檻に閉じ込められた旅人。顔を隠すようにかけたサングラスが緊張感なくてごめんなさい

エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアは、旅人の間では中米の“行かなくていい3ヵ国”と言われている。見どころもマイナーな上、街を歩くこともはばかられる治安最悪・超危険地帯だからだ。

特にホンジュラスの都市「サンペドロスーラ」は、前回も話題にした「世界殺人率ランキング」の首位を何年も譲らない。警察や治安関係者もお手上げ、それどころか警察官の犯罪加担や汚職にまで至り、2012年には国家非常事態宣言が発令された。

「正直いって、俺は行きたくないぜ」

ケタ外れの治安の悪さに、戦闘力の低いヤムチャな私は完全ヘタレな旅人です。

そこで、ちょっと割高だけれども、グアテマラから旅人ご用達の「国際バス」で南下することにした。このバスは中米の危険な国境を越えながら、着いた先では一歩も外に出なくて良いようにバス停に宿が併設されているのだ。

命は買える。ありがたい。

国際バスに乗っちゃうよ~! 国境越えの手続きもお任せなのだ!

もちろん、この条件では観光なんぞできないし、宿の人からも外出を止められるのが常。しかしエルサルバドルでは、日が昇ると街はなかなか爽やかに見え、宿の周りにはSUSHI屋やピザハットなんかもあるので、ほんのちょっとだけ散歩することにした。

唯一の観光名所であるアート美術館に向かうと、中米一人口密度の高いはずのエルサルバドルなのに人の気配もなくシーンとしていた。拘置所は超過密と言われるほどギャングが多いらしいけど、私がこの国で出会ったのは丘の上のサッカー少年たちだけ。

アート美術館では元気玉を集めている進撃の巨人が…? 私も「日本のみんな! オラに元気を分けてくれ~!」

天使のようなこの子たちが将来、ギャングになりませんように…

「なんか、意外と普通に過ごせたかも?」なんてホッとしたのも束の間、バス休憩で寄ったコンビニの入口にはライフル担いだ警備員が!

左の男性。肩にライフル下げてます。ドアには銃持ち込み禁止マーク

全身タトゥーの凶悪犯罪集団「マラス」

長いバス移動と見どころのない旅に、旅人の笑顔が消えていく

そして、ついに悪名高いホンジュラスへ入国。しかし車窓に映るのは、ひたすら山と川、時々…牛。危険そうな雰囲気どころか、とにかく退屈~。

たまらず、バスの係員に「映画ポルファボール(スペイン語でプリーズ)」と頼むと、スペイン語吹き替えの戦争映画が始まった。ちょっ…この映画の内容、真珠湾攻撃なんですけど。気まずい……。

私はフレンドリーな明るい日本人だと周りにアピールするために、隣に座るおじさんに話しかけてみた。すると、彼はホンジュラス人でこう言った。

「ホンジュラスはとても危険な国さ。みんな銃を持っているし、もちろん俺もライフルを持っている。」

自他ともに認める、世界でもトップクラスに治安の悪い国。そして私を脅すように、凶悪犯罪集団「マラス」の画像を見せてきた。マラスとは強盗、誘拐、殺人や麻薬密輸によって生きる貧困層の不良少年犯罪組織だ。

4万人規模の、いわゆるギャングってやつ。顔面までの全身タトゥーで、見るからにヤバイ。人を殺すことなどなんとも思っていない彼らにかかれば、私なんか「戦闘力たったの5か、ゴミめ」という感じだろう。

アーティスティックなタトゥーの紹介かと思いきや、「マラス」の画像

その夜、到着したのは首都「テグシガルパ」のバス停併設宿。鉄柵に守られ、外出するにはいちいち警備員に頼んで開けてもらわなければいけなかったが、せめて夕飯をと50mほど先のチキン屋まで夜道を歩く。

平たい顔族のアジア人はやはり目立つようで、まさに針のむしろ。レジもまた鉄格子越しのやり取りで、お釣りが少し多いようだったので返そうとすると、店員さんは微笑んで言った。

「これで大丈夫よ!」

いつもなら嬉しいはずのオマケも、私には「命で回収するから大丈夫」に聞こえた。そこにはたった5分いただけだったが、死を想像させる緊張感が漂っていたのだ。

そして私はチキンとコーラが最後の晩餐になるかもと、牢獄のような宿で朝日を待つのだった。

まるで檻の中にいるような一日だった

カメラに目の色を変える少年たち

ホンジュラスの檻を脱獄できたと思ったら、次のニカラグアの首都「マナグア」ではさらに厳重な壁と鉄扉の中に閉じ込められた。囚人気分アゲイン。

ここは宿の周りを数100m歩いただけで拳銃強盗に遭うほどデンジャラスで多くの旅人の被害を耳にする。

そんな中、再び腹を満たすためだけにバス停併設宿の目の前の店へ。小さな店の中にはスロットマシーンも数台置いてあったけど、ここでは大当たりを引く確率よりも強盗に遭う確率のほうが高いだろう…。長居は無用。私は急いでご飯を食べきり、宿へ帰ろうとした。

シャバには小さなお店が数件

同じ宿のコスタリカ人にお勧めされたご飯。チキン、プランテーン(緑のバナナ)、豆ご飯ガジョピント。ジュース付きで5ドル

すると、何かの祭りの後なのか、大きな人形を抱えた少年たちがやってきたので、私はつい「相手は子供だし、ずっと檻の中だったんだ、ちょっとくらい中米の思い出が欲しい!」と、隠してたカメラを見せてしまった。

すると突然、「マネー!」とすごみ、目の色を変えた少年たちが私に向かってきた。ヤバイ!

人形を抱えた少年たち。結局、動揺し撮影できずブレている

子供と思って侮るなかれ! ここでは彼らだってナイフや銃を使い犯罪を犯すのだ。私は宿に向かって猛ダッシュで逃げた。50m走9秒台の激遅の私も、その日は8秒台にくいこめたかもしれない。

鉄の扉は閉まっている。ドンドンドン!! 「ドア開けて! お願い!! 早く!!」

重い鉄扉が開き、間一髪で無事だったが、もしあと一歩遅ければと思うと……。ゾッ。

バス停宿から見た外の世界。青い店がご飯を食べたところ。本当に目の前なのにそこまで行くのが怖い。

【This week’s BLUE】エルサルバドルの1.50ドルカットはいかがですか。

●旅人マリーシャ平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログ、Twitter【marysha98】もチェック