。われわれはけっこう使っちゃったから、4番手ぐらいのサイドスローで臨まないと(笑)。

滝沢 もう4番手に肩がちぎれるぐらいに投げさせます。ピッチャーは「代えてくれ」って言っても監督が許さない。

西堀 もう育てる余裕もないから、即戦力の高卒ルーキーも使わなきゃな(笑)。

滝沢 それぐらいうちらは自転車操業です。

――記者会見の中で「優勝するなら今年がラストチャンス」とおっしゃっていましたが、自信のほどは?

西堀 自信ありますよ。ただ、われわれはかなり努力したと思ってるんですけど、周りからしたら当たり前の努力って可能性があるんですよね。

滝沢 去年の敗退を機に「ネタ数を準備しなきゃ」ってことで、火災報知器の小林(知之)君に手伝ってもらいながら新ネタライブを始めたんです。今までで一番ネタを作ったんじゃないかな。でも、芸人が新ネタライブやるって当たり前なんですよね(笑)。

西堀 ライブのペースは2ヵ月に1回で、新ネタは1本。それですごいやった気になってる(笑)。周りの常識はさておき、われわれ的にはかなり頑張りました!


――決勝戦はどの組と当たるイメージですか?

西堀 もちろん囲碁将棋は優勝候補ですけど、ザ・ぼんち師匠が上がってくる可能性も全然ありますよね。そうなったら見てる人はびっくりすると思いますよ、ほぼ声量対決ですから(笑)。最後は大声コンテストみたいにホーン数で決着をつけてもいい。

滝沢 いや、決勝までに俺の声がかすれてるよ(笑)。

西堀 囲碁将棋はぶつかりたくないと思いますよ。まったく競技が違う相手だから。

滝沢 でも、過去2大会とも最終的には本格的な漫才師が優勝してるんですよね。結局、観客はそっちに投票する。

西堀 教訓になりますよね。やっぱコツコツやった人間が最後は勝つ(笑)。

滝沢 優勝して早く賞レースから卒業したいですね。今年も準優勝者は週プレでグラビア写真集出すの? ザ・ぼんち師匠になったら話題になるかもね。「どっちも半ケツ出てる!」みたいな(笑)。

西堀 73歳の半ケツはちょっと見たいよな(笑)。

西堀亮 Ryo NISHIHORI 
1974年生まれ、北海道出身。一般社団法人発明学会会員で、2023年には発明した「静音 くつ丸洗い洗濯ネット」が商品化され発売された

滝沢秀一 Shuichi TAKIZAWA 
1976年生まれ、東京都出身。2012年から芸人と並行してゴミ収集会社に就職。著作にエッセー『このゴミは収集できません』(白夜書房)ほか多数

鈴木旭

鈴木旭すずき・あきら

元バンドマンのフリーライター/お笑い研究家。1978年生まれ、静岡県出身。多くのメディアでコラム、インタビュー記事を執筆。著書に『志村けん論』(朝日新聞出版)

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