サランコットの丘の向こうにはアンナプルナ連峰が見える。人里離れて牛と和むマリーシャ サランコットの丘の向こうにはアンナプルナ連峰が見える。人里離れて牛と和むマリーシャ

ナマステ~。パワフルで刺激的な北インドに疲弊した旅人が口をそろえて「ネパールは良い」と言う。ここポカラはネパール第2の都市。目の前に8千m級のヒマラヤの山々がそびえる、世界でも稀有(けう)な景観の町だ。

北インドの旅がハードなだけに、ゆったりしたポカラは西洋人を中心にウケていて、旅人たちは国境を越え一旦休息の時間を取る。

インドから夜行バスで真夜中4時頃に国境に到着すると、24時間オープンと聞いていた小さな小屋のイミグレーションは、真っ暗だったために気付かず通り過ぎ、そのまま200mほど不法入国しちゃってた(笑)。

「どこでスタンプ押すの~?」と聞くと、「ここもうネパールだよ。あっちあっち」とゆる~い国境。イミグレーションのドアを叩くと「まだ寝てたいから朝6時まで待って~」と小屋の中からの声。しかたないから外で待機して、無事、本チャン入国です(笑)。

 ポカラのファッション。トピという帽子をかぶりチョッキを着る男性。女性はサリーやクルタなどの美しい民族衣装を着ている ポカラのファッション。トピという帽子をかぶりチョッキを着る男性。女性はサリーやクルタなどの美しい民族衣装を着ている

 ポカラは安宿がいっぱーい! 計画停電があるから生活は大変だけど、ゆっくり時間が流れてるから問題ない? ポカラは安宿がいっぱーい! 計画停電があるから生活は大変だけど、ゆっくり時間が流れてるから問題ない?

ネパールに入った途端、ゆるゆるの空気が流れる。北インドで常にピリピリと神経を尖らせていたクセが抜けず「日本語、少シデキマス」とか言ってくるネパール人をつい疑ってしまうけど、客引きとか騙(だま)してくる感じではなさそうだ。ただし、結構よくしゃべる(笑)。

宿に着くなり、日本語の話せるネパール人スタッフが「日本人? 何泊泊まるの? ラッスンゴレライ」

え? なんて? ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん! ラッスンゴレライ言いま…した?

旅三昧(ざんまい)の私は日本のお笑いにだいぶ疎(うと)くなっていたけど、それでも耳にしたことがある旬のギャグ。まさかネパールまで届いてるとは。すごいな、ラッスン。でも、これが流行る理由がネパールにはあったんです。

 ネパールも8割がヒンドゥー教(お酒は好ましくない)。でもお酒が堂々と販売されているのが嬉しい。ちゃんと冷えてるし! ネパールも8割がヒンドゥー教(お酒は好ましくない)。でもお酒が堂々と販売されているのが嬉しい。ちゃんと冷えてるし!

ラッスンゴレライが流行るワケ

やくみつるサンも翻訳解説したというラッスンゴレライ。

ネパール人の話だと“ラッスン”はネパール語で“にんにく”。“ゴレ”は人の名前で、“ライ族”という民族がいるんだそう。全部ネパールのワードなだけに溶け込みやすいワケだ。

ネパール人やインド人は、NHKやYouTubeで日本のことをほんとによく勉強している。

ある日、こっそり宿のレセプションをのぞくと、宿で働くネパール人が子供と一緒に日本のコントを見ていた。彼らが「ラッスンゴレライ…」と呟(つぶや)いてる姿は、ただお笑いを視聴してるというより学習中といった様子だったので、邪魔することができずに柱の影からそっと見守ることにした。

 日本のコントに勉強熱心なネパール人。かわいい笑顔でギャグをかましてくる 日本のコントに勉強熱心なネパール人。かわいい笑顔でギャグをかましてくる

ところで、ネパール人の学習能力の高さに感心して後回しになってしまいましたが(笑)、ポカラのメインはこちらです!

世界に誇るヒマラヤの山々、アンナプルナ連峰! その中でもひと際、存在を主張するのが6993mあるマチャプチャレ峰山頂が鋭く尖っていて、山に疎い私ですら惚れ惚れとしてしまうルックス。

 アンアプルナ連峰。景色は天気に左右されるので、早朝を狙ってなんとか拝めました! アンアプルナ連峰。景色は天気に左右されるので、早朝を狙ってなんとか拝めました!

 マチャプチャレのUP。マチャプチャレとは“魚のしっぽ”という意味で、鋭く切り立った山のてっぺんがそれを表現している マチャプチャレのUP。マチャプチャレとは“魚のしっぽ”という意味で、鋭く切り立った山のてっぺんがそれを表現している

旅の緊張感がフっと抜けたのか、体調を崩し気味の私もここで静養。毎日甘~いチャイを飲みながら、標高800mの町からマチャプチャレを眺めていた。

ポカラで出会う旅人からは「お吸い物は好きですか?」とお誘いを受ける。それは味噌汁的なものではなく、自然派特有の煙の立つ嗜好品…。

私は遠慮し“ラッスン(にんにく)”の効いた、モモと呼ばれる餃子やトゥクパという塩ラーメンのような麺類を食べながらちょっと沈没。(注:旅用語「沈没」とは、旅をしていて思わず長期滞在してしまうこと)

 店によってスープや具の感じが違う。トロっとした塩味白湯スープに野菜がのっていてタンメンを思い出させる 店によってスープや具の感じが違う。トロっとした塩味白湯スープに野菜がのっていてタンメンを思い出させる

国境越えは恐怖の夜行ローカルバスで

体調を崩したのもそのはず、ネパールへ来るための国境越えは体力的にも精神的にもこの旅で一番過酷だったかもしれない。それは私が乗ったのが、男性客率95%の“夜行ローカルバス”だったからだ。

 深夜3時頃、どこぞの小屋の前でバスは止まり、(多分眠くてだけど)、ピクリとも笑顔を見せない男たちと暗闇でチャイをすする。コワイ 深夜3時頃、どこぞの小屋の前でバスは止まり、(多分眠くてだけど)、ピクリとも笑顔を見せない男たちと暗闇でチャイをすする。コワイ

世界のバスにまつわる怖い話は後を絶たないが、インドも例外ではない。北インドからネパールへの国境越えツーリストバスでは、観光客を狙う警察も手に負えない有名な強盗が出るというので、私はあえてローカルバスに乗ることにした。

しかし、2012年に北インドのデリーで起きた“バス暴行事件”。私の頭の中から消えないのはこれだった。無認可バスに乗ってしまった現地の20代男女が、車内で鉄パイプによる暴行や強姦に遭い、バスから投げ捨てられた。女性は内臓や腸を破損し、後に死亡。

地元紙では、素手で腸を体内から引き出されたとも報道された、嗚咽(おえつ)しそうなくらい恐ろしい事件。これは世界に大きなショックを与え、かつてない規模に広がった抗議運動により、法の改正(厳罰化)の見直しにつながったという。

 護身術を習っておくべきだったかな。朝から空手を練習しているネパールの子供たち 護身術を習っておくべきだったかな。朝から空手を練習しているネパールの子供たち

そんな実話を知りながら、同じ“バス”という乗り物に乗り込むのはかなりの恐怖だった。

道はボッコボコ。遊園地の乗り物でお尻がジャンプする状態が10時間続く。そのジャンプでバスの窓は何度閉めても開く。夜の風は冷たく、全ての防寒着を体に巻きつけて国境まで…。そこからさらに10時間、たどり着いたのがここポカラだったのだ。

さてと。“ラッスン(にんにく)”パワーで体調も回復したし、旅を再開しますか。ツーリストバスに乗って…。

 ツーリスト用バスターミナルからは、アンナプルナ連峰がワイドに見れた! 隠れビューポイント! ツーリスト用バスターミナルからは、アンナプルナ連峰がワイドに見れた! 隠れビューポイント!

【This week’s BLUE】 アンアプルナ氷河を水源とするフェワ湖。ポカラという地名はネパール語でポカリ(湖)からきているらしい。

 

●旅人マリーシャ

平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。【http://ameblo.jp/marysha/】Twitter【marysha98】