街中はもちろん、駅やオフィスなどさまざまな場所にある自動販売機。当たり前に見かけるものだが、それに愛を注ぐ人がいる。今年で16年目を迎える自販機情報サイト『山田屋』管理人で、DVD『ノッポさんと行く昭和のスキマ探訪 自販機編』を監修した野村誠さんに自販機の魅力を聞いた。
――自販機情報サイト『山田屋』を運営する“自販機研究家”野村誠さん。このニッチな世界にハマったきっかけを教えてください!
野村 僕は、高校生のときに「グーテンバーガー」というハンバーガーの自販機のファンでして、その自販機を探していたときにたまたま足立区で古い自販機がいっぱい集まっているドライブインを見つけたんですよ。それで「面白い自販機ってこんなにいっぱいあるんだ!」と思ったのが、最初のきっかけです。しかも、後からわかったんですけど、都内で自販機のドライブインが残ってたのは、そこだけだったんですよね。
――最後の一台に偶然出会ったんですね! なんだか運命的……!
野村 でも、当時は古い自販機が集まってるような所はそこだけだと思っていたので、その後はしばらく自販機を探したりはしてなかったんです。それが、社会人になってから友達に「群馬に珍しい自販機がいっぱいあるらしい」って聞いて。
早速探し始めたら、うどんやそば、トーストなど懐かしい自販機がたくさん見つかったんです。「これは面白い!」ってことで自販機を紹介するサイトを作ることに。その当時、自販機のサイトはほかになくて「自分が自販機の面白さに一番最初に気づいたんだ!」と思うとうれしかったですね。サイトを見た人の反応もけっこう良かったんですよ。
――そこからこれまで珍しい自販機探しを続けてきて、特に印象深かった自販機はなんですか?
野村 古いジュースの自販機なんかは、時代の流れが感じられていいですよね。もう絶滅したジュースみたいなのがそのまま入ってる自販機もあるんですよ。時々まだ動いてるヤツもあって。お金を入れたらジュースが出てきたから、思わず飲んだんですけど、裏を見たら「91年」って書いてあって。「あ……」みたいな。慌てて吐き出しましたけどね(笑)。
――うわぁ……それは危険!!
野村 でも、自販機を探してると思い出に残るようなことがいっぱい起こるんですよ。群馬で偶然、古びたドライブインを見つけて入ったら、焼きそばの自販機があったんです。面白そうだなと思って買ったら「ビニールにくるまれた焼きそばがベチャっと入った箱」が出てきて。しかも1個分しかお金を入れてないのに2個も3個もどんどん出てきたんです(笑)。古い自販機のそういうところも「なんかかわいいな」と思っちゃうんですよね。
お腹を空かして健気な古い自販機に
――それって、かわいい……?(苦笑)。ほかには、どんなところに惹かれるのでしょう?
野村 周りが田んぼの、田舎みたいな所にド派手な自販機が無防備にドン!と置いてあったりするのを見ると、景色とのギャップがあって面白いなと思いますね。あと、古い自販機がボロボロになりながら頑張って働いてるのを見ると「けなげに頑張ってるな」って心動かされます。ちゃんと湯切りをしたそばを出してくれる自販機があったり、カレーをお皿に盛りつけた状態で出してくれる自販機があったり、昔の自販機ってけっこう、働き者なんですよ。
そんな自販機が作ったうどんやそばを、ふいに食べたくなるときがあって。「今日はそれ以外は何も食べないぞ」と、半日間、空腹のまま車を飛ばして自販機を探しに行くこともあるんですよ。
――いや、途中で何か食べればいいんじゃ……?
野村 空腹を我慢して探すからこそ食べたときの感動が大きいんです!
――なるほど……。ちなみに、古い自販機はどんなふうに探してるんですか?
野村 「この道路はありそう」っていう勘でいつもやってるんですけど、国道や県道、旧道など古い道には珍しい自販機が置いてあることが多いですね。ただ、そういう道は交通量も少ないので撤去されることが多いんです……。
――やっぱり懐かしの自販機への思い入れが強いんですね。
野村 自販機なら新しくても古くても好きですよ。ただ、今の自販機は商品を出すだけで、懐かしのそばの自販機が湯切りまでするみたいに“サービス”をしてくれるものはないですね。いずれ古いものはなくなってしまうので、あえてサービスをするような“挑戦的な自販機”が新しく出てきたらいいですよね。そのほうが親しみを持てますから。屋外に無造作に自販機が置かれているのは日本だけで、自販機は平和の象徴なんです。だからこそ、より身近な存在になったらいいなと思いますね。
(取材・文/short cut[岡本温子、山本絵理] 写真提供/野村誠氏)
■週刊プレイボーイ40号「11P大特集 知れば知るほどハマる!自販機をめぐる冒険」より(本誌では、ユニーク自販機コレクションや自販機設置の裏側まで紹介!)