「2年間の治療で花粉症から解放される」とアドバイスする日本医科大学耳鼻咽喉科学講座主任の大久保公裕教授

毎年春になると深刻な症状が出てくる花粉症。鼻水をタレ流し、涙とかゆみで目はグジュグジュだ。薬を飲めば眠くなり、これじゃなんにもできましぇ~ん!

そんな悲惨な人々に、最先端花粉症治療の第一人者で日本医科大学耳鼻咽喉科学講座主任の大久保公裕教授が対処法をアドバイス!

■花粉の動きを知れば苦しみが軽減!

今年のスギ花粉の飛散量は全国的に去年より少なく、九州だけが平年並みです。

しかし、油断は禁物!

あくまでも去年より少ないというだけで、発症するには十分な量が飛ぶからです。年によって花粉量は変わりますが、そもそも人は空中に飛散する花粉をすべて吸い込んでいるわけではありません。生活パターンによって、吸う量は大きく変わってきます。

花粉は生き物なので、日が当たっている時間帯に多く活動します。山から花粉が降りてくるのが朝6時頃。ジョギングなど運動をするなら早起きしましょう。通勤・通学も早朝に移動すれば、あまり花粉を吸わずに済みます。

花粉の飛散量が多くなるのは、まず午前中から午後2時くらい。次に、その頃コンクリートの上に落ちた花粉が帰宅ラッシュの人や車の行き来などで舞い上がり、第2のピークとなる夕方の5時から7時頃。以降、花粉量は少なくなります。ちなみに、花粉は真夜中には飛びません。

簡単にできる花粉対策としては、時差通勤がオススメです。家を出てから電車に乗るまで、誰でも花粉が体につきます。通勤ラッシュで押し合えば、ちょっと動いただけで髪の毛や洋服に付着していた花粉が飛び交います。

一方、すいている電車内では乗客の動きは少ないので、花粉が飛ぶのは風の動きによるくらい。同じ時間帯でも混んでいる電車とすいている電車では、前者のほうが花粉の動きも活発になります。

花粉は目に見えませんが、どうやって動いているのか、イメージすることが大切です。朝、山から降りてきて、昼間はどこを飛んでいるのか? 同じ道を歩くにしても、端がいいのか、中央がいいのか? 広い道と細い道では、花粉はどちらが通りやすいのか?

発症が地獄の始まり。症状は年々重症化

想定すべきは風の流れ。基本的に花粉が最も通りやすいのは川の上です。構造物が橋のほかにはなく、阻害物がありません。川の近くにスギの木があれば、風に乗って街へ流れてくる。つまり、川辺は花粉のホットスポットとなっているのです。

東京には荒川、多摩川(たまがわ)、隅田川(すみだがわ)などさまざまな川があるため、花粉が流れ込みやすい。大阪も淀川(よどがわ)があるので同じです。

花粉症は都市の病気。大きな川がある都市に住んでいる読者は、花粉が郊外から多く流れてくることを理解しておいてください。そうすれば、通勤・通学の際にマスクをつけるなど、花粉対策の必要性に気づくはずです。

■発症が地獄の始まり。症状は年々重症化

毎年、「突然、花粉症になった」という患者さんがやって来ます。花粉症には予兆はありません。いきなり発症する可能性は全員にあります。だから、日常的なケアが重要になる。

体外から侵入する花粉に対し、IgE抗体が体内につくられると花粉症を発症します。ですから、幸運にもまだ発症していない人は、なるべく花粉に出会わないでください。外出時のマスク、眼鏡はもちろん、特に花粉の多い時間帯はムダな外出を避けましょう。

花粉症を患っている人の日常的な対策としては、500mlの湯冷まし(20~30℃)に小さじ1杯弱の食塩を溶かし、鼻うがいや目の洗浄を行なうこと。外出先から家に帰ってきたときは、すぐにシャワーを浴びること。顔や頭に花粉がついていると想像し、全身を一気に洗い流すのがポイントです。

花粉症患者も、まだそうでない人も、この病気を決して軽く見てはいけません。恐ろしいことに、一度発症すると簡単には治らず、症状はどんどん重くなっていくからです。

「ドラッグストアで市販の薬を買って飲めばいいんでしょ?」と思っている人は、すぐに考えを改めてください。花粉症は人それぞれ症状が違うので、対策も変わってきます。本来は医師にじっくり相談するべきなのですが、これからの時期、耳鼻咽喉科は忙しいから、「薬を出しておきましょうね」で終わりがちです。

「注射を1本打てばいい」という医師もいるようですが、オススメしません。ステロイドを打って免疫を抑制するわけですが、その際に重い病気にかかると死に至る可能性があります。さらに言えば、打ち続けると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になり、骨折しやすくなる。「注射を打って花粉症を和らげる」という医師は、患者の将来を見ていないのです。

2年間の治療で花粉症から解放!

■2年間の治療で花粉症から解放!

多くの人が誤解していますが、花粉症は短期的な病気ではありません。スギ花粉が飛散するのは2月から4月。それ以外の季節は飛ばないので、自分が花粉症であることを忘れてしまいます。

でも、その時期は症状が出ていないだけの話。翌年の同じ頃、再び苦しみます。そう考えると、花粉症はものすごく長期的な病気。「今年の対策はこうしよう」という短期的な視点だけでなく、「将来を考えて治そう」という長期的な視野を持つことが不可欠です。

花粉症を根本的に治す手段は、免疫療法のみ。以前はスギ花粉を注射するしか方法がありませんでしたが、いまは舌下免疫療法という選択肢があります。スギのエキスを飲み、体質を変えていくのです。

舌下免疫療法では2年間、毎日、決まった量の薬を飲み続けなければいけません。正直言って大変ですが、人間の体がアレルギーになるのはそれくらい重いことなんです。「2年間、毎日」と聞くとつらいと感じるでしょうが、花粉症はあと100年間はなくならない。

花粉症の読者が考えるべきは、放置したままでは一生苦しみ続けるということ。20歳の人が80歳まで生きるとして、残り60年間。そのうち発症するのは1年間に3ヵ月だとしても、トータルで15年間、毎日症状が出続けるのと同じ計算です。そのうちの2年は長いですか? 短いですか?

免疫療法の薬を2年間飲み続けることで、花粉症から一生受ける苦しみ、薬代やマスク代といった費用など、生活に対するマイナスがなくなるわけです。将来を考え、一刻も早く治したほうがいいと思いませんか?

■大久保公裕(OHKUBO KIMIHIRO)1959年生まれ。日本医科大学医学部教授。日本アレルギー学会常務理事。専門は花粉症治療。『花粉症は治せる!舌下免疫療法がわかる本』(日本経済新聞出版社)など著書多数