「下半身をケガするのは歩き方が悪いから」と指摘する田中尚喜氏 「下半身をケガするのは歩き方が悪いから」と指摘する田中尚喜氏

恐ろしいことに“男の劣化”は30代からもう始まっているという。

駅の階段でダッシュしたらアキレス腱を断裂! はずみで転び、全身5ヵ所に重傷を負ってしまった…。そんな“下半身の劣化”について、JCHO東京新宿メディカルセンター、リハビリテーション士長・田中尚喜(なおき)氏に聞いた。

■間違った歩き方が招く下半身の劣化

若かった学生時代にスポーツをしていたイメージが忘れられず、運動不足のまま運動会や日常生活の中でちょっと走っただけなのにいきなりアキレス腱を切ってしまったりするーー。これは“退行性変性疾患”といい、30代からもう始まっています。大臀(だいでん)筋やヒラメ筋といった膝や腰の負担を軽減する下半身の重要な筋肉が劣化してきているのです。

その原因は、子供の頃からしっかり歩く習慣がないまま成長してきたから。親に歩く習慣がなく、保育園や幼稚園の送り迎えが当たり前のように車や自転車でしょ。

成人男性ならば「一日1万歩」が理想とされていますが、ただ歩けばいいというものではありません。正しい姿勢で歩いてこそ効果があり、下半身の筋力アップが望めるのです。

健康ブームでウオーキングが見直されていますが、問題は多くのハウツー本が誤ったフォームを教えていること。現代っ子は大股で膝を曲げて、上下に激しく動きながらの悪い歩き方をしている人がほとんどです。これでは逆に疲れがたまって肝心な筋肉が育ちません。若い頃はパワーで押し切れていたからまだいいでしょうが、そんな歩き方を続けていたら体は必ず崩壊します。

歩き方を変えないと劣化が進行

長年、歩行についての研究を重ねてきましたが、正しい歩き方をマスターすれば、それだけでケガ知らずの体ができていきます。膝を曲げず、歩幅を狭く。ちょうど着物を着て、ゆっくり上品に歩くような姿勢がベストな歩き方です。正しい姿勢で歩行すれば、お尻の大臀筋やふくらはぎのヒラメ筋が鍛えられて、足腰の痛みから解放されますよ。

また、嬉しいことに遅筋が豊富なヒラメ筋には疲れにくい特性があるんですね。この筋肉が育てば、階段の上り下りが苦になることもありません。日常生活を送っているだけなのに足腰が疲れ、痛くなってマッサージに通うなんてこともなくなり、10代、20代の頃のような躍動感も戻ってきます。

逆に、今からしっかり意識して歩き方を変え、下半身の筋肉の衰えを食い止めなければ劣化はますます進むばかり。これから死ぬまで足腰の痛みと付き合わなければならなくなり、少し激しく動いただけで病院直行になりかねません。

近頃は男性でも立ってオシッコができない人が増えてきていますが、下半身の筋肉が衰えてしまったら立ち小便どころか、まともに夜の営みをすることすらできなくなってしまいますよ。

(取材・文/宮崎俊哉 中島大輔 名須川ミサコ 大竹良)

●田中尚喜(たなか・なおき) JCHO東京新宿メディカルセンター、リハビリテーション士長。リハビリテーションセンター岩手リハビリテーション学院卒。1989年より東京厚生年金病院リハビリテーションセンター勤務。05年同室技師長就任。歩行理論を説いた『百歳まで歩く』(幻冬舎文庫)執筆