数量限定発売の「缶つま極 松阪牛大和煮」(5000 円+税)。A5ランクの肉を使用した超セレブな缶つまも発売していた

値段は少し高めでも、こだわりの食材と“遊び心”で勝負! 価格競争の激しい缶詰業界にあって、大半が1個500円前後という異色のプチぜいたく缶詰シリーズ「缶つま」がヒット中だ。2010年の発売以来、その数は増え続け、現在70種類以上を発売。 

缶詰といえば、だいたい100円から200円くらいのイメージだが、「厚切りベーコンのハニーマスタード味」や「牛肉のバルサミコソース」など、従来の缶詰の“常識”を覆(くつがえ)すラインアップで人気になっているという。

そんな、缶つまの秘密を探るべく、“生みの親”である国分(こくぶ)・食品統括部の森公一副部長を直撃してみた。

 それまでの缶詰業界って、まったく面白くなかったんですよね(笑)。例えば、はごろもフーズさんとマルハニチロさんという缶詰メーカーの二大巨頭とサバ缶やツナ缶などの定番で勝負するとしたら、価格競争することになるだけ。

一方、もちろん天災など有事のために備蓄することは大切ですが、非常食として購入されると家の棚にしまわれてしまうし、買い替えのサイクルも遅いんです。

――そんななか、今や缶つまは男性はもちろん、女性からも興味津々の存在です。

 缶つまシリーズのきっかけとなったのは、2009年に出版された『缶つま うまカンタン! 缶詰で作る酒のおつまみ』(世界文化社)という缶詰のアレンジレシピ集。弊社も製作に協力していたんですが、完成した本を見たときに思いついたんです。国分の缶詰だけで販促用の小冊子を作って、さらにおつまみに特化した缶詰を作ったら面白いんじゃないかと。こうして10年に缶つまが誕生しました。

――とはいえ、高めの価格設定は冒険だったのでは?

 確かに“缶詰”という見方をすれば高いかもしれませんが、“おつまみ”という見方をしてもらえれば変わってきます。居酒屋に行っておつまみを注文したら400円、500円はしますよね。つまり、たとえ缶詰でも、自分の家でおいしいおつまみが食べられるとしたら、高いと思われないのではないかと。

ですから、基本的に値段を基準にするつもりはありません。実際、過去には5000円の『松阪牛大和煮』や1万円の『三重県産 あわび水煮』なども数量限定で発売してきましたからね(笑)。まあ、それは極端な例ですが、商品の位置づけはあくまでおつまみなんです。

ヴィレッジヴァンガードでも取り扱い!?

――それで、スーパーやコンビニでも缶詰コーナーではなく、お酒やおつまみのコーナーに置いてあったりするわけですね!

 実は当初、各小売店さんのおつまみコーナーに置いてもらう交渉はとても難航していたんです。でも、われわれのこだわりでもあったので、地道に営業を頑張りました。それで実際におつまみコーナーに置かせてもらえると、売り上げが何倍にも伸びるという結果が出たんです。発売初年の10年は出荷ベースで1億8000万円の売り上げ。これでもすごい数字ですが、今年はその十数倍となる20億円近くの売り上げとなる見通しです」(森氏)

――に、20億円!? もはや大ブームじゃないですか!

 缶つまを面白がってくれる人も徐々に増えて、最近は東急ハンズさんやロフトさん、あとはヴィレッジヴァンガードさんといったコンセプトショップなどでも取り扱い店舗が増えています。コンセプトショップに食い込むというのは、ほかの食料品とは違って賞味期限が長く、保存場所を選ばない缶詰だからこそできる芸当かもしれないですね。

――すでに70種類以上もある缶つま。今後は100種類以上の商品展開を目指すという。気になるのは、誰がどうやってメニューを開発しているのかだ。

 弊社の開発者が全国の漁協、農協などを回って食材を探しています。例えば最近では、小樽の漁協の方から、『小樽のシャコを缶つまにしてくれ』なんて提案があったので、『しゃこのアヒージョ』を出したり。けっこう、全国からリクエストがあるんですよ。それと弊社の商品は、全国に10ヵ所ほどある工場に委託して製造しているんですが、各工場の商品開発担当の方も、次々と案を出してくれます。

――このほかにも、新メニューのアイデアが?

 ほかにも、レストランでうにのコンソメジュレを食べたら、これは缶つまにできそうだね、なんて話をして、そのまま商品化してみたり。とにかく、お酒のおつまみとしておいしそうで面白いアイデアならバンバン出しているんですよ。

もちろん、失敗といいますか、開発で四苦八苦した商品もあります。例えば、『みやざき金ふぐ 油漬け』なんかは、試作品のときは缶詰を開けたら、まるで金魚のように見えちゃって(苦笑)。それは結局、2年越しで発売に至りました。やはり、缶つまは高価格なので、ガッカリ感をなくすために最大限の努力をしてるんです。

――妥協のないこだわりと、自由な発想があったからこそのヒット!

 商品化にあたっての絶対的なルールがひとつだけあって、それはやはり“おつまみとして、お酒を飲みたくなるかどうか”です。試作品を食べて『うまい! ご飯のおかずにいいね!』だったら、缶つまとしてはボツ。もちろん、どのように食べるかはお客さまの自由ですが、私たちは基本的に『おかず? 冗談じゃありません!』というスタンスですから(笑)。

今後は、日本全国のちょっと目立たない特産品も缶つまにして一大ムーブメントにしたいですね。

(取材/昌谷大介、千葉雄樹)

■週刊プレイボーイ41号「」異色のプチぜいたく缶詰 缶つま大研究!」より(本誌では、売上げランキングトップ10を紹介しつつ実食リポートも!)