女性の減退した性欲を回復させる薬として、“女性用バイアグラ”と呼ばれる「フリバンセリン」。

この薬が先月4日、アメリカ食品医薬品局(FDA)の諮問委員会で承認に向けて大きく動いたーー。

同薬は、アメリカの製薬会社のスプラウト・ファーマシューティカルズ社が販売権利を持つが、すでに2度承認を却下されている。期待される「性的欲求低下障害の緩和」という効能に対し、めまいや吐き気といった副作用のリスクのほうが高いと判断されたからだ。

しかし女性団体によるロビー活動の効果などもあり、今回、三度目の正直でついに承認を促す結論が出された。

この「フリバンセリン」だが、“女性用バイアグラ”と呼ばれているとはいえ、その性質は男性用のバイアグラとはまったく異なる。産婦人科医でセックスセラピストの早乙女智子先生によると、「男性用バイアグラは海綿体への血流を良くし、ペニスの物理的な勃起を促すもの。それに対し、今回のフリバンセリンは、ある種の抗うつ剤であり、性に対する消極的な気持ちを改善するための薬」だという。

つまり、主にメンタルに作用する薬であり、性器に作用する男性用とは根本的に目的が違うのだ。飲めば媚薬のように体がウズき出すということもない。性に無関心な女性も、これを飲めば豹変する…なんてことはまずないのだそうだ。

では、たとえば不感症には効くのだろうか?

「“不感症”は俗語で、医療現場では『性的欲求の低下障害』といいます。アメリカ精神医学会が出している“DSM-5”と呼ばれる『精神障害の診断と統計マニュアル』によると、“性的機能不全群”として、女性に限っていえば、オルガズム障害、性的関心・興奮障害、性器・骨盤痛挿入障害といったものが挙げられます。

不感症やセックスレスが、うつなどのメンタル面の不調に起因している場合にはフリバンセリンは有効だと思います。ただ繰り返しますが、そもそも性にネガティブな気持ちがあったり、無関心だったりする女性が飲んでも効果はありません」(早乙女先生)

性を謳歌できる年齢が上がる?

そうなると、主に対象となるのはどんな女性なのか?

「この薬は特に、閉経が近い更年期女性の性的欲求の低下を改善するとされています。例えば、これまで性生活を楽しんできた熟年カップルが、奥さまの加齢とともにどうしても一緒に楽しめなくなってきた場合とか。そもそもフリバンセリンは、セックスをしたいのに楽しむ気分になれない人向けで、初めからセックスする気がない人に効くわけではないんです」(早乙女先生)

逆に、普通に性欲がある女性が飲んだらどうなるのか?

「何も起こりません。性的欲求が低下している人を薬で改善することはできますが、もともと性欲に問題がない方に効いたりすることはありません」

早乙女先生は「日本性科学会認定セックスセラピスト」として毎週、性の悩み相談を受けている。その立場から見て、やはりセックスレスの悩みは増えているのだろうか?

「勤務先の病院では、1ヵ月に16名ほど性に関する相談を受けるのですが、その中にセックスレスを解決したいと病院を訪ねる方も一定数いらっしゃいますね。男女どちらの患者さんも真剣な思いを抱えています」

そういった患者さんたちに向け、フリバンセリンが日本で処方される日も近い?

「う~ん、まずアメリカでも正式な認可に入るのはこれからですし、たとえ米国で認可されたとしても日本国内での治験も必要ですから、日本で処方されるようになるにはそこから早くても5年はかかる。でも、もし日本で買えるようになったら熟年世代の女性の性欲は今後どんどんと花開くかもしれません。

というのは、妊娠の恐れがない、閉経した女性こそが性を一番謳歌(おうか)できる存在なので。相手さえいれば、いくつになっても性を楽しめます(笑)。読者の皆さんも、将来は年上女性とのお付き合いを考えてもいいと思いますよ!」

(取材・文/赤谷まりえ 村上隆保)