離婚カウンセラーとして多くの家庭トラブルを見てきた岡野あつこ氏

年末年始やお盆といえば帰省の季節。久しぶりの実家に羽を伸ばせると楽しみにする人も多いと思うが、憂鬱(ゆううつ)だと愚痴をこぼす既婚男性も少なくない。“嫁姑問題”がそこには立ちはだかっているのだ。

■帰省で悲しみにくれる既婚男性結婚5年目、30代半ばのA氏は「まだはっきりと表れているわけではないんですが、嫁と姑が水面下でバチバチ火花を飛ばしているんですよ」と、その現状を嘆く。聞けば、奥さんと自分の母親の双方から、どちらかがいないときに悪口が始まるのだとか。

それも男からしてみれば、「お義母さんが嫌味を言ってくる(※端[はた]から聞いていてもそうは思えない)」「●●さん(奥さん)、料理苦手みたいだけど、家では平気?」など、その内容はどうも被害妄想というか、意識過剰というか……程度のことだという。

だが、表面化していないと思っているのはA氏だけだ。こんな諍(いさか)いも実際はすぐに手遅れになる。何かがきっかけで噴出すればB氏(40代、結婚10年目)のように修復不可能な事態に陥る。

「結婚3年目くらいから、うちもそんな感じでした。そんな気にしてなかったんですけど、多分その時点で手立てを打たなければいけなかったんでしょね。いまだにはっきりした原因はわからないんですが、6,7年目あたりで嫁が『もう帰省しない!』と言い出して、今ではひとりで帰省しています。それも気まずいんですけど(苦笑)

B氏はビールを片手にそう自嘲(じちょう)する。夫婦仲は決して悪くない。ただ、この時期、家庭で帰省の話題はタブーとなり、どう帰る日程を伝えるか悩むそうだ。さらに、実家に戻れば親から奥さんはどうしたのか聞かれ、その言い訳に苦しんでいるという。

実家に帰るのに気苦労を背負うーー。そんな面倒なことにはなりたくない! そこでどうしたら、その衝突を避けることができるのか? 夫婦問題研究家であり、離婚カウンセラーとしてメディアで活躍する岡野あつこ氏に聞いた。

両方が自分のファンという意識で

■あなたの態度は大丈夫?岡野氏はそもそも男性の対応にもミスがあるという。

「たまに帰ってきたから母親のことを大事にするという人も多いと思いますが、奥さんからすれば、それが間違えています。夫はふたりの“スター”なんです」

えっ? 親孝行ってイイことなのでは…。スターとは、なんのこと!?

「もちろん、親孝行はいいこと。でも、奥さんも母親も夫のことを大好きという前提で考えてください。夫にとっては“ファン”なんだと。どちらか一方にその愛情や優しさが偏ると、互いが嫉妬してしまう可能性があります。だから、両方に私が一番だって思わせることが大切。女性は一番だって言われるとすごい頑張るので、女性特有の性質を満足させないとダメなんです」

ふたり揃っている場合はお互い平等に接して、ひとりのときはその人だけが大事なんだと態度や言葉で伝える。スターというよりホストのような感覚か……。

そしてもうひとつ、奥さんからすると、夫に対して不満に思うことがあると岡野氏はいう。

「実家で偉そうにされたり、親に甘えられたりしたら妻としてはすごく腹が立ちますよね。実家に帰って本性を出す夫に幻滅することもありますからね。あくまで実家でも普段の自分たちの家庭のように振舞(ふるま)ってください」

実際、姑の“嫁いびり”にはどう対応?

■事前想定で帰省を攻略!根本的な心構えはわかった。ただ、そうした心情以外に、何かと奥さんのやることにケチをつけたり、貶(おとし)めたりといった、いわゆる“嫁いびり”に夫はどう対応したらいいのか。

「それは個々のケースがありすぎるのですが、基本的には事前にシミュレーションすることで対策ができるかと思います。毎年の反省点は生かして、奥さんにとって何がイヤだったのか、きちんと聞くこと。たとえ、どうにもできない場合でも不満を聞いて同調してあげることで、解消されることもあります」(岡野氏)

たとえば、わかりやすい話として、B氏のケースでは奥さんが料理を手伝ったときに、姑に「もう少し濃い目のほうがいいかもね」と言われていた。客観的に見れば真っ当なアドバイスか、もしくは些細(ささい)な話。しかし、良くない嫁姑関係としては、これも“嫁いびり”に該当しているそう。

B氏も始めは何を言っているのかわからなかったが、奥さんの気持ちとしては、とにかく難癖をつけられていると思うのだ。

その対策として「そんなときは先に夫から『●●が好きだから、これ作ってよ』と奥さんに伝え、姑に文句を言わせないようにしたうえで役割を与えるのがベストです」と岡野氏はアドバイス。その一方、手伝わせないことも姑から疎(うと)まれるため、それを奥さんに最初から説明したほうがベストとのこと。

B氏のように、自分が理解できないからと言って「とりあえず、なだめておけばいいだろう」と、なぁなぁにしていると破滅を招かねない。また、自分の母親がそんなするはずない、とたかをくくってしまうのもNG。先述した通り、あくまで母親も自分の“ファン”のひとりであり、女同士という感情を無視できないのだ。

女性はいつまでも不満を残している

■油断厳禁! 最後の地雷撤去は必須たとえ、嫁姑関係が良好であっても相手の実家に行くのは気苦労が多い。「そんな気を遣わなくていいよ」と、夫としては思っていても、奥さんは入浴の順番からご飯をよそう順まで、こと細かに気づかっていることがある。

嫁姑がバトル状態なら、その疲労感は尚更だ。事前想定で事なきを得ても、一気に問題解決することは難しい。奥さんの心に引っかかっている苛立ちや不満は燻(くすぶ)っており、それを解消することも大事。

「帰省のストレスは家に着く前に発散させておくことが大事なんです。その間に文句を言っていなくても、女性はいつまでも不満を残しています。男性にはこの感覚がわからないので『なんで今さら』となってケンカなどに発展してしまうかもしれません」(岡野氏)

たしかに、その場で文句を言っていないことは、そもそも文句がなかったんだろうと男は勝手に解釈しがちだ。だが、そうではなく、ただ溜め込んでいるだけなのだ。

つまり、地雷となって後から爆発する可能性があるということを覚えておく必要がある。

「ですので、『感謝』と『ねぎらい』。このふたつを帰路で伝えましょう。もちろん、プレゼントを用意しておいたり、1泊早く帰って夫婦旅行に当てたりするのもいいでしょう」(岡野氏)

「感謝」は当然だが、「ねぎらい」することで努力や我慢してくれたことを理解し、ちゃんと見ていたということを伝えるわけだ。

奥さんと、自分の実家に帰ってのんびり年末年始を送ろうとしていた男性諸君。そして、これから予備軍である男子も肝に銘じるべし!  帰省で疲れが癒やせるのは自分だけ。奥さんにも気遣って、夫婦円満な1年を迎えようではないか。

(取材・文・撮影/週プレNEWS編集部)