2015年1月1日より施行される相続税改正が世間を騒がせている。

これまでの基礎控除枠が大幅に縮小し、課税対象者が1.5倍にもなると言われているのだ。さらに多くのメディアでは「家を売却しなければ!」など大仰(おおぎょう)に伝えられている。

とはいえ、相続なんて20・30代にとってはピンとこない話。あまり気にしていない人も多いはずだが、実家がなくなってしまうのなら若い世代にだって無視できる話じゃない!

本当にそんな深刻なのか? 元国税局調査官で、『やってはいけない相続対策』(小学館)などの著書もある大村大次郎に聞いた。

「これまでは6000万円(5000万円+1000万円×法定相続人の数)以上の資産がなければ課税されませんでしたが、今後は3600万円(3000万円+600万円×法定相続人の数)以上で対象となります。約4割も控除枠が縮小されるのです。これは首都圏や都市圏に住む人の『持ち家』や団塊の世代の退職金などでも、それを上回ります」

つまり、いわゆる資産家など裕福な層でない一般家庭でも課税対象になるということ。相続税は相続される“法定相続人”にかかるものだ。ということは、子ども世代がその相続税を払わなければいけないのだから、関係ない話ではない!?

「もちろん、ゼロではありませんが、そう大げさな話ではないんです。今回、確かに新たに対象となる人は増えます。しかし、その人々にかかる税額はそんな大きな額ではないんです」

一体、どういうことなのか。大村氏が続ける。

実質的に相続額の何%?

「この改正では先ほどの『控除縮小』のほかに、もうひとつ『55%の税率アップ』が大きく注目されています。しかし、それはあくまで資産が6億円以上の人の話。そうした断片的な情報がまかり通っているので、それが混ざり合って大げさな印象になっているのではないでしょうか。

それに相続税は法定相続分に分けた後の金額で計算するので、総資産5000万円くらいまでなら、2~3%程度でしょうし、実際はかからないこともあります」(大村氏)

たしかに「相続税=総資産×税率」というイメージは大きいはず。いまいち難しい話なので、実際に計算してみよう。ケースは6000万円(改正以前の控除額)の遺産を兄弟2人で1/2(3000万円)ずつに分ける場合だ。

まずは控除後の額は1800万円(総資産6000万円―基礎控除額4200万円)。1/2にするので、ひとりの法定相続分の金額は900万円(1800万円×1/2)。法定相続分の取得金額が1000万円以下なら税率は10%なので、つまりひとりが払う相続税額は90万円(900万円×10%)、相続金額の3%となるわけだ。

90万円も…それは痛い!という人もいるだろうが、確かに思っていたよりは少ないともいえる。

上記のケースでひとりっ子(法定相続人がひとり)の場合、相続税額は310万円(2400万×15%―50万円[控除額])、若年層にとってはバカにならない金額だが、それでも全体の5%程度となる。

相続税が驚くほどの金額になるわけではないことはわかったが、金がない貧困世代にはそもそも頭が痛い。焦って今から心配せずとも、親の死なんてあまり考えたくはないし…。

いえ、20~30代で相続に直面していなくても考えてください」(大村氏)

生前に確認すべきワケとは?

いやでも、仕事に遊びに結婚に、もういっぱいいっぱい。そう深刻な話でもないんですよね?

「気持ちはわかりますが、相続の何が大変かというと、“相続税”なんかより血を分けた兄弟姉妹による泥沼の“相続問題”なんですよ。誰がどれだけもらうのか、その分配で揉(も)めるんです」

それこそ大げさなのでは? ドラマや小説で見るお金持ちたちの話ではないか。

「最初から仲が悪くなければ、そう思いますよね。しかし、お互い結婚して別の家庭となってくるとそうでもなくなるんですよ、お金に関しては。特に配偶者も出張ってくると、さらにやっかいです。それに多くの家庭で主な資産は『家』になると思います。均等に分ける場合でも『家』なら現金化しなければなりませんよね?」

大村氏によれば、互いの話し合いでも決着がつかず、調停や裁判にまでなるケースはごろごろしているそう。それに揉めなくとも、自分たちが準備していなければ結局、実家を手放すハメになってしまう。

「若いうちから遺族となる親や兄弟姉妹としっかり話し合っておくべきなんです」

そうすることで子どもらは知らなかった実家の資産がわかり、「そんなにあったのか!」と驚くこともあるそう。(逆に「そんな借金があったのか!」という可能性も…)

「もし仮に資産が多い場合は、ひとり当たり年間110万円まで非課税な贈与税を利用したり、『500万円×法定相続人の数』まで相続財産から控除される生命保険に入っておくなり、さまざまな相続税対策が可能です。

トラブルを避けたり、損をしないようにするためにも、家族の間で相続についてはっきりしておくことは早ければ早いほうがいいんです」(大村氏)

親の死は確実に訪れる。そんな現実に目を背けたいからこそ口火を切れない相続の話ーー今回の改正はいい機会なのかもしれない?

親が亡くなってから親族で揉めたり、相続税に慌てふためいたりしないよう、この帰省シーズンに話し合うきっかけを作って、早めに手を打とう。

(取材・文/週プレNEWS編集部)

『やってはいけない相続対策』(著・大村大次郎/小学館新書)