「パタゴニア」と聞いて日本のみんなが最初に思い浮かべるのは、あの有名アウトドアブランドだろうか?
前回訪れたエル・カラファテから北に約200km、エル・チャルテンという村に、そのブランドロゴのモデルとなった有名な山があるという。今回の旅の装備としても活躍中のパタゴニアの服たちのロゴ。ぜひ見に行こう!
エル・チャルテンに到着するなり、ギザギザにとんがった山々がまさに「俺だ俺だ!」と存在を競いあっている。頂が一番鋭いのが、ロゴのモデルとなった「フィッツロイ山」。標高約3400m、“世界のクライマーの聖地”とも言われる山だ。
さすがに素人が登るのは困難なので、その姿を美しく拝むために手前の山を登るのが定番トレッキング。先日の氷河疲れもあるし、今日はゆっくりして明日出発しますか。
と、のんびり構えていたら、カラファテで出会ったイスラエル人のグループに遭遇。「レンジャーによると、明日から天気が悪くなるらしいぜ。フィッツロイ拝むなら今すぐ出発しろ! モタモタしてたら見逃すぜ!」とせかされた。そうか、じゃあ今日行かねばだ。
それにしても、パタゴニアにはとにかくイスラエル人が多い。私の泊まった宿はほぼ日本人とイスラエル人で埋め尽くされていた。なぜだろう? 聞けば、兵役を終えた若者がついに自由の身となって一斉に旅に出るからだとか。ビザや国仲の関係で、人気の旅先は南米やインド。女子も兵役の制度があるというから驚きだ。
若さからか兵役の解放感からかパーティーナイトも多く、騒がしさを訴える人もいるけど、私にとっては皆フレンドリーで英語も話せる良い旅友。徴兵制度は大変だけど、その終了をきっかけに皆が旅に出るのは良い習慣だと思う。日本の子達にも、こういった長い旅に出るタイミングがあれば良いのに。
……と、ちょっと話がそれちゃったけど、私たち日本人も彼らを追って、すぐに登山を決行することにした。
パタゴニアを着てフィッツロイへ挑む!
■パタゴニアを着てフィッツロイへ挑む!
すでに時間はお昼過ぎ。帰りの時間を考えると急がなきゃ。片道10kmの山道を5時間で登って3時間で降りる。一見そんなにハードではなさそうだけど、気温の変わりやすい山で体温調節をしたり、食料や飲み水の配分を考えながらの登山は、初心者にとって不安でいっぱいだ。
しかも最後の1時間は落差400mのハードな岩道。すれ違う人達は「あと10分だから頑張れ! もう少しだ!」なんて言うけど嘘ばっかり! 10分後に会った人も「あと10分だ!」、その後会った人も同じ言葉を繰り返す。
欧米人はトレッキングスピードが早くて10分で着くかもしれないけど、チビッコの私は皆より足のリーチが短いんだから、ちょっと待ってよー! 散々文句を言いながらも、仲間の山ガールの「登った人にしか見れない景色がある」という言葉に励まされ、なんとか登りきる。
街からも見えてたフィッツロイ。最後の岩道を抜けるとそこにはダダーン!! 街から見たのとは全く違う、山肌の鋭さやギザギザが迫ってくる。あまりに近いと立体感が消え、それはまるで絵画のよう。ちっぽけな意地はぶっ飛んで、しばしその景色に見とれてしまった。
でもすぐに「山道が真っ暗になるからもう帰るよ!」の号令で、「今着いたばっかりなのにもう? 今来た道戻るの? もったいなーい!」と泣きながら下山。ハードな岩道に膝が笑ってしまい、本当に泣いた(どっちやねん 笑)。
急いで出発したために懐中電灯を忘れた私達は、充電の切れそうな1台のスマホの灯りをたよりに、何かの四足歩行の動物の遠吠えを聞きながらひたすら下りる。そして「街の灯りが見えてきた!」と童話のようなセリフとともに、やっと宿に帰り着いた。
岩道と夜道のダブルパンチに「もう2度と登山はしません。」と宣言した私。それなのに、翌々日サンライズを見るために再び早朝出発したのだから、山の魅力は恐ろしい。
Wi-fiがつながらない街で人々は…?
■Wi-fiがつながらない街で人々は…?
登山を終えると、この小さな村ですることは特になかった。「Wi-fi有り」と堂々と掲げたホステルのネットは全くつながらず、それどころか街中でWi-fi停止状態。
南米に入ってからブラジルもアルゼンチンも観光地でのネット環境は思ったより良くて安心してたけど、ひとたび山間に入れば、短いメールが1通送信できればマシなほう。1通送るのに何時間かかるのか。画像送信なんて到底無理。そしてこの日に至っては全く使えない。
現地の人は困った様子もなかったけど、旅人たちは口々に「ネット環境が最悪だ」とボヤいていた。今ドキの旅人にとって、次の旅先を調べたり交通機関や宿を予約するのにインターネットは必須。特に日本人の過半数はパソコンを携帯している。
それを思うと、昔の旅人たちはどんなに大変だったのか。どうやって旅をしていたのか。時間もお金もかかったであろうに。本当に尊敬する。
することもないので、さっさと次の街に行ってしまおう。しかし週末で、宿主はどこかへ行ってしまい支払いができないぞ。しかたないので宿主を探しがてら散歩に出かけたが、見つからなかったのでなんとなくもう一泊。
翌日も見当たらなかったので(笑)、となりのパン屋のオバちゃんに頼んで呼び出してもらいやっと宿代を支払えた。宿主の彼は友達とスポーツ観戦を楽しんでいたようで、「体育館でホッケーの試合があるけど見ない?」と誘ってくれた。実は彼、宿のオーナーでもあるけれど本業はなんと消防士とか! 小さい街なので用があるときに宿に戻ってくる程度。消防署も5分の距離なのだ!
私の知っている現代社会はルールやネットに縛られてるけど、大自然パタゴニアの小さな村ではそんなものに縛られず、焦らず、ただただ自然とともに自然体で生きていたら良いのかな。けど宿代はちゃんと回収しにきてね(笑)。
そんなゆったりな街で、カンビオ(両替ですよ。第9回を読んでね)発見。レストランの中で、残りのUSドルをカンビオさせていただきました。その直後に「ブラジルのW杯に行きたくてUSドルを欲しがってるオバちゃんが、この街で一番レートが良い!」との情報が。もう少し早く知ってれば!(US1ドル→レストラン10ペソ。オバちゃん11ペソ)。
旅の日々は得したり損したり、そんなことを繰り返しながら生きてます。
【This week's Blue】 変わりやすい天気の中、快晴の青い空に恵まれ、不思議な形の雲をまとったこの景色はまるでジブリ映画みたい! てっぺんのトンガリの周りには雲がかかることも多かったけど、頂点が見れて良かった!
●旅人マリーシャ 平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。【http://ameblo.jp/marysha/】Twitter【marysha98】