恐ろしいことに“男の劣化”は30代からもう始まっているという。その中でも意外にコワいのが“歯の劣化”だ。
最近、堅いせんべいが苦手になった。噛(か)んでいると口の中が痛くなる。冷たいものを食べた時も歯だか、歯茎だかキーンと染みてくる…。そんな人は要注意。歯の劣化について、田賀歯科医院(参宮橋)院長・田賀ミイ子氏に聞いた
■歯がグラついたら、かなりヤバイ!
「自分は大丈夫」、そんなふうに思っていませんか? 30代は歯に自信がある人が多いんです。虫歯や歯痛などがあれば治療を受けますが、歯茎から多少血が出たくらいでは「二日酔いだから」とか「強く磨きすぎたから」くらいに思ってあまり心配しません。
それが歯の病気の落とし穴です。過信していると、今に大変なことになりますよ。
確かに、飲みすぎて疲れていたり、磨きすぎで歯茎から血が出ることもありますが、頻繁(ひんぱん)に血が出る時は歯肉炎や歯槽膿漏(のうろう)など歯茎に炎症がある証拠。出血だけでなく、堅い肉やせんべいなどを食べて歯が痛くなったとか歯がグラつくようでしたら、かなり病状が進行しているはずです。
すぐに治療を受けるべきですが、治療したからといって安心はできません。なぜなら「なぜ虫歯になったのか」「なぜ炎症が起きたのか」という根本的な原因を解決したわけではないからです。同じことを繰り返さないためにも原因を解明し、治療することが大切です。
歯の劣化は18歳から始まる
歯の状態が一番いい年齢は18歳。そこから少しずつ劣化が始まります。驚かれるかもしれませんが、歯茎の炎症からくる出血などの原因は歯の磨き方だけでなく、ストレスによる噛み合わせの悪さ。
歯を食いしばったり歯ぎしりしたり、無意識に強くグーッと噛んでしまう。そうしていると、歯が内側や前側に傾いてきて、支えている筋肉が炎症を起こします。傾いている歯を食いしばると歯や歯茎にストレスがかかり、常に歯茎に炎症が起きている状態というわけです。
また、摩擦によって硬いエナメル質の歯の表面にヒビが入ります。そこに細菌が侵入して虫歯になる。
顎(がく)関節症もそうです。強く噛むことで咀嚼(そしゃく)筋が緊張して口が開かなくなったり顎が痛くなったり。ひどい時は頭痛を起こし、体のバランスまで壊してしまいます。さらに最近、耳鼻科や呼吸器内科から多く回ってくるのが睡眠時無呼吸症候群の患者さん。これも歯の噛み合わせが悪いことや顎の大きさや位置が理由になっています。
日本は欧米に比べ、歯並びが悪くても気にしないなど歯への意識が低すぎます。噛み合わせは歯のトラブルにとどまらず、全身の病気の原因のひとつとなります。
歯並びが悪ければ矯正し、歯ぎしりや歯の食いしばりがひどい場合は、歯や顎に負担がかからないようマウスピースで固定するなど対処することが歯と全身の健康を保つ秘訣(ひけつ)。30代から始めれば、80歳でも入れ歯ではなく自分の歯でいられるでしょう。
(取材・文/宮崎俊哉 中島大輔 名須川ミサコ 大竹良)
●田賀ミイ子(たが・みいこ) 田賀歯科医院(参宮橋)院長。日本大学歯学部卒。可能な限り「削らない」「抜かない」保存的治療を実施。「20歳の誕生日にマウスピース」を提唱。著書『あかちゃんは口で考える』(冨山房インターナショナル)