体のどこに痛みが出るか、個人によって異なる病気がある。体のあちこちが痛いのに、検査ではなんの異常もない病気もある。知らないうちに肺がパンクしている病気も……そんな音もなく忍び寄る“痛い病魔”に苦しむ若い男性が急増中! 逃れることはできないのか?

【懐かしいあのウイルスが悪さする 帯状疱疹(たいじょうほうしん)】

●Dさんのケース 都内の百貨店で紳士服のバイヤーをしているDさんは、この夏、得意先のゴルフコンペに参加した。ラウンド中、風が吹くたびポロシャツが皮膚に当たり、左胸がヒリヒリする。最初は「先週、海で焼きすぎたせいかな」と考えたが、家に帰る頃にはヒリヒリがピリピリした痛みに変わった。

胸の赤い発疹に気づいたのは翌日の朝。痛みがひどくなっていたが、ばんそうこうを貼って出社。しかし、服と肌がこすれるだけでも激痛が走り、耐えきれない。ついに午後の会議中、「ウギャ~ッ」と叫んで退席し、皮膚科に駆け込んだところ「帯状疱疹」と判明した。

●どんな病気か? ヘルペスウイルスの一種、水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスが引き起こす病気。子供がかかる水疱瘡(みずぼうそう・水痘症)も、同じウイルスによるもの。水疱瘡を体験した人はこのウイルスに対する免疫がつくが、ウイルス自体は神経の根元に潜伏し、大人になって免疫力が落ちたとき帯状疱疹を発症させる。

胸、背中、顔面、手足の左右どちらかの皮膚に痛みやかゆみが現れ、その後、赤い斑点が出て帯状の水ぶくれとなり、痛みが出てくる。

2、3週間で発疹が治った後、激痛の帯状疱疹後神経痛を発症することもあり、こちらの治療は非常に長引くこともある。

●なぜ痛むのか? 発疹のときは末梢神経や皮膚に炎症が起きて痛みを発するが、多くは疱疹が治まれば痛みは消える。しかし、炎症が強い場合は疱疹が治っても神経が傷ついて、痛みが慢性化する。これが帯状疱疹後神経痛で、まさに七転八倒、「死にたいぐらい」の激烈な痛みとなる。

●治療法や予防法は? 帯状疱疹そのものは抗ウイルス薬を早期に投与して治す。とにかく早めの治療が肝心。帯状疱疹後神経痛は数年前まで有効な薬がなかったが、今はもともと抗うつ剤として使われていた薬が痛みの軽減に使用されている。

帯状疱疹後神経痛は高齢者ほど起きやすいが、若い世代でも帯状疱疹の治療が遅れると発症しやすい。子供の頃、水疱瘡にかかった人はすべて原因ウイルスの保菌者なので、該当者はストレスをためないこと、免疫力を落とさないことが最大の予防法だ。

動けないほど痛いのに原因不明 線維筋痛症

【動けないほど痛いのに原因不明 線維筋痛症(せんいきんつうしょう)】

●Eさんのケース 2年前、会社が倒産して無職になったEさんは、失業とほぼ同時に体の節々が痛むようになった。最初は大腿部がしびれ、そのうち膝や首、肩、手指の先が痛み、いくつもの病院で検査を受けたが、結果はいつも「異常なし」。

医師にも両親にも仮病扱いされたが、本人は「動けないほど痛い!」と訴え続けた。今年の春に受診した大学病院でようやく「線維筋痛症」と診断されたが、「治療法はありません」と言われてしまい、Eさんは今、家に引きこもっている。

●どんな病気か? 体の関節や筋肉が痛んだり、こわばったり、睡眠障害、疲労感が出る難病。血液検査、CT検査、MRI検査でも原因が特定できず、以前は“なまけ病”とも呼ばれていた。関節や関節周辺の骨、筋肉が痛むリウマチと間違われやすい。

●なぜ痛むのか? Eさんのケースのように、痛む箇所が関節や筋肉など痛みが全身に及んだり、次第に移ったりする場合もあるが、そのつらい痛みは本人にしかわからない。専門家もまだ原因が特定できていないのが現状だ。

●治療法や予防法は? 原因不明のため、治療法は今のところない。苦しさが周囲に理解されず、うつ状態になる人もいるので、気分安定薬や抗うつ薬が治療に使われることもある。軽い運動、マッサージ、指圧などで痛みが軽減する場合もある。命にはかかわらず、数ヵ月から数年で症状が改善する人もいるので、悲観しないでも大丈夫!

痩せ型、長身男性の胸がギュッ! 気胸

【痩せ型、長身男性の胸がギュッ! 気胸(ききょう)】

●Fさんのケース 就活中のFさんは、都心の高層ビル上階にあるIT企業を訪れた際、エレベーターの中で突然左胸の痛みに襲われた。胸の内側がギュッと締めつけられるような痛みだ。

叔父さんを心筋梗塞で亡くしているFさんは一瞬「オレもか?」と思ったが、心筋梗塞の痛みは「バキバキッ」と聞いていたのでちょっと違う。「命の危険まではないだろう」と我慢し、全身に脂汗をかきつつ、なんとか会社訪問を終了。しかし、胸の痛みはその後も治まらない。翌日、病院へ行くと、「気胸ですね」と言われた。

●どんな病気か? ひと言でいえば、肺のパンク。肺を覆っている胸膜に穴が開き、空気が肺の外に漏れてしまう病気だ。交通事故などで折れた肋骨が肺に刺さるなどした外傷性の気胸と、背が高く10代から30代の痩せ型の青年に多い自然気胸がある。

自然気胸は、台風や航空機搭乗などで急激に気圧が変化したときに起きやすい。Fさんも高層ビルのエレベーターに乗っていたために発症したと考えられる。

●なぜ痛むのか? 胸の膜に穴が開いたせいで、胸膜が引っ張られて痛みを発する仕組み。胸の奥が突然ギュッと締まり、呼吸に伴なって思わず「イテテテッ」と叫びたくなるような痛みが起きる。

●治療法や予防法は? 軽い気胸ならば自然に治る場合もあるが、重症なら胸部に管を入れ、胸腔(きょうくう)内にたまった空気を体外に出すドレナージ処置を行なう。頻繁に再発するときは、胸腔鏡手術や開胸手術を行なうこともある。

背の高い痩せ型男子は気圧の変化に要注意。いったん気胸になった人は半年ほどダイビングや飛行機の利用を避けよう。

(監修/奥仲哲弥先生[山王病院副院長] 取材協力/臼田美穂先生[麻酔科医] 取材・文/浅野恵子 世良光弘)

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