360度どこから見てもワイドに見える「3D花火」は、ぜひ肉眼で鑑賞したい!(撮影/冴木一馬)

花火シーズン本番! 日本の夏を象徴するこの風流な伝統行事も、時代の変化と無縁ではない。

そこで、花火大会がより深く楽しめる最新トピックを、世界で1000大会以上の撮影経験を持つハナビストの冴木一馬氏に聞いた。

■レアなパステルカラーを探せ!夜空を彩る色のマジックに魅せられる花火だが、「その色は全部で何色?」と聞かれて即答できる人は少ないだろう。

青、紅、黄、緑の基本4色に紫(青+赤)、銀(白)、金の合計7色。これらはどの花火屋さんでも作れます。さらに今注目なのが『パステルカラー』。きっかけは平成に入り、街のネオンがどんどん明るくなったことです。それまでの花火が目立たなくなったため、花火屋さんは明るい色の開発に励みました。下手をすると命を落としかねない困難な開発を乗り越え、現在では水色、ピンク、オレンジ、レモンイエロー、エメラルドグリーンなどの新色が開発されています」

全国で220社ある花火屋さんの中で、現在オレンジが作れるのはたった4社だけとか。さらにエメラルドグリーンは秋田の花火屋さん1社のみ!と超レアなのだ。関東近郊では「熱海海上花火大会」でオレンジ、水色、レモンイエローが見られるというから要チェック!

最新トレンド! 時間差牡丹&スライド牡丹さらに、花火業界で一番のトレンドといえば、「時間差牡丹」「スライド牡丹」という種類なのだという。「牡丹」とは丸く開く代表的な割物花火だが、何がスゴイのか?

「花火の円を十字に切ったものを想像してください。その4分の1ずつをパッパッパッと順番に光らせ、最終的に丸を想像させるのが『時間差牡丹』です。また、『スライド牡丹』は円をスイカ模様のように縦に切り、それが順番にスライドしながら光っていく。これを作れるのは全国で10社ほど。とても貴重な技術なんです」

なんか説明だけでもスゴそう…。「全国花火競技大会・大曲の花火」(秋田)、「土浦全国花火競技大会」(茨城)など競技会系の他、「みなとこうべ海上花火大会」(兵庫)では必ず上がるそうなので必見だ。

IT化が可能にした「3D花火」「文字打ち」って?

IT化の成果。3D花火と文字打ち今までは花火師さんが筒に手動で点火する…というイメージが一般的だが、90年代からはIT化が進み、今やコンピューター・プログラムによる自動点火が当たり前。

「そのルーツは83年にオープンした東京ディズニーランド。音楽に合わせてレーザーを使い、花火を上げるスタイルが日本に輸入されて人気を集め、日本の花火業界のIT化のきっかけになりました」

さらに、花火業界にも「3D化」の波が訪れているという。しかし、もともと球体の花火で「3D」って?

「最近は、音楽に合わせて10ヵ所、20ヵ所から同時に上げる“ワイドな打ち上げ”が増えています。それらは正面から見ればスゴイですが、横から見ると縦棒1本にしか見えません。そこで、花火の筒をL字型やV字方に並べることで、360度どこから見てもワイド感がわかるようにしたのが『3D花火』です」

例えば、「芦屋サマーカーニバル」(兵庫)では、会場の中央に向かってV字に花火が配置され、まるで客席に花火が迫ってきてのけぞるような迫力を味わえるとか! さらに、極めつけの最新技術がコレ!

「ハートやスマイルなどの『型物花火』は人気ですが、この技術でアルファベットの文字を作った花火屋さんがあります。福井県敦賀市の『とうろう流しと大花火大会』では、これを地上スレスレの10mくらいで打ち上げます。観客から見ると、地上から文字が飛び出すように見える「文字打ち」という、この夏イチオシのコアな技術です」

増える「シークレット花火」

「シークレット花火」への流れ実はこの「文字打ち」を見られる場所がもう1ヵ所あるが、それは明かすことができないという。

「2002年の明石花火大会事故から警察が厳しくなり、主催者側も警備体制の強化が求められています。話題になって人が殺到し、事故が起きると責任問題になるので、メディアに紹介しないでほしいという『シークレット花火』が年々増えているんです。ポスターもチラシも作らず、市民広報などに告知するだけ。ある意味、穴場かもしれません」

そういった時代の流れとしてもうひとつ顕著なのが、「小規模大会の増加」だという。

「バブルがはじけてから全体的に予算は縮小傾向。一方で、景気を良くするべくイベントをやるため、予算の小さい大会が増えています。花火屋さんとしては、出動回数が増えるわりに売り上げは変わらないので、なかなか大変なよう。花火は早朝から深夜までの重労働ですから」

さらに、メインスタジアムの建設問題で揺れる「東京オリンピック」によって、有名なあの大会がピンチに晒されている現実が…。

「1万2千発を打ち上げる『東京湾花火大会』はレベルが高くおススメの大会ですが、来年からオリンピックの工事のため、2020年まで休止という話が出ています。今年はぜひ見に行ってほしいですし、できれば皆さんの声が盛り上がって来年以降も続けられるようになればと願っています」

これは行かねば! ますます話題も見どころも満載の夏花火、待ちきれなくなってきたのでは?

●冴木一馬(さえき・かずま)ハナビスト。花火写真家、花火研究家。花火師の資格を持ち、2002年には世界の花火大会1000大会の撮影を達成。スチールに関してはワンシャッターにこだわり多重露出をおこなわず、花火本来の姿を追い求めている。著書に『花火のふしぎ』(サイエンス・アイ新書)ほか。http://www.saekikazuma.com/

(取材・文/田山奈津子)