総合格闘家引退後は、作家、アーティスト、レスリング部監督などさまざまな分野で活躍する須藤元気さん

総合格闘家として大活躍し、2006年大晦日の試合後に突如引退。それから8年ーー。

軽妙で哲学的なエッセイを出版すれば大ベストセラーになり、母校・拓殖大学のレスリング部の監督に就任すればチームを優勝に導き、音楽活動では海外からも高い評価を得る。

そんな、自らの人生を完全にポジティブな軌道にのせたように見える彼に聞いた! 須藤元気さんが考える「つまらない大人にならないための10の方法」の後編!

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6 「人生はつらくて当然」なんて思わない自分を縛る「観念」の話でいうと、僕の世代はロストジェネレーションと呼ばれ、バブルも経験しておらず、就職のときも就職難でしたが、でも人格形成期は社会が右肩上がりだったためか、意外と保守的なんですね。結婚して35年ローンで家を建てて、子供もつくって大学まで入れるっていうテンプレートがやっぱり今もある。

でも同時に、何か世の中変わってきているぞ、というのも皆、気づいている。

気づいているけど、やっぱり毎日我慢して働き、給料をもらって、たまに飲みに行き…といった、どこか諦めの生活設計を描きがちです。

しかし、我慢しないと楽しいことは訪れないという観念は、もう捨てたほうがいいです。

鏡の前の自分に笑えと言っても、まず自分が笑顔を浮かべなければ笑っている姿が映し出されないのと同じで、とにかく楽しいことを先にやらないと、楽しいことなんか訪れません。逆に、楽しくないことはやらないほうがいい。

悪口を言えば、必ず自分も言われる

7 モノを減らす時代の変化という意味では、モノは減らしたほうがいい。

資本主義社会では、経済を動かすために買うことがよいこととされています。でも、お金以上に精神的充実が評価される時代にこれからはなってくると僕は思います。

モノをたくさん持てば、それだけ意識のエネルギーは外に向かってしまう。モノは少なければ少ないほど内面的充実が図れるんです。

とりあえず、1年着なかった服や履かなかったシューズはあげちゃったり、捨てちゃったりするとスッキリしますよ。

8 人におごる。悪口は言わないここまで、外に向きがちな意識を、内面に向けることが大事だという話をしてきましたが、決して、自分の中に閉じ込もるという意味ではありません。

この世界は固定しちゃいけない、常に流動しているというのがルールです。

例えば、自分がいらなくなったものを人に譲れば、自分の周りに流動が起きます。

僕も昔はおごられてばかりでしたが、今はおごるほうが好きです。これは、偉そうに言ってるのではなくて、人に与えることが必ず自分に返ってくる。世界には必ずそういう鏡の状態があるんです。

自分の周りによい循環をつくるという意味では、悪口もやめるべき。悪口を言えば、必ず自分も言われるし、逆にどんなことにも感謝すれば、必ず人に感謝されるようになる。

僕は悪口を言わなくなるのに2年ぐらいかかりました。最初の頃、一番言われたのは、「最近、口数が少ないね」って。それだけ人間社会っていうのは、友達でも職場でも悪口やゴシップで会話が成り立っているんですね。でも、モノと一緒で、発する言葉が自分の得る言葉ですから。

だから読者の方には、一日でいい、否定的な言葉を一切使わないという試みをオススメします。心のデトックスにもなります。

「疲れた」とか「つらい」といった言葉も口にしない。そう意識すると、自分のネガティブな口癖にも気づきます。

そして、先ほどの「観念」の話もそうですが、癖は気づいた時点で癖じゃなくなります。「運」というのはそうした循環のなかで与えられるものかもしれません。

楽しいことに情熱が伴えば運は寄ってくる

9 自分が楽しいことを10個書き出すでは、自分は何をしているときが楽しいか、充実しているか。頭の中で考えていてもなかなか整理できないので、とりあえず今すぐ10個ほど書き出してみましょう。

ここで例えば「自分はお酒を飲むことが楽しいんだ」という声が出るかもしれません。僕も楽しかったらそれでいいと思います。

ただ、ここで意識してほしいのは、そこに情熱があるかどうかです。楽しいことは必ず情熱を伴います。情熱がなければ、それは「楽しい」ではなく「ラク」であったり、惰性であったりします。

人から見てくだらないことに楽しさを見いだしている人でも、そこに自分なりの“情熱”が秘められていれば、運はすぐに寄ってきます。

10 世界は中立。意味は自分が持たせる僕は、大学のレスリング部の部員には、試合で勝った負けたといった外的要素に振り回されないでほしいと思っています。負けることで学べることのほうが実は多いからです。

僕の経験でもそうですが、勝ったときより負けたときのほうが、自分には何が足りないか、それを埋めていくには何をすべきか考えるようになる。

勝った負けたは記録でしかない。それ自体は中立です。もっと言えば、世界のすべては中立であり、そこに意味をつけるのは自分です。

そこから世界は回っていくんです。

■須藤元気(すどう・げんき)1978年生まれ、東京都出身。学生時代にレスリングの全日本ジュニアオリンピックで優勝。世界ジュニア選手権にも出場。卒業後、ロサンゼルスで柔術を学び、総合格闘家に。パンクラス、K―1、HERO’Sなどを主戦場に、ド派手な入場パフォーマンスとトリッキーな戦術で脚光を浴びる。海外でも活躍し、UFCで2度のベストファイター賞を得た唯一の日本人である。2006年大晦日に突如、引退。その後は、タレント、作家、アーティストとして活躍し、08年からは母校・拓殖大学のレスリング部監督に就任。2年目で学生4大大会を制覇し、世界学生レスリング日本代表監督も務める。現在はダンスパフォーマンスユニット「WORLD ORDER」などアーティスト活動でも注目を集めている

■最新アルバム『HAVE A NICEDAY』(ポニーキャニオン)発売中!2009年に結成し、11年、マイクロソフト社が主催したイベント「WPC2011」でのパフォーマンスが世界中で話題となったダンスパフォーマンスユ ニット「WORLD ORDER」の3rdアルバム。現在ライブツアー中で、1月18日(大阪)、20日(名古屋)、2月2日(東京)に公演。詳細は WORLD ORDER公式サイト【http://worldorder.jp/】にて

(構成/佐々木 徹 撮影/本田雄士 ヘア&メイク/神崎志保 スタイリング/松本信一郎 衣装協力/DIESEL JAPAN)

■週刊プレイボーイno.3・4「須藤元気に学ぶ『つまらない大人にならないための10の方法』」より