迫り来る猛暑に備えて“スタミナ”をつけたいところだが、そもそもスタミナってなんなのか?
オリンピアンとしての経験を生かしてランニング指導するとともに、管理栄養士としてトップアスリートから市民ランナーまでサポートする高橋千恵美さんが、スタミナの正体と効果的な補給法を教えてくれた!
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―そもそも、スタミナってなんですか?
高橋 自分のパフォーマンスを維持すること。言い換えれば、“体力”“持久力”です。
―なるほど。スタミナがないと、これからの時季は夏バテになると思いますが、「スタミナをつける」=「夏バテしない」ためにはどうすればいいでしょう?
高橋 アスリートならば、もちろん練習が必要ですが、一番大切なのは食事。まずは「体は食べ物からできていること」を意識して食べる。そして、休養です。アスリートでも体重増を気にして食事を減らしたり、一日1食はジュースやプロテインだけという人がいますが、一流選手は皆さんよく食べます。私が知る限りでも、女子マラソンでシドニー五輪金メダリストの高橋尚子さんやアテネ五輪で金メダルに輝いた野口みずきさんなどは体が小さく細いですけど、とにかくよく食べますね。
―そんなにバクバク食べたら動けなくなるのでは?
高橋 いいえ。彼女たちに共通しているのは「食べないとキツい練習についていけない」ということ。それに栄養が不足すると体調を崩し、免疫力が落ちてしまいます。一般の方でもしっかり食べて全体として高カロリーになっても、その分、体を動かせば筋肉がついて基礎代謝が上がり、体重は増えずメタボリックの心配もないでしょう。
―スタミナ食といえば、「ウナギ」や「ステーキ」です。夏バテ防止にはどんどん食べるといいですか?
高橋 確かに、ウナギは体にいい脂質、タンパク質、ビタミンAやB群が豊富に含まれていますし、タンパク質が高い牛肉もスタミナ食といえます。でも、そればかりを食べていたら他の栄養素が不足して逆効果です。大切なのは栄養バランス。炭水化物50~60%、脂質20~30%、タンパク質13~20%を心がけましょう。主食として、ご飯、パン、うどん、そばなどをきちんと食べ、主菜は肉、魚、卵、大豆などをバランスよく。
健康維持に必要な野菜の摂取量は一日350g。生だけではかなりの量になるので、加熱した煮物やおひたしなどで。イモや海藻類、乳製品、果物も欠かさずに。
―近頃、炭水化物抜きダイエットがはやっていますが。
高橋 炭水化物が不足すると疲れやすくなります。それに炭水化物の主食を減らすと、おかずをたくさん食べるようになり、脂質が多くなるのでコレステロールが心配です。
「スタミナ食」ばかり食べるのは逆効果?
―陸上の長距離選手は、レース前にどのような食事をするのですか? 今どき、ゲンをかついで“トンカツ”は食べないでしょうが…。
高橋 大会3日前ぐらいから「カーボ・ローディング」といって、消化に時間がかかる肉などは控え、炭水化物を中心とした食事にします。前日はさらに脂質を減らして、当日はレース4時間前までにおにぎりやそば、うどん、それに果物や果汁100%ジュースなどで食事を済ませます。
1999年、世界陸上セビリア大会の時、私はレトルトのお餅とゆであずきの缶詰を持参して、お汁粉を食べました。レース後は内臓も疲れているのですぐには食欲がわきませんが、3時間ぐらいしたら好きなものをいただきます。ケーキをワンホール食べたこともありますよ。
―アスリートへの指導で、一般人のスタミナ回復に応用できることはありますか?
高橋 アスリートには練習後、速やかに炭水化物、タンパク質、ビタミンCを取るように言っています。だいたい30分以内とされていますが疲労回復が違います。皆さんも疲れたと感じたら、できるだけ早く上記3つのバランスがいい食事をしてください。先ほど話に出たトンカツとか天ぷらなどヘビーなものは、胃が疲れていない時に食べるといいでしょう。
―マラソン選手がレース中に飲むスペシャルドリンクはスタミナがつきそうな気がします。あれってなんですか?
高橋 コーラの炭酸抜きやハチミツレモンを用意する人が多いですね。あとはスポーツドリンクなど糖分が吸収しやすく、すぐにエネルギーにできるもの。マラソンに限らず、これからの季節は日常生活でも小マメな水分補給が必要です。
ただし、ビールなどお酒は要注意。アルコール摂取は水分補給になりません。「のどをカラカラにして飲むビールは最高!」という方、多いですよね。確かにおいしい。私も引退後に30㎞まったく給水せずに走って、ゴール後にビールを飲んだことがあります。でも、すぐに頭がクラクラしてしまいました。絶対にダメです。
―気をつけます! 最後に、あらためて夏を乗り切るためのアドバイスを!
高橋 夏バテしない体を作るには夏本番前の今が大事! 一度バテると食欲がなくなり、回復するまで時間がかかります。今、栄養バランスを考えて食事する習慣が身につけば、一生バテない体を手に入れることができますよ。
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■高橋千恵美(たかはし・ちえみ) 1976年生まれ、宮城県出身。ランニングコーチ、管理栄養士。チームミズノアスレティック所属。聖和学園高、聖徳大卒業。98年アジア競技大会10000m3位、99年世界陸上10000m5位、2000年シドニー五輪10000m15位。13年、管理栄養士の国家試験に合格
(取材・文/宮崎俊哉 山田美恵 渋谷 淳 撮影/伊藤晴世)