言うまでもないが、下痢はつらい。でも、冬はノロ、春はストレス、夏は食中毒…などなど、下痢になる可能性は一年中ある。それなのに、下痢の時のあの「水」はどこからくるのか? 

一生役立つ、下痢の正しい知識を医師の村中璃子(むらなか・りこ)先生が教えます!

***

下痢といえば、まずはノロ。でも、「今年の冬はノロって聞かなかったなぁ」ーーそう思った人も多いはず。実を言うと、今期は過去5年で最も患者の報告数が少ないままノロウイルスの流行シーズン(11月から3月頃)が終わりました。

しかし春は、入社・入学、転職、異動と、緊張やストレスの多い時期。また、夏になれば食中毒になったり、冷房による冷えや冷たいものを取り過ぎたりと、おなかを下す季節はまだまだ続きます。

下痢の、あの「水」はどこから来るのか?

口から入った食べ物は、食道と胃を通過した後、腸に至ります。その間に食べ物は、消化酵素の働きや、肛門側に食べ物を送る腸の「ぜん動運動」によって細かく消化され、肛門から排泄(はいせつ)されやすい「腸管内容物」になります。これが便です。

正常な腸には、腸内の水分量を調整する働きがあります。もしも、腸内に水分が多すぎる場合、水分は腸粘膜にある血管を通じて必要なだけ体内へと吸収されます。逆に、腸内に水分が足りない場合には血管側から腸管内に水分が分泌されます。

しかし、何かの理由で血管側への水分の吸収がうまくいかなかったり、腸管への水分の分泌が過剰になったりした場合は、腸内にある腸管内容物が水分を含みすぎる状態になります。これが「下痢」です。

なぜ飲みすぎた次の日は下痢になりやすい?

■では、「正常な便」はどんな状態なの?

一般に「バナナ状」と呼ばれるベストな状態の便の水分量は70%から80%といわれ、色は黄色がかった茶色です。

便の色をつけているのは胆汁(肝臓でつくられる液体)に含まれているビリルビンという物質です。ビリルビンはpH(水素イオン指数)によって色が変わるので、腸内がアルカリ性に偏(かたよ)ると便は黒みがかり、酸性に偏ると黄色みを帯びます。

ミルクだけを飲んでいる赤ちゃんの便が黄色っぽいのは乳成分により腸内が酸性に保たれているから。肉や脂肪類をたくさん取ると便が黒っぽくなるのは、腸内がアルカリ性になるためです。

■感染性の下痢はどのように起きるの?

下痢の原因となる病原体は、ウイルスではノロやロタ、細菌では黄色ブドウ球菌や大腸菌、サルモネラ菌などいろいろあります。

感染した腸管の粘膜が病原体そのものや細菌の出す毒素などによって炎症を来すと、腸管内へ水分が分泌されやすくなります。その結果、腸管内容物の水分が過剰になって下痢が起きます。

■なぜ飲みすぎた次の日は下痢になりやすいの?

アルコールは他の飲食物とは異なり、胃や腸で消化されることなく、そのまま体内に吸収されます。

お茶や水と違ってお酒はたくさん飲めてしまうもの。特に酔いが回ってくれば喉が渇いていなくても飲み続けてしまいます。そして、アルコールとともに大量に摂取された水分が十分に体内に吸収しきれなくなると下痢になります。夏に冷たいものを飲みすぎて下痢になるのも、冷えに加え、水分の取りすぎによるものです。

また、アルコールには腸のぜん動運動を活発化させる働きがあるため、一緒に食べたおつまみなどは通常よりも腸内を速く通過します。すると、腸管内容物の水分は血管側へと十分に吸収されないままになるため下痢になります。

なぜストレスで下痢になるの?

■なぜおなかが冷えると下痢になるの?

冬は寒さのために、また夏は冷房による冷えのために下痢をすることがあります。はっきりした原因はわかっていませんが、体が冷えると自律神経の障害が起き、腸内の水分量や腸のぜん動運動の調整がうまくいかなくなるためとか、体温が下がって消化酵素が働きにくくなるためとされています。

■なぜストレスで下痢になるの?

検査を行なっても異常はないのに、腸のぜん動運動が異常になって下痢と便秘を繰り返している状態を総称して「過敏性腸症候群」と呼びます。軽度のものも含めると日本人の10%から15%がこの病気と診断され、消化器内科を受診する患者さんの3分の1を占めます。10代から30代の若い人に多いのが特徴で、年齢とともに患者数が減っていきます。

原因がはっきりとしないため「ストレスによるもの」とされる、この病気。月曜日の朝、駅や会社のトイレで列を作っている人たちがいたら、この病気かもしれません。

●この続き、後編は明日配信予定!

(取材・文/村中璃子)

●村中璃子(むらなか りこ) 医師、ライター。一橋大学社会学部・大学院卒。社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チームなどを経て、現在は都内大手企業で産業医としても勤務。医療・科学ものを中心に執筆中