NHK『クローズアップ現代』やBS日テレ『中川翔子のマニアまにある』で取り上げられるなど、大衆酒場の中でも今、「コの字型カウンター」のある居酒屋が注目されている。
でも直線やL字のカウンターと何が違うんだろう。なぜ今、コの字が人々を惹きつけているのか?
「コの字型カウンターは、最高のコミュニケーションが生まれる舞台装置なんです。店主とお客さん、どこからでもお互いの顔が見えて、話しがしやすい。酒を呑みながら、店主を囲み、客同士がひとつの空気を共有する。そこで生まれる一体感は、コの字ならではのものです」
と教えてくれたのは、コの字型カウンターのある酒場を「コの字酒場」と名付け、通いつめること25年、コの字酒場探検家を自称する加藤ジャンプさんだ。
でも、お客さんの多くはシブい酒場が好きなおじさんばかりで、若い人は肩身が狭いんじゃ?
「もちろん、コの字酒場には超が付くいぶし銀の方々も大勢います(笑)。でも、そんな先輩方に混じって、最近富みに若い人が増えてますね。もちろん、若い女性もお姉様方もいる。コの字酒場は、基本的に上座も下座もない平等な空間だし、妙な死角がないから安心して呑んでますよ」
■オススメのコの字酒場
では、ジャンプさん推薦のコの字酒場を何店か教えてください!
「コの字型ならではの一体感が味わえるお店を紹介しましょう。まずは、酒場がひしめく東京・錦糸町にある老舗『三四郎』です。早い時間から満席が続くことも珍しくなく、着物姿の女将さんが仕切っています。
オーソドックスなコの字カウンターを楽しみたいなら、東京・神楽坂にある『焼鳥 しょうちゃん』でしょう。初心者にぜひ行ってほしいですなあ。店主と常連客の皆さんの絶妙な距離感と軽妙なトークを黙って聞いてるだけで二合は呑めます。
セレブな街、東京・自由が丘でひときわ異彩を放っているのは『ほさかや』です。鰻の串専門で、早い時間から鰻好き、酒好きがいい空間を作っている。呑めば、オシャレタウンの駅近にいることを忘れてしまいます」
カウンター越しに若い女性と…
では、実際にコの字酒場を体験してみよう。今回はジャンプさんの案内で、初心者にも親しみやすいという『三四郎』に向かった。入り口はシブい雰囲気がプンプン。ちょっと緊張しつつガラっと扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは、店の奥まで続く細長いカウンターだ。
「船の舳先に似てるでしょ? この店のコの字カウンターは牛乳で磨いているんだそうです。このスベスベ感がたまりません。お願いして頬ずりさせてもらったこともあります。これだけで二合はいけますね(笑)」
向かいのお客さんが見渡せる席に着くと、なんだかみんなで大宴会をしているような気分になってくる。木のカウンターは確かにスベスベとして手触りがいい。早速、何か注文してみたいが、ジャンプさんのオススメは?
「錦糸町ですし、江戸情緒を楽しむ趣向で、まずはどじょう鍋でどうでしょう」
…待つこと数分。グツグツと音をたてて運ばれてきた鍋には、卵でとじられたどじょうと豆腐が。その上にはネギがたっぷりとのっていて、見た目からして食欲をそそる。甘辛の汁との相性は抜群で、お酒が進む一品だ。
■互いの顔や酒や肴が見える
と、思っていたらジャンプさん、カウンター越しに座った向かいの若い女性客に「今召し上がってるソレはなんですか?」なんて、シレっと話しかけている。女性も「五色芋です。おいしいですよ」と気軽に答えているではないか!
「ここのコの字カウンターのいいところは、互いの顔や酒や肴がよく見えるところ。美味しそうなつまみを食べているの見たら、頃合いを見てお客さんに聞くのもいい。そこから友達になれることもありますから。初めは緊張するかもしれませんが、せっかくコの字酒場に来たなら、チャレンジしちゃうのがいいんじゃないかしら」(お客さんの女性)
常連同士で結婚した話も!
コの字のマジックか? こうしたコミュニケーションが気軽に成立するのがコの字酒場の魅力なのかもしれない。ジャンプさんによると、あるコの字酒場では常連同士で結婚したなんて話もあるそうだ。
そのあとは最初の緊張もどこへやら、お隣さんや向かいのお客さんと呑んで食べながらの会話は弾み、いつの間にかこの店の空気を作る一員になったかのような一体感に包まれて、大満足のうちにお開きとなった。
ちなみに、教えてもらった他2店のオススメのつまみをジャンプさんに聞いた。
「『しょうちゃん』なら、まずは皮で一杯やってほしいですなあ。焼けるまで時間がかかるから、来店してすぐに注文するのが通ですよ。『ほさかや』なら、まずは“ひと通り”とお願いしてみてください。かしらやくりからといった鰻の部位ごとに焼いた串を一皿にまとめてくれます。“鰻オールスターズ”な一皿があれば三合は軽いです」
通えば通うほど、新たな発見があってハマりそうなコの字酒場。行きつけのコの字を作って、毎晩幸せな一杯を楽しんでみては!?
■食漫画の巨匠・土山しげる最新作がスマホ、タブレットで読める! 「コの字酒場」を舞台にしたWeb連載がスタート!! 『今夜は「コの字」で』 原作・加藤ジャンプ 画・土山しげる 今、にわかに注目を集める「コの字酒場」を、『極道めし』『漫画版 野武士のグルメ』で知られる食漫画の巨匠、土山しげるが丹念に描く。原作は、コの字酒場探検家で『コの字酒場はワンダーランド 呑めば極楽 語れば天国』の著書がある加藤ジャンプ氏。第一話(コの一)神楽坂「焼鳥 しょうちゃん」 は、3月10日(火)から集英社インターナショナルのホームページ上で無料で閲覧できる。毎月10日更新で単行本化も予定!
集英社インターナショナルホームページ http://shueisha-int.co.jp/