自宅アパートの窓にソーラー発電パネルを設置して、自家発電生活を送る横浜市の大井さん

電力会社からの送電に頼らずに、自分の生活に必要な電気を“自給”している人が、少しずつ増えているという。

一般的な家電生活のまま完全自給している人、使う家電を厳選して小さめの発電システムで自給している人、完全自給は無理だけど電力会社の電気と併用している人と様々だが…一体どうやるの?

9月末、九州電力、沖縄電力、四国電力、東北電力、北海道電力の電力各社が50kW以上の太陽光発電からの、新規の送電網接続申請を保留すると発表。それを受け、売電収入を当てにしていた多くの企業や個人の困惑が伝えられた。

その一方で、最近は自分でつくった電気を電力会社に売電せず、バッテリーにためて自分で使う人も増えている。なかには電力会社との契約を切って、電力の完全自給をしている人もいるというから驚きだ。

まずは一般的な家電生活のまま電力を完全自給しているケース。神奈川県横浜市の佐藤隆哉さんは大手家電メーカー勤務で、妻の千佳さんはアロマやハーブなどを用いるセラピストだ。

「自宅を新築し、暮らし始めて1週間ほどすると家の周囲を歩き回る人の姿が見えたんです。その後、玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、東京電力の制服を着たメーター検針の係員でした」(千佳さん)

どうやら電気メーターが見つからなくて困っていたようだ。佐藤さんの家は東京電力と契約していないので、メーターがないのはもちろん、電線にもつながっていない。結局、1週間後に東電の社員が訪ねてきて詳しい説明を求められたという。

佐藤夫妻は東日本大震災後に「自然と調和する暮らしがしたい」という思いを強くし、豊かな自然に囲まれた理想の土地を見つけた。

そして、今年3月には一般社団法人「天然住宅」が主催する「オフグリッド(独立電源)セミナー」に参加。それまでは自宅でソーラー発電をして電力会社に売電しようと考えていたものの、岡山の建築家、大塚尚幹さんが中心となって活動するグループ「自給エネルギーチーム(自エネ組)」が提案する方法で、独立型のソーラー発電も可能だということを知った。

200万円から始める発電生活

■発電システムの施工費は約200万円

4月に着工し、8月にソーラーシステムを設置。240W のパネル8枚に全国平均の有効日照時間3.3時間をかけると一日の発電量は6.3kWh(理論値)となる。この電気を、フォークリフト用バッテリーを24個直列させたもの(48V・27kWhの容量)にためておくのだ。

まったく節電を意識しない、一般的な4人家族で使う電気は一日に10kWhといわれる。佐藤さんの家の蓄電量は27kWh。ふたり暮らしとはいえ、やや心もとない気もするが、常に節電を意識するだけで一日の使用量を2、3kWhくらいまで落とせるという。

しかも、決して極端な節電生活をしているわけではない。暖房こそガス給湯式の床暖房で賄(まかな)っているものの、そのほかの家電は一般家庭にあるものとほぼ同じ。415lの冷蔵庫、洗濯機、エアコン、パソコン、プリンター、照明器具など。ご飯はいつも土鍋で炊くが、たまに炊飯器を使うこともある。

「発電量は晴れた日は4~4.5kWh、雨だと1kWhくらい。平均2.7kWhの発電量なので、ほぼ一日に使う電気を賄いつつバッテリー残量は70%をキープしています。最初はドライヤーを使うときもハラハラしていましたが、1ヵ月近く暮らしてずいぶん安心感が出てきました」

自エネ組のソーラーシステムにかかった費用は施工費を含めて約200万円。電力会社に頼らず、関わらない暮らしを選択したことで気持ちがすごくすっきりしたという。

「独立型電源にしたことをブログに書いたら、たくさんの方から激励のメールをいただきました。なかでも『電気を使うことに罪悪感のない暮らしっていいですね』という声が多かったのが印象的でした」

晴れれば電気がたくさん余るので掃除機、炊飯器、電動芝刈り機、電動ノコギリなどを使い、逆に雨の日は節電してゆっくりと読書を楽しんでいるという。電力自給の暮らしを始めると、天気に合わせた暮らしになるのが面白い。

【画像左】佐藤夫妻が横浜市に新築した“完全自給”の一戸建て。庭の物置にはバッテリーを設置【画像左】自宅の屋根上に大型のソーラー発電パネルが設置されている

おひとりさまでも自家発電OK

■ひとり暮らしなら冷蔵庫は必要なし!

一方、神奈川県横浜市でひとり暮らし中の大井和明さんは、ワンルームの賃貸アパートながら使う家電を厳選し、小さな格安発電システムだけで電力自給生活を送っている。

「電気代を減らしたいと考えていたところで、震災による原発事故が起こりました。事故を起こした責任も取らず、被災者への対応もひどい。そこで楽しく節電しながら東電への支払いをできるだけ減らす抗議方法を考えたんです」(大井さん)

大井さんは、まず自分が使っている家電がどのくらいの消費電力なのか、それを何時間使っているのかを書き出した。そのなかで同時に使わなくていいもの、同時に使わなければいけないものを分類し最低のワット数を把握。その結果から契約アンペア(以下、A)を見直すことにした。

2011年3月の震災当時は30Aの契約だったが、7月に15Aに落としてから電気代と使用量は徐々に減り始め、翌12年7月に10Aに変更。その翌月は使用量8kWhで電気代は425円になった。翌13年5月にはついに10Aから最低契約の5A(基本料金なし)に落とし、冷蔵庫は夜だけ電源を切るようになった。

実は、東電のWebサイトを見ると、最低契約は10Aからになっている。実際、アンペア変更の電話を東電にしても5Aはないといわれるそうだ。

だが、大井さんはすでに5Aで生活している人の話を聞いていたので、電話口で何度か食い下がったところ、ようやく変更を受けつけてくれたという。

「(節電を意識していると)そのうち冷蔵庫に縛られているのがいやになってきて、結局、冷蔵庫も手放しました。それと同じで5.1chのサラウンドステレオや32型テレビもゴミに見えてきました」

そして、ソーラーパネルを設置して電気の完全自給をしようと考えた大井さんは、各地で独立型ソーラー発電のワークショップを行なっている早川寿保さんに相談した。北海道在住の早川さんは関東でワークショップがあるときに、わざわざ自宅まで来て設置を手伝ってくれたという。

アパートの大家さんに許可を得て、窓の外に100Wのパネルを設置。バッテリーは115Ahのものをひとつ。総費用は約7万円。パソコンや照明器具のほか洗濯機、ガス給湯器といった生活に最低限必要な家電の動作電源として使っている。

「パソコンはテレビも見られるし、最長で8時間くらい使えますが、それもそんなに必要がないんですよね。単なる省エネではなく、原発事故の反省から電気に依存しない生活を目指しているんです」

大井さんは、夜になっても食事をするときや探し物をする時にしか照明をつけない。窓の外から入ってくる薄明かりで、ベッドに寝転んで過ごしているという。なかなかにストイックである。

【画像上】コンパクトにまとめられた発電用バッテリー。消費電力の少ないLED照明選ぶなど家電の見直しと、徹底した節電で“完全自給”を実現【画像下】横浜市在住の大井さんは、ワンルームの自室アパートの窓の外にソーラー発電パネルを設置

格安な発電キットも発売中!

■電力会社の電気と併用する

一戸建てで完全自給するにはある程度の費用がかかるし、かといって、賃貸住宅で電気をほとんど使わない生活をするのもハードルは高い。

そこで、電力会社の電気と自家発電を併用しているのは神奈川県小田原市の鈴木篤史さんだ。

2LDKのアパートのベランダに150Wのソーラーパネルを置いて、ベランダ菜園ならぬ“ベランダ発電”を実践。20Ahのディープサイクルバッテリーを2個並列にし、40Ahの容量に増やしている。

約6万円かけて設置したソーラーで賄う家電はパソコン、ケータイ、Wi-Fiルーター、扇風機、ライトなど。暖房が灯油ストーブなので、冬は扇風機をサーキュレーターとして利用する。

「普段、家庭のコンセントから電気を使っていると、どの家電がどのくらい電気を使っているのか気づきにくいですよね。でもバッテリーを使っていると、ためられた電気がどのくらいあるのか、それで何ができるのか、そこから自分が使う電気を考えるようになります。

妻のために大型冷蔵庫は手放せなかったのですが、次は冷蔵庫をソーラー発電で動かしたいですね」

そんな鈴木さんは、廃校になった地元中学校の敷地を活用した「食とエネルギーの地産地消プロジェクト」を主宰している。その活動の一環として50Wのパネルとバッテリーをキットにした照明を地区の各地に設置。11年9月の活動開始以来、今では15ヵ所にまで増えている。

「暗かった小学校の通学路、節電のために照明が消されてしまった場所、イノシシよけの電気柵など、それぞれが独立して動いています」

電力自給にかかる費用も節電スタイルも様々。気軽にやるには少しハードルが高いけれど、思い切ってチャレンジしてみたら意外とハマるかも。

【画像上】神奈川県小田原市に住む鈴木さんはアパートのベランダに設置したソーラー発電パネル【画像下】地元でミニ発電活動も行なっていて、暗い通学路にソーラー発電照明も設置した

】を参考 小規模な発電キットは2万円くらいから購入可能。バッテリーを用意すれば、すぐに使える。詳しくは、「地給知足」【http://d.hatena.ne.jp/musikusanouen+tuuhan/】、NPO法人「非電化地域の人々に蓄電池をおくる会」【http://www.offgrid-child.com

(取材・文・撮影/新井由己)