冬はノロ、春はストレス、夏は食中毒…などなど下痢になる可能性は一年中あるが、その正しい知識を知らない人は多いのでは? 例えば、下痢の種類によって飲んではいけない薬があることを知っているだろうか? 

一生役立つ、下痢の正しい知識を医師の村中璃子(むらなか・りこ)先生が教えます!

(前編記事⇒ 「なぜストレスで下痢になる? 意外と知らない下痢の基礎知識」

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突然起こった下痢の多くは感染症によるもので、体をまったく動かせないほどの高熱や血便などがない限り、ほとんどの場合は大きな心配する必要はありません。

しかし、どんな下痢でも脱水にだけは要注意。十分に口から水分が取れないほど消耗している時や、水を飲んでもそれ以上に吐いてしまう場合などはすぐに受診する必要があります。病院で水分を補う点滴を受けるだけで驚くほど元気になります。

また、脱水以外で注意したいのは感染性の下痢の場合です。感染性の下痢では、原因となるウイルスや毒素などがすべて排泄されるまで「下痢を止めない」のが原則です。もちろん、その間も十分な水分を補給することが重要です。

■では、市販薬は飲まないほうが安全なの?

一概には言えませんが、市販薬にもいろいろなものがあるので自己判断で使用するには注意が必要です。

腸のぜん動運動を「止める」成分が入っている市販薬には「ストッパ」「エクトール赤玉」「トメダインコーワ」などがあり、これは過敏性腸症候群には使用できますが、感染症が否定できない時に使用してはいけません。例えば、「トメダインコーワ」に入っているロぺラミドという成分は、病院での処方薬にも入っている成分で下痢を止めるのに即効性があります。ただし、処方薬と市販薬では有効成分の量が違います。

一方、「正露丸」は、過剰になっている腸のぜん動運動を「止める」のではなく「調整する」作用や、腸内の水分量を調節する作用などがあるのでノロを始めとした感染症を含むすべての下痢に安心して使用できます。「ワカ末止瀉薬(ししゃく)錠」も腸の運動を調整する成分しか入っていないので同様です。

また、処方薬としても出されることもある「ビオフェルミン」で注意したいのは「ビオフェルミン下痢止め」と「新ビオフェルミンS」との違い。前者はロートエキスという腸のぜん動運動を「止める」働きをする成分が入っているので、感染症を疑う時には飲むべきでありません。

一方、「新ビオフェルミンS」のほうは、ビフィズス菌などの腸内細菌を補うことで腸内環境を整えるものですので、どんな下痢の時に飲んでも構いません。

下痢と嘔吐が続いているときに飲むなら?

■下痢と嘔吐が続いている時に飲むとしたら下痢止め? 吐き気止め?

嘔吐を伴う下痢の場合は、まず感染性を疑います。そもそも、嘔吐がある時には薬を飲んでも吐いてしまうし、下痢止めにも吐き気止めにも病原体を殺したり毒素をなくしたりする作用はなく、体の外に出ていってほしい病原体や毒素を体にとどめるだけなので、基本的にはどちらも飲むべきではありません。

薬を飲むことよりも大切なのは、先述の通り、「十分な水分を取ること」。上からも下からも水分が出ていけば脱水になります。また、嘔吐すれば胃液と一緒に酸が失われ、下痢をすれば腸液と一緒にアルカリが失われるためイオンバランスが崩れます。そのため、水分を補うとすれば、ただの水よりもスポーツ飲料のようなものが適しています。

ただし、スポーツ飲料には糖分が多く含まれているため薄めて飲む必要があります。そのまま飲むと、急に上がった腸管内の糖濃度を下げようと、水分が血管側から腸管側へ移行しやすくなり下痢が悪化する可能性もあります。

(取材・文/村中璃子)

●村中璃子(むらなか りこ) 医師、ライター。一橋大学社会学部・大学院卒。社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チームなどを経て、現在は都内大手企業で産業医としても勤務。医療・科学ものを中心に執筆中