男子なら誰だって、「モテてぇ!」と思ったことがあるはずだ。しかし、実際に何か行動に移したことはあるだろうか?
映画『アフロ田中』や『男子高校生の日常』など、モテない男子を描き続ける映画監督・松居大悟(まつい・だいご)が著書『さあハイヒール折れろ』でジェーン・スー、犬山紙子(いぬやま・かみこ)、大森靖子(せいこ)ら恋愛猛者(もさ)たちと対談し、恋愛ベタの卒業を試みた。その結果、なんと…。
―対談、いかがでしたか?
松居 怒られ、罵倒(ばとう)され、ボロボロにされました。モテなくたって、恋愛ベタだって、そこまで言う必要ないんじゃないかと。対談中、「僕が否定されたままでは全国数百万の童貞万歳軍団までが否定されることになる」と思い、頑張って反論を試みたんですけどボロ負けでした。最後は罵声が気持ちよくすらありましたね。実際、気づかされることも多かったんで。
―例えば、どんなことを?
松居 僕は恋愛を減点方式で考えていたというか。ちょっとでも自分のことをカッコよく思ってもらいたくて、こんなこと言ったり、こんなことをしたら減点されるってビクビクして、結局、恋愛に関してなんらアクションを起こせなかったんです。だけど女性からしたら、そんなことは一切気にしていない、「本当に付き合いたい気持ちがあるなら飛び込んでこい」と思っていると。
―今まで、間違った方向にカッコつけていたんですね。
松居 メールをすぐ返信しなかったり、LINEをすぐ既読にしないとか、“ちょっと忙しくて返事が遅い俺”がカッコいいと思ってたんですね。電話もすぐ出ないとか。でも、そんなことは女性からしたら、まったくカッコよくないと。カルチャーショックすぎました。
みんなオ●ニーしてるんだ!
―そもそも松居さんの恋愛戦闘力が、かなり低かったと…。
松居 でも、アドバイスされた通り、ダサイと思っても、あえて言うってことをしていったらすごい楽になったんです。女性と話すことが楽しいし、会話も弾むんですよ。これ、俗(ぞく)にいう“イケる流れ”なんじゃないかと。
―恋愛ベタな読者にも使えるテクニックもありますか?
松居 これはマンガ家のマキヒロチさんに教えてもらったんですけど、僕は彼女ができてもメールを送るのが苦手だったんですよ。何を書いていいのかわからなくて。そしたら「なんでもいいんだ」と。それこそ“あ”でも“い”でもいい。大事なのは「あなたのことを覚えてるよ。忘れたわけじゃないよ」って伝えることだと。女性はそれで満足するんだそうです。もう目から鱗(うろこ)でしたね。
―では今、過去の自分に恋愛のアドバイスをするなら?
松居 高校1年生の自分にこの本を黙って渡したいです(笑)。大学の時、便所飯的なことをしていた自分には「あいつだってオ●ニーしてるんだぞ!」って伝えたいですね。
―は!? というと?
松居 僕、とにかく自分に自信がなかったんですよね。明るいクラスメイトに話しかけられると「僕なんかに時間を割いてもらって申し訳ない」って卑屈な気持ちでいたんです。同時に「俺はおまえらとは違うんだ」って見下してもいて(苦笑)。自意識がパンパンに肥大してたんです。「みんな一緒。あいつもおまえもオ●ニーしてるぞ。恥ずかしがらずに話しかけろ」って言ってあげたいです。
童貞卒業で面白要素が消滅?
―言葉の端々に自信がみなぎっているんですが、監督、もしかして…。
松居 はい。この対談をしている期間中(28歳)に童貞卒業しました。でも対談中は打ち明けられずにいましたが…。
―すごいじゃないですか! この本、ミリオンセラーになるんじゃないですか?
松居 いや、でも、童貞は卒業したんですけど…悩みは余計に深くなったというか…。「これで、恋愛ベタも卒業だ!」と思っていたら、女性では最後に対談したAV監督のペヤンヌマキさんに「カッコつけですね」と言われ、「あれ!? 俺、変われてないの?」って。
で、その後にリリー・フランキーさんと対談させていただいたんですが「キミ、童貞じゃなくなって面白い要素なくなったねえ」って言われたんですね。モテようと思ったら、モテるようにはならず、それどころか面白要素を失ってしまった。これって、最悪の最悪じゃないですか!
―まあでも、童貞は卒業したわけですし…。
松居 そんなレベルの話じゃないんですよ! あらためて思い返せば、女性陣の言ってることは正しいし、正しすぎるんです。でも、正しいことが本当に正しいのかって話ですよ! 世の中、正しくないことが正しかったりするじゃないですか! 恋愛しなきゃいけないのか? 恋愛は楽しい!? 「勝手に決めるな!」と言いたい気持ちが今、わき上がっています。
―落ち着いてください(笑)。
松居 俺は本当はモテたいと思ってないのか? どうなんだ? モテるってなんすか? 好きな人が振り向いてくれること? 不特定多数の人がいいって言ってくれること? なんか、わかんなくなりましたねえ。本当に自分がモテたいと思っているのかも怪しくなりました。
僕と思考が似ていたら危ない
―じゃあ、モテモテの映画監督かチョー面白い映画監督、どっちかになれるなら、どっちがいいですか?
松居 後者に決まってるじゃないですか!
―では監督は過去の作品で、佐々木希、山本美月、橋本愛、時代を彩る女優を撮ってきましたよね。彼女たちに「好き」って言われるのと「面白い」って言われるの、どっちがいいですか?
松居 うーん、うーん。「面白くないけど好き」って言われたら立ち直れないんで「好きじゃないけど面白いね」かなあ…。うーん、わかんなくなってきた。この本、出したのが正解だったのかどうかもわからなくなってきたなあ…。
―では、まとまらなそうなんで、シメの言葉をどうぞ!
松居 ええーと、この本の内容で唯一、絶対に間違っていないのは、僕と思考が似ていると思ったら危ないということです。僕を反面教師にして、女性陣の言う通りにすれば、彼女ができたり、童貞を卒業できる可能性が高いと思います。
ただし、それが幸せかどうかは僕にもわからなくなってしまったんで、一緒に答えを探す旅をしましょう(笑)。
(構成/水野光博 撮影/本田雄士)
●松居大悟(まつい・だいご) 1985年生まれ、福岡県出身。大学在学中に劇団「ゴジゲン」を結成。12年に『アフロ田中』で長編映画初監督。以後、『男子高校生の日常』『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『スイートプールサイド』などを発表。次回監督作品『私たちのハァハァ』が9月公開予定
■『さあハイヒール折れろ』 (エクスナレッジ 1600円+税) 「目の前を歩く女性のハイヒールが急に折れ、病院に連れていけばすてきな出会いとなって、恋が始まるはず!」と、自らは行動を起こさず奇跡にすがる映画監督・松居大悟と、ジェーン・スー、犬山紙子、マキヒロチ、大森靖子、ペヤンヌマキ、そしてリリー・フランキーといった恋愛猛者との恋愛指南対談集。この本を参考にするか、反面教師にするかは、あなた次第だ!