農作業をしている人がたくさんいると思いきや……これ、全部かかしなのだ! 農作業をしている人がたくさんいると思いきや……これ、全部かかしなのだ!

近所の人も思わずあいさつしてしまうーー。秋の収穫シーズン間近の畑に、そんな人間そっくりのかかしたちが現れ、滋賀県で話題を呼んでいる。もはや芸術の域に達した「超リアルかかし」、その制作者を直撃した!

■地元美術館からも展示の依頼が!

滋賀県東近江(ひがしおうみ)市の畑に連日、たくさんの見物客が押し寄せ、ちょっとした観光スポットになっているという。

見物客のお目当ては畑のかかしだ。ただし、普通のかかしではない。地元のおばあちゃんが散歩の道すがら、本当の人間とカン違いし、「こんにちは」と声をかけてしまうほど、リアルなかかしなのだ。かかしの制作者で、畑の所有者でもある小西節雄さん(67歳)が語る。

「登下校する子供たちが、『あそこの畑にいる人にわざわざあいさつしたのに、何も返してこなかった』とむくれたり、クルマがUターンしてきたこともありましたね。ウチの畑を車窓から見て、『本物の人間や』『いや、ただのかかしや』と口論になったらしく、確認のために引き返してきたんです」

実際に小西さんの畑を訪れて、かかしを見せてもらった。確かに超リアルだ。特に背中の曲線。長年の農作業で腰が曲がった人の感じがよく出ている!

小西さんが続ける。

「もともとはスイカやトマトなどを食い荒らすカラスを撃退するために作ったものです。でも、カラスは賢い。突っ立っているだけのかかしだと、すぐに見破られてしまう。そこで本当の人間と見間違うほど精巧なかかしを作ることにしたんです」

最初に作ったのは、しゃがんで草むしりをしている格好のかかしだった。

「藁(わら)を詰めただけのかかしではダメだと思い、腕や足のパーツを木材で仕上げ、ボルトとナットでつなぎました。これでかかしの関節が人間のように自在に動くようになりました。さらにその木材にビニール製の緩衝材を巻きつけ、おばあちゃんの背中の丸みや男性の胸板の厚みなどを表現してみました」

 制作者の小西節雄さん。木で作った骨組み(胴体)にビニール製の緩衝材を巻くことで、リアルな肉感を再現するなど、あちこちに技を見せる 制作者の小西節雄さん。木で作った骨組み(胴体)にビニール製の緩衝材を巻くことで、リアルな肉感を再現するなど、あちこちに技を見せる

美術館からの展示依頼まで!

 写真上は本物の人間(近くの畑で作業中)で、下は小西さんのかかし。写真だと、もはや見分けがつかない(笑) 写真上は本物の人間(近くの畑で作業中)で、下は小西さんのかかし。写真だと、もはや見分けがつかない(笑)

衣装にもこだわった。

「実際に人が着られる古着や帽子、靴などをネットオークションで安くまとめ買いしました。ただ、それでも一体当たりの制作料は1000円ほどです」

かくして生まれた超リアルなかかし約40体のうちの25体が今、畑に設置されているという。

「おかげでカラスは来んようになりました。でも、代わりに人間がたくさん来るようになった(笑)。かかしをひと目見ようと、静岡や名古屋など遠方から足を運ぶ人もいるほどです」

極めつきは、美術館からの展示依頼だ。近江八幡(おうみはちまん)市の美術館「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」から特別企画展(11月24日まで開催中)にかかしを出品してほしいとの依頼が舞い込んできたのだ。

同美術館の担当者が出展依頼のいきさつをこう説明する。

「ウチの学芸員が酒に酔って歩いていると、畑に大勢の人の姿が見えた。何事かと行ってみたところ、これがすべてかかしだったというのです。そのあまりのリアルさに驚き、出展を依頼した次第です」

こうなると、もうかかしとは呼べない。堂々たるアートだ。

小西さんのもとには「ウチの畑にも作ってほしい」などの打診が相次いでいるという。このカカシが全国に広まれば、日本の田畑がアート空間に大変身するかも?

(取材・撮影/ボールルーム)