東京ドームで行なわれた脱出ゲームの様子。大人たちが知力と体力を使って、真剣に遊ぶ。そこにハマってしまう魅力がある

『新世紀エヴァンゲリヲン』とコラボした「ある使徒からの脱出」、『名探偵コナン』とコラボした「オリエント急行からの脱出」、『宇宙兄弟』とコラボした「月面基地からの脱出」など、自分自身がミステリーの世界観に入り、会場のあちこちに散らばったクロスワードや数字・漢字パズルを仲間と協力しながら解読。そして制限時間内に脱出を試みる――こうした「体験型の脱出ゲーム」が、今、大ブームになっている。

このジャンルを生み出し、業界を牽引(けんいん)するSCRAP代表の加藤隆生氏に話を聞いた。

「ネットで話題だった『脱出ゲーム』を現実の世界でやったらおもしろそうだなと考え、2007年に始めたのが最初。初回から150人に参加していただけたので、定期的に開催していきました。そして2011年の東京ドーム公演では、3日間で計1万2000人以上の方にご参加いただけたんです」

2011年5月に東京ドームで開催された公演「あるドームからの脱出」は、場内の至る所に仕掛けられた不思議な暗号を解読し、迷路のようなドームから脱出するというもの。こうした大掛かりなものだけでなく、大小さまざまな規模で開催されている。

「公演の規模は、マンションの一室で10名程度の参加者が脱出を試みるものから、球場や遊園地といった広大なエリアで1000人規模の参加者が一気にナゾに挑むというものまでさまざま。今は原宿、渋谷、新宿、名古屋、京都、博多に常設型店舗があり、数十人から最大100人規模のイベントを常に開催しています」(加藤氏)

この体験型・脱出ゲーム、実は脱出成功率1割程度という“難易度の高さ”が、リピーターを多く生んでいる最大の要因だという。

なぜ、厳しい設定にしているのか?

「それは、自分が参加して楽しめるかどうか、という観点で作っているからです。僕はファミコン初期のアドベンチャーゲームが好きだったんですが、当時のゲームってロクなヒントもないし、理不尽なレベルの難度だったんですよ。でも年々“がんばれば誰でもクリアできる”ゲームが増えてきましたよね」(加藤氏)

加藤さんは、そんなやさしすぎるゲームに物足りなさを感じていたという。

「だって10人いて9人解けるナゾだと、解けなかった人がバカみたいになるだけですが、10人いてひとりしか解けないナゾだったら、正解者はその場のヒーローになれるじゃないですか!」(加藤氏)

この「ヒーローになれる」という点は、男女でチームを組んでいるときに大きなアピールポイントになるという。

「ナゾをスパッと解いたらぶっちゃけモテますし(笑)。チーム制の公演などでは、初対面の男女が同じチームになるんです。そこで難解なナゾを解いたり、リーダーシップを発揮すれば、男の株が上がるのは明白。チーム制でない公演でも、近くでナゾを解いてる女子たちと相談しながら進めていくなんて光景はそこかしこで見られますから。実際、われわれのイベントがきっかけで付き合ったというカップルは数えきれないほどいますし、結婚したカップルだって何組もいるんですよ」(加藤氏)

ネットやゲームでは体験できないリアルなドキドキ感、そして共同作業で生まれる連帯感。そこに、体験型・脱出ゲームの人気の理由があるようだ。

(取材/昌谷大介、千葉雄樹[A4studio])

SCRAP代表の加藤隆生さん