「未知の病原体」であるエボラ出血熱がついにアフリカ大陸を越えてアメリカに上陸した。いま緊急で必要なのは、リアルで正確な情報だ。
あらゆる「素朴で大切な疑問」に、WHO(世界保健機関)の感染症対策チームに従事した経験を持つ医師の村中璃子氏に答えてもらった、第3回。
【Q17】日本上陸の可能性は?
今後、先進国で「患者をケアした医療者、家族、恋人、親しい友人」など以外の一般人から相次いで患者が出たら、それはアウトブレイクの予兆とみてよいでしょう。欧米だけでなく、アジア各国など日本と航空機の往来が多い地域でアウトブレイクが始まったときも、日本上陸の可能性は一気に現実化します。
しかし、今のように行き来が多い国での感染者が医療者に限定され、早期発見・早期治療で患者の多くが安定・回復している状態では、そこまで大きな心配をする必要はありません。
【Q18】もしエボラが感染拡大したら、病院以外で感染しやすい所は?
おそらく、公衆トイレは高リスク。患者の腸内で大量増殖したエボラウイルスは便に混じって排泄されます。
とはいえ、エボラは空気に触れて乾燥すれば長くは生きられないので、明らかに汚いトイレなどを避けることで感染リスクはある程度回避できます。
ただし、下痢症状が始まる頃にはもう寝込んでいるか、どこかの病院を受診しているでしょうから、実際には公衆トイレのリスクも限定的です。
エボラに効く薬はあるの?
【Q19】エボラに効く薬はあるの?
エボラには安全性や有効性が確立した薬やワクチンはなく、治療は脱水を防ぐための輸液など対処療法が基本です。
しかし、発症後5日以内に投薬したところ有効性が確認されたという、いくつかの開発段階の薬があります。そのひとつが「ジーマップ」というアメリカの製薬ベンチャーが作った薬。アメリカで感染したふたりの看護師にもこの薬が投与され、安定的な状態にあります。
もうひとつ話題になっているのは、日本のファビピラビル(アビガン[R])という抗インフルエンザ薬。国境なき医師団の看護師がこの薬で回復したことから、フランス政府はギニアでこの薬の治験を開始することにしました。1cmくらいの大きな錠剤で、衰弱した患者さんは飲みづらそうですが、口から投与できるので現場は非常に助かることでしょう。
薬以外に有効な治療は「抗血清療法」。つまり、エボラに感染し、回復した患者さんの血液に含まれた、エボラに対する抗体(エボラを攻撃する免疫)を治療に使うんです。コンゴでの流行時(95年)、患者8人にこの抗血清を投与したところ7人が回復したという報告もあります。アメリカ人看護師ふたりはこの抗血清治療も受けており、WHOもこれを推奨しています。
【Q20】エボラにかかったら普通、死ぬの?
エボラには5種類の型があり、そのうち4種類がヒトに感染します。型によって死亡率は違い、50%から90%。今回流行しているウイルスはザイール株と呼ばれ、過去のデータでは60%前後の致死率です。現在、この数字は悪いほうに動いているともいわれますが、今後、早期治療で回復する人が増えてくれば良い方向に変わります。エボラは感染したら必ず死ぬ病気ではありません。初期に治療を開始すれば回復の可能性が高いことをお忘れなく。
●村中璃子(むらなか・りこ) 医師、ライター。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チームなどを経て、医療・科学ものを中心に執筆中