スペースシップワンはアメリカ・ニューメキシコ州の専用宇宙空港から出発

「いつか宝くじが当たったら何がしたいですか?」……なんて質問の定番中の定番「世界一周」と「宇宙旅行」。そのお値段に一生叶(かな)わないと思う人も多いだろうが、意外と現実になるかもしれない? まずは、格安エアラインを使えば費用とお金の問題が“プチ”に解決な「世界一周旅行」だ。体には悪そうだけど……。

■各地の人々と出会うロマンの旅

「お金や時間がなくても、世界一周旅行くらいできますよ!」

そう力説するのは、『ウィークリー・ワールド・ニュース・ジャパン』編集長の近兼拓史(ちかかねたくし)氏。子供の頃に読んだジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』に感動し「いつかは自分も!」とチャンスを狙っていたそうだ。しかし現実的には世界一周となると、一般的な航空運賃だけでも70万円前後はかかってしまう。日程も最短で14日ほど必要。「そんな費用も時間もない」と、諦めかけていた。

ところが、LCC(格安航空会社)の運賃を眺めているうちに、「これを組み合わせれば、激安世界一周が可能かも?」と研究するようになったのだという。

そして2011年6月、茨城~上海(春秋航空・4800円)、モスクワ~デュッセルドルフ(アエロフロート・4万4000円)などの激安航空券を組み合わせて最安13万8000円で世界一周ができることを発見。さらに、ジェット機は平均時速800キロで飛行するので、「地球の一周が約4万kmだから、時速800キロなら最短50時間で地球一周できると気づいた(笑)」。

ただし、これでは滞在どころか入国審査の時間もないので、とても旅行とは呼べない。そこで、80日間世界一周に匹敵する現代版のギリギリの時間として“80時間世界一周旅行”を目標に掲げた。

飛行機の乗りすぎは意外に危険!

とはいえ、結局87時間で達成できた世界5ヵ国6都市の旅は、ハプニングの連続。スイスでは、あまりの超速日程に麻薬の運び屋と疑われ、ニューヨークでは、突然の豪雨で空港に到着したのがフライト40分前。

何より命を失いかねなかったのが、気圧の問題だ。

「合計56時間以上も飛行機に乗り続けると、気圧の変化により顔や手に紫色のうっ血が現れます。重度の高山病のように頭もチリチリ痛んできて、かなりヤバい。皆さんは、あと10時間はスケジュールに余裕をもたせたほうがいいです」

根本的に何か間違っているような気もするが(笑)、ともあれ、その気さえあれば、13万円台、80時間台で“プチ世界一周旅行”は可能だと証明された。

金曜日だけ有給休暇をとって、木曜日の夜に出発すれば、月曜日の朝の出社に間に合う行程で実現できるわけだ。

「週末何してた?」と聞く同僚に、「ちょっと世界一周」というのも悪くない。

世界一周の旅は茨城空港から中国のLCC、春秋航空でスタート。上海の人気店で小龍包を食べた後、モスクワでレーニン像と、そしてその11時間後には、ニューヨークに飛んでタイムズスクエアで記念撮影が可能だ!

バイトでコツコツと宇宙行き?

そして、お次は「宇宙旅行」。フェラーリの新車一台ほどの出費で、生きている間に人生が変わる感動を味わえるなら高くない!

■20億円必要だった夢の体験が、なんとか手の届く金額に

アポロ計画で人類が月に立った1960年代から80年代までは、「大きくなったら宇宙飛行士になりたい!」という子供が多かった。

しかし、現実に人間が宇宙へ行くのは超難関だ。大国が威信をかけ、莫大(ばくだい)な国家予算を注ぎ、最高の頭脳を集めてロケットを打ち上げる巨大プロジェクト。宇宙飛行士も、心身ともに優れた超エリートでなければならない。その結果、これまで地表100km以上とされる宇宙空間に到達した飛行士は、わずか500人余り。やはり宇宙空間は、選ばれたスーパーな人々のための場所なのだ。

ところが、2004年、そんな宇宙への旅に変化が起きる。スケールド・コンポジッツ社によって、人類初の民間宇宙船“スペースシップワン”が高度100kmの宇宙飛行に成功。この技術提供を受け、音楽や航空会社で有名なヴァージン・グループが、世界初の宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティック社を設立したのだ。

同社は、それまで宇宙に人間ひとり送るのに20億円以上は必要とされていた費用を、5分間の宇宙旅行とはいえ、25万ドル(約2550万円)というバーゲン価格にしてしまった。“プチ”というにはまだまだ高いが、それでも従来比で考えれば驚異のディスカウント率だ。

格安宇宙旅行の秘密は打ち上げ方法にある。地上からドカンと派手に打ち上げるのではなく、母機で上空まで運び上げて、空中の亜音速から発射する省エネ方式なのだ。顧客は、すでに世界中から600名が予約済み。日本からもファーストファウンダーと呼ばれる最初の100名の中に2名が名を連ねている。

そのうちのひとり、05年に前払いで旅行料金を全額支払ったというサラリーマンの稲波紀明(いなみのりあき)さんは、興奮を隠さずこう話す。

「一生に一度は宇宙に行きたいと思っていたので、募集開始と同時に申し込みました。とにかく貯金も全額つぎ込み、バイトも死ぬほどしました。ようやく宇宙に行けるかと思うと、うれしくてたまりません」

ちなみに、もっと安い費用でなんとかならないかという人には、ワールド・ビュー社が計画する気球式の「ボイジャー」なら約760万円でOK。ただし、こちらは高度3万mの成層圏までなので、宇宙旅行と呼べるかは微妙なところだ。

(取材・文/ダカーポ)