総合格闘家引退後は、作家、アーティスト、レスリング部監督などさまざまな分野で活躍する須藤元気さん

総合格闘家として大活躍し、2006年大晦日の試合後に突如引退。それから8年ーー。

軽妙で哲学的なエッセイを出版すれば大ベストセラーになり、母校・拓殖大学のレスリング部の監督に就任すればチームを優勝に導き、音楽活動では海外からも高い評価を得る。そんな、自らの人生を完全にポジティブな軌道にのせたように見える彼に聞いた! 須藤元気さんが考える「つまらない大人にならないための10の方法」を教えてもらえませんか?

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1 スマホをいじる時間を減らす僕は以前と比べて、スマホをいじる時間をずいぶん減らしました。スマホをいじっている時間は浪費でしかないことに気づいたからです。

スマホはテレビと同様、どうしても受け身になります。そして、与えられるものをただ消化する時間になりがちですが、時間はつぶすのではなく使うもの。消費するものでなく投資するもの。

それなら本を読んだりと、自ら何かを取りに行く姿勢を持つようにしたほうが、建設的です。

2 他人の評価を信じない例えば、同じ一本のミネラルウオーターでも、東京の町中のそれと、灼熱のサハラ砂漠の真ん中のそれとでは、その価値は大きく違ってくるように、価値というものは状況によって変わってくるんです。

それと同様で、人の意見や評価や好き嫌いというものも人によって様々。

僕も昔はエゴサーチをやったりもしました。しかし、そこに一喜一憂することに意味がないことに気づきました。それに、嫌いな人を好きにさせようとすると、逆に好きな人が嫌いになることが多い。

「嫌い」ということは、その人の意識の何かに引っかかっている状況ですから、反転すれば好きになり得るんです。特に僕のような仕事で一番良くないのは、何も引っかからない、好きでも嫌いでもない存在になってしまうこと。

だから何かを言われても、そういう意見があると「受け止める」けど、「受け取る」必要はない。それができれば、他人の好き嫌いの意見に惑わされて心が疲弊することもなくなります。

現役時代、勝っても本当の内面的充実は得られなかった

3 イヤな感情を生み出す「観念」を見つける他人の好き嫌いに一喜一憂しなくなるのは、もちろん簡単なことではありません。

しかし視点を変えれば「なぜ自分は、その言葉を言われたとき、傷ついたり、イラだったりと、イヤな感情が生まれてきたのか?」を探ってみることは、逆に大きなチャンスになるんです。

なぜなら感情というものは、必ず自分が抱えている「観念」から生まれるからです。ここでの「観念」とは、自分がこの世界に対して信じていること。もうちょっと説明しましょう。

「観念」のコアな部分は、物心ついてから10歳くらいまでの人間形成期に刷り込まれたもの。これをインナーチャイルドといいますが、その刷り込みはたいていは親からです。

僕の場合、小学校1年のときに引っ越したら、近所の子がちょっと暴君で、友達になろうとしたのにしめられたんですよ。それで道で泣かされているときに親が帰ってきて、晩ご飯のときに親父に情けないって怒られ、母ちゃんと姉ちゃんからも「あんた弱いわね」「気が小さいね」って言われて。

それで誰も自分を守ってくれない、強くなきゃいけないって思って、僕が格闘技をやったコアな部分はそこだったんですね。

そして、僕はいつまでもその観念に縛られていたから現役時代、「須藤元気なんて強くない」と言われるたびにイラだっていたし、勝敗の結果という外的要素にばかり意識を奪われていたから、勝っても本当の内面的充実は得られなかったんです。

「良い悪い」とは別に「幸せか否か」を考える

4 ネガティブな感情を生む電源を抜くもちろん、弱いと言われたくなくて強くなったり、バカだと言われたくなくて勉強ができるようになったりすることはある。だからこれは「良い悪い」の話ではないんですね。しかし、そこに縛られているうちは本当の幸せにはなれないとも思います。大人になったら「良い悪い」とは別に「幸せか否か」も考えてみてよいのでは、と。

自分を束縛してきた「観念」に気づきさえすれば、それを解体できます。無意識の中で自分を縛っていたものの電源が、抜けるわけです。電源さえ抜けば、人の評価や自分の感情に左右されず、より自由に生きることができます。

5 内面と向き合う時間を毎日持つそのためには、外に向きがちな意識を内面に向ける時間が必要となります。他人の評価は「外」であって、そこにばかり目がいっていたら、内面的充実なんて図れません。

僕の場合はヨガや瞑想ですが、一日1時間のお風呂でもいい。忙しい大人こそ、そういう時間を毎日持つべきだと思います。

この続き、後編は明日配信予定!

■須藤元気(すどう・げんき)1978年生まれ、東京都出身。学生時代にレスリングの全日本ジュニアオリンピックで優勝。世界ジュニア選手権にも出場。卒業後、ロサンゼルスで柔術を学び、総合格闘家に。パンクラス、K―1、HERO’Sなどを主戦場に、ド派手な入場パフォーマンスとトリッキーな戦術で脚光を浴びる。海外でも活躍し、UFCで2度のベストファイター賞を得た唯一の日本人である。2006年大晦日に突如、引退。その後は、タレント、作家、アーティストとして活躍し、08年からは母校・拓殖大学のレスリング部監督に就任。2年目で学生4大大会を制覇し、世界学生レスリング日本代表監督も務める。現在はダンスパフォーマンスユニット「WORLD ORDER」などアーティスト活動でも注目を集めている

■最新アルバム『HAVE A NICEDAY』(ポニーキャニオン)発売中!2009年に結成し、11年、マイクロソフト社が主催したイベント「WPC2011」でのパフォーマンスが世界中で話題となったダンスパフォーマンスユニット「WORLD ORDER」の3rdアルバム。現在ライブツアー中で、1月18日(大阪)、20日(名古屋)、2月2日(東京)に公演。詳細はWORLD ORDER公式サイト【http://worldorder.jp/】にて

(構成/佐々木 徹 撮影/本田雄士 ヘア&メイク/神崎志保 スタイリング/松本信一郎 衣装協力/DIESEL JAPAN)

■週刊プレイボーイno.3・4「須藤元気に学ぶ『つまらない大人にならないための10の方法』」より