プロ雀士デビューした勝間和代さん プロ雀士デビューした勝間和代さん

働く女性を中心に多くの“カツマー”なる熱狂的信者を生み出した経済評論家・勝間和代氏がなんと今年、プロ雀士に! 

か、勝間センセー、なぜ今、麻雀なんですか!? そして勝つ麻雀=カツマージャンの極意を教えてください!

―まずはプロ試験合格おめでとうございます。勝間さんがプロ雀士とは驚きました。そもそも麻雀を始められたきっかけは?

勝間 私、もともとゲームがすごく好きで、ファミコンの時代からいろいろなゲームをやってきたんです。人生の中であまりゲームをしてなかったのは子育て時期ぐらいで(笑)。

麻雀は昔、ファミコンでやったこともあったけど、当時はRPGほどハマらなかった。でも1年前にゴルフ仲間と久しぶりに麻雀をやったら、ひとりとても強い人がいて、いつもその人だけが勝つんです。これは何か秘密があるのではと思って聞いたら「プロから競技麻雀を習ってる」と。

―そこで勝間さんのハートに火がついたと(笑)。

勝間 それで実際にやり始めたら、麻雀は確率統計のゲームなんだということがわかったんです。私がこれまでにやってきた経済や数学の理論も麻雀にはことごとく応用できるぞ、と。

―とはいえ、そこからたった1年でプロ試験に合格されるとはさすがです。

勝間 私、ゴルフだと習ったことがその場でできないんですよ。「先生が言ってることは頭ではわかるんだけど、体が動きません」っていう(笑)。でも麻雀ならトッププロに理論的にこうだよ、と教えてもらうと、次からわりとその通りにできるので、私の持っている強みが生かせるゲームなんだと思います。

―ちなみに、打ち筋の特徴は?

勝間 基本的には確率統計に基づく打ち方です。最近では「デジタル雀士」なんていうんですが、例えば「ひっかけリーチ」【注1】はほとんどやりません。だって効率が悪いですから。近年、麻雀の世界も統計の研究がかなり進んできていて、例えば「ドラ1カンチャン(待ち)即リー」【注2】は基本になってきているんですよ。

【注1】「待ち牌のスジは安全な可能性が高い」という麻雀のセオリーを逆手にとった奇襲戦法。しょっちゅうやると「せこい」「汚い」と雀友から嫌われる

【注2】一般的な麻雀の教科書には「カンチャン待ちはあまりいい待ちではないので、すぐにリーチせず手変わりを待とう」的なことが書いてあることが多い

確率0.1%なら起こりうること

―えっ、ホントですか!?

勝間 そのほうが確率的にいいことがわかってきたんです。それを知らない人は「くそリー」【注3】と呼ぶわけですが(笑)、今やデジタル派の間ではわりと常識です。ほかにもテンパイ【注4】したら手変わりを待たないというのも基本になってきていますね。

【注3】待ちが悪かったり、手役がないなど「そんなクソな手でリーチかけんなよぉ?」と怒られそうな、クソなリーチ

【注4】和了(あが)りに必要な牌が残り1枚となった状態のこと。この状態になることをテンパる、という。転じて「浮足立つ」「パニックを起こす」といった意味に使われることも

―麻雀論も日々、進化しているんですね。ただ、いくら確率統計のゲームとはいっても、確率では説明のできない「運」や「流れ」といったものが介在する余地も大きいのでは。

勝間 「運」というか、私はずっと「確率のばらつき」と呼んでいます。実はちょうど昨日、リアル麻雀で九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)【注5】を振り込んだんです(苦笑)。それもまだ8順目か9順目で、しかも相手は親!

もう、まったくのノーマークで、「4万8000点です」って言われたときは一瞬、聞き間違いかと思いました(苦笑)。だけど、確率分布の中で0.1%でも起こり得ることは起こり得るんです。たまたまその0.1%に遭遇したというだけのことで、決して説明できないことではないんです。そりゃ0%のことが起こったら私も驚きますけど。

【注5】麻雀の役の中でも最も得点が高い「役満」のひとつで、その中でも「究極の役満」といわれる滅多にお目にかかれない手役。これを和了った人は、すべての運を使い果たした=死ぬという迷信もあるほどだが、本当に死んだ人は確認されていない

―同じ牌(パイ)が5枚出てきたりとか(笑)。

勝間 ええ(笑)。その一方で、7割ぐらいの確率で和了(あが)れるはずのものが和了れないなんてこともしょっちゅうある。7割は所詮7割で、3割のことなんて年中起こる。このあたりが面白いですよね。

相手に互角以上の戦いを見せ、視聴者から支持を集めた 相手に互角以上の戦いを見せ、視聴者から支持を集めた 1月にニコ生で放送された『麻雀の鉄人』ではトッププロ

勝間さんの弱点は“経験”が少ないこと

―なるほど。勝間さんはこれまでの著作の中で「運をより理論的、戦略的に自分に取り入れる」ということを書かれていますが、麻雀にも通じるものが?

勝間 近いと思いますね。麻雀って、囲碁や将棋と違ってゲーム開始時の条件が同じではない、とても不公平なゲームです。でも現実世界やビジネスもこれに近いですよね。いずれも100回続けて運がいい人もいないし、100回続けて運が悪い人もいない。

誰しもがそれなりの運を持っていて、そこいら中に運のいい時と悪い時がある。ポイントは運が悪い時にいかにしのいで、運のいい時にいかに大きく活用するかというバランスですよね。

―運が悪いと感じた時はどのようにしのげばよいのでしょう。

勝間 簡単ですよ、回数やることです。半荘(ハンチャン)1、2回運が悪くても、100回続けて悪い人って見たことないですから(笑)。あとは運が悪い時って、確率的に正しいことをやっていても振り込むんですよ。それでもその確率計算が合っていれば、絶対に同じ戦略をとり続けるべきなんです。そこで弱気になると本当に負けてしまうので。

―勝間さんは運が悪い時、振り込んでヘコんだり、ワーとかキャーとか取り乱すことはないんですか?

勝間 もちろん一喜一憂はしますけど、正しいことをやったのに運で負けた場合はまったく気にしないですね。正しいことをやらずに負けた時、一番気にしますね。

―ここまでお話を伺って、とても“無敵感”溢(あふ)れる勝間プロに、あえて弱点を伺いたいのですが。

勝間 圧倒的に経験が少ないことですかね。特にネットなどのデジタル麻雀と比べて、実際に卓を囲んで打つ経験が断然少ない。たぶん、10対1ぐらいの割合ですかね。だからいまだによく牌を落とすんですよ(笑)。

勝間さんも胃がキュルキュル、心臓はドキドキ

―やはり、デジタルとリアルは別物ですか?

勝間 リアル麻雀では、ポンとかチーしても場は止まってくれないじゃないですか(笑)。その分、思考の時間がかなり狭まるのでその対策を今、考え中です。あとはデジタルと比べると、リアル麻雀は視野が広いというか、スペースが大きいですね。

―勝間さんぐらいになると打ち筋が表情に出たりすることなんて…。

勝間 もちろんありますよ。「テンパイするとすぐわかる」ってよく言われます。安心するんですって、顔が(笑)。

―ホントですか!? 高い手をテンパイすると急にドキドキしたりなんて…。

勝間 しますよー。胃がキュルキュルして心臓がドキドキして。ツモってもツモらなくても早く終わってくれないかなって。対局にテレビ中継が入って後ろから撮られたりなんかすると、いまだに手が震えますよ。テンパイで流局して自分の牌を倒すときに崩しちゃったり(笑)。

―そんな勝間さん、意外すぎます(笑)。

勝間 人間、緊張はコントロールできないんですよ。交感神経と副交感神経が…みたいな、どういうときに緊張するかという知識はあるんですけど、知識があるからって緊張しないわけじゃないので。最初の頃はリーチをかけただけで苦しかったんですけど、ずいぶんよくなってきました。

―ということは、経験を積めばまだまだ強くなりそうですね。

勝間 そうなるといいですね。やっぱり人間はドキドキしたほうが間違いますから。

―最後に、雀士としての今後の抱負を教えてください。

勝間 プロになって1年目でも女流のタイトル戦は出られるので、今年はせめて決勝までは行きたいですね。それと、これを読んでくださった方がひとりでも多く「吸わない、賭けない」競技麻雀に触れて、親しんでいただけたら嬉しいです。特に若い女子にはオススメです。モテますよ~。むちゃむちゃモテますよ~。

―えっ、どうしてですか?

勝間 当たり前じゃないですかー、競技の男女比を考えてくださいよー(笑)。

―あっ、それも確率なんですね(笑)。それにしてもまさか勝間さんがここまで麻雀にハマっているとは驚きました。

勝間 「話題づくり」なんて言われてますけど「いえ、ただのガチです」と答えてます(笑)。もし学生時代に競技麻雀の世界を知っていたら会計士になっていなかったかもしれないですね(笑)。

勝間和代 1968年生まれ、東京都出身。経済評論家。現在、株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議議員、中央大学ビジネススクール客員教授としても活躍。プロ雀士になったものの、麻雀ばかりされているわけではありません

(取材・文/鈴木えみ 撮影/下城英悟 撮影協力/麻雀レインボー)