健康診断では、各項目が基準値を超え、「要注意」や「異常」の範囲になってしまった場合、再検査や治療が必要になってくる。

この「基準値」については、今まさに議論が起きている状況だ。今年4月、日本人間ドック学会と健保連(健康保険組合連合会)は、健康診断の基準を“緩めた”新基準を発表したが、この数値に対し日本動脈硬化学会は、学会としてLDL(悪玉)コレステロール値は、これまでどおりの基準が正しいと異を唱え、同様に日本高血圧学会も、新基準は緩すぎると発表。

それらを受け、人間ドック学会と健保連は「今すぐに基準を変えるものではない」とコメントし、現時点では従来の基準値が主に採用されている。

基準値とはいうものの、その“基準”にはいくつかの意見があるということ。そもそも基準値とは何なのか? 産業医(企業における労働者の健康管理等を行なう医師)の経験も持つ健康科学アドバイザーの福田千晶先生(医学博士)が解説する。

「この基準値とは、健康な人全体のデータから、極端に高い2.5%の人と極端に低い2.5%の人の数値を除いた95%の人の数値の範囲を示したものです。

つまり、健康診断とは『まあ大丈夫でしょう組』と『要注意組』の大まかなふるい分けですね」

ということは、5%の人は健康であっても「要注意」と言われてしまう可能性があるということでは?

過去の自分の数値と比較することが重要

「例えば尿タンパクなどは、毎年、高い数値が出てしまう人がいます。しかし、それが体質なのか、腎臓病なのかは、細かく調べてみないとわかりません。そういう意味では、異常値が出たら、とにかく病院で詳しく調べてみることが必要です。

また、血糖値は2、3日節食すると数値が下がることもあるし、血圧も睡眠状況や精神状態などで20くらい上下することがあります。中性脂肪も前日の食事で変わる人と変わらない人がいます。

そこで、健康診断の担当医師は、ほかの項目の数値との兼ね合いを重視して報告書を書きます。例えば血糖値が軽度に高めだけでも、血圧と中性脂肪も高めならば、問題があると考えるわけです」

ではまだ基準値の範囲内ではあるけども、今年だけある数値が急激にはね上がった(または下がった)項目があった場合は?

「何か思い当たることがあるか、考えるべきです。例えば脂質が急に下がった場合、この1年の間に節食をして、ものすごく運動をしたとか、体を使う仕事に転職したなら、それが原因とも考えられます。しかし、生活環境が変わらないのに数値が急激に変わったのなら、それが基準値内であっても、体の中で何かが起こっていると問題視したほうがいいでしょう」

だから、その年の数値が異常かどうかだけでなく、過去の数値と比較して、どのように変化しているかを知ることが重要なんです。そして、『要注意』『再検査』と指摘されたら、2、3ヵ月ほど生活習慣を改善して、再検査をしてみる。それでも数値に変化がないなら、医師と相談の上でもう少し詳しい検査をしてみるべきです」

自分の“基準値”を知っておくことも、健康診断では大切だ。

(取材/村上隆保)