野球やサッカーのスタジアムで、誰もが気になって仕方ないのがプロ用の生ビールサーバー

数ある業務用グッズの中で、誰もが気になって仕方ないのがプロ用の生ビールサーバーだろう。とりわけ関心が高いのは、野球やサッカーのスタジアムで見かけるあのスゴイやつだ。

かわいい女のコの売り子さんたちが、「ビールいかがですか~!?」と叫びながら背負っているあのカラフルなリュックサックは、正式名称を「移動販売用直出し式生ビールサーバー」という。

従来は首から下げたケースに瓶や缶をガチャガチャいわせながら売っていたが、その販売方法がすっかり変わってしまった。カバーに覆われて見えないが、あの中には生ビールを大型紙コップで約17杯もつげる7リットルのビア樽が入っているのだ。

勾配や段差のあるスタジアムの客席で、笑顔を振りまきながら軽やかに動き回る彼女たちだが、現実はかなり重労働。生ビールがたっぷり詰まったアルミ製の樽だけでも重量は約11kg。これに、ガスボンベと減圧器、ガンと呼ばれる抽出機、ガンと本体をつなぐ金属製のフレキシブルホースを加えると、総重量は15kgを軽く超えてしまう。ちょっとした軍隊の歩兵にも負けないヘビー級装備なのだ。

とはいえ、これは大容量の証でもある。そんな“移動販売用直出し式生ビールサーバー”だけに、「これさえあれば、いつでもどこでも好きなだけ生ビールが飲める!」と夢想したことがある人は少なくないはず。

プロ野球シーズンもいよいよ開幕、夏までには家呑みでも実現できたら…。しかし購入方法を調べてみると、残念な情報が。

キリンのドラフトウォーカーをはじめ、移動式の生ビールサーバーは一般への市販はしない商品なのだ。理由は公表されていないが、ガスボンベを使用することや、場所や時間をわきまえず勝手にビールを売られても困るなどの事情があるのかも?

参考までに、ビール業界関係者によれば価格は本体一式で12万円程度のようだ。

とはいえ、ここで「なんだよ~、一般人じゃ買えないのかよ~!」と諦めてしまうのはまだ早い。「蛇口から生ビールが夢」というビール愛が本物ならば、バーや居酒屋で見かける据え置き型の生ビールサーバーを入手するという手があるからだ。

購入直後は幸せだが・・・

この分野で多く使われているのは業務用厨房機器で有名なホシザキの製品だが、バーテンダーなどビールのプロの中には生ビールディスペンサーメーカーともいえるニットク製品にこだわる人も多い。同社のマークを見ただけで「この店のビールはうまい!」と断言する人までいるほどだ。

据え置き型生ビールサーバーの価格は機種やグレード、水冷、氷冷など冷却方式の違いによって12万円から40万円といったところ。用途に応じて幅広く選択できるが、個人で楽しむために購入するなら、それほど上位機種を選ぶ必要もないだろう。

バーのカウンターにあるようなサーブタワーを立てない一体型タイプならビア樽とボンベを接続すればその日から使用できる。ただし、コックの形状がメーカーごとに違うので今週はキリン、来週はアサヒなどと樽を換えることはできない。生ビールサーバーは浮気不可なのだ。

それでもこうしてサーバー、ビア樽、ガスボンベを入手すれば、憧れの自分専用生ビールスタンドをオープンできる。最初は夢が叶って上機嫌、ビールを飲むピッチもぐいぐい上がるだろう。

しかし、その幸せは長くは続かないかもしれない。業務用のビア樽は最小タイプでも7リットル。大型なら20リットル。とてもひとりで短期間に飲みきれる量ではない。

ところが、一度開栓した生ビールは賞味期限がおよそ3日間。あっという間に風味が落ち、夏場なら4日目には異臭がし始める超生モノだ。「まだ半分以上も残っているのに…」と嘆いても、古くなったら廃棄するしかない。

さらに面倒なのがメンテナンス。毎日、ビールの通り道であるホースの水洗浄が必須でこれを怠ると味が一気に落ちてしまう。というわけで、買ったはいいがギブアップという結果に終わる人も少なくないだろう。

導入は比較的簡単だが、「やっぱり外で飲むほうがラクだった…」となる可能性が高いことも知っておきたい。

(取材・文/近兼拓史 モデル/岩井万実[生ビールサーバー])