10年ぶりに発売された新型マツダ ロードスター(左)と、その好敵手・トヨタ86(右)。価格はいずれも、おおよそ250万円から300万円強と差はないが、試乗してみると…

10年ぶりに国産スポーツカーの至宝、マツダロードスターがフルモデルチェンジ! 

約3年前、先代ロードスターの価格を意識して登場したトヨタ86と、これで満を持してのガチンコバトルが幕を開ける。

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新型マツダロードスターが発売された。今回はついに正真正銘の量産型だ。つまり、一般に手渡される本物(?)で、日本の公道を走るのは今回の試乗が初となる。結論からいえば、量産型ロードスターは3月の事前試乗会の時より明らかに完成度が高まっていた。

新型のエンジンは全車1.5リッターで、タイヤも全車共通。グレードや変速機によってサスペンションの味つけをビミョーに変えているだけだが、マニア観点でいうと、ここが好みのはっきり分かれる分水嶺(ぶんすいれい)となる。

今どきのFRスポーツカーらしく、硬派な走りを求めるマニアに一番人気となりそうなのが「MTのSスペシャルパッケージ」である。このグレードにだけ後輪のトラクション(=キック力、推進力)とスライドコントロール性を高めるLSD(リミテッドスリップデフ)がついて、足回りもそれに合わせた味つけとなっている。

新型ロードスターは全体に柔らかい乗り心地が身上であるものの、MTのスペシャルパッケージはどちらかというと引き締まり系で、水平姿勢のキープ力が強い。エンジンが控えめなので「どこでもドリドリ!」とはいかないが、うまく運転すれば、程よくおケツを出したコーナリングもやりやすい。

対して、最も安価でメチャ軽い(1t切りの990㎏!)「S」グレードやオートマ車はさらに柔らかく、現代のスポーツカーとしては左右に傾くロールも明らかに大きめ。その走りを擬音化するなら「ネットリ、クターッ、ジワーッ!」な感じ(笑)。

最近のクルマのハイグリップ水平コーナリングしか知らない世代には「なんだコレ!?」だろうが、初代ユーノス・ロードスター(当時の車名)をリアルタイムで知るオッサン世代(私を含む)は「そうそう、キタコレッ!!」と、あまりの懐かしさに号泣必至である。

目を三角にしてコーナーを攻め立てるより、緩いコーナーであえて高めのギアを選んで、鼻歌でも歌いながら70%から80%のテンションで走ると、とてつもなく気持ちいい。それにしても、この確信犯的なネットリ感は、もはやマツダの伝統芸能…というほかない。

ロードスターは86に勝てない!?

さて、新型ロードスターの価格はおおよそ250万円から300万円強。先代より小排気量になって、電動開閉ハードトップが廃止されたことを考えると「ちょい値上げ」といえなくもないが、トータルの価格帯は先代とほぼ同じで、同時にトヨタ86(や双子車のスバルBRZ)とガチンコの価格設定なのだ。

まあ、そもそも86が先代ロードスターの価格にぶつけた…というのがバトルの発端なのだが、ここまで価格がドンピシャだと、大いに迷うFRスポーツカー好きは少なくないだろう。

その86、約3年前の発売当初はブッ飛ぶくらいに過敏な操縦性のクルマだった。とにかく敏感なステアリングで、FFや4WDに慣らされたアラい運転だと、どんな道、どんな速度でも(そんな気はさらさらなくても)盛大にテールスライドしたのだ。それはまさしく『実車版・頭文字(イニシャル)D』そのもの(笑)。

そんな86も発売から2度の改良を受けて、現在はさしずめ「ver3.0」というべきものになっている。その最新の86は各専門家筋の間でも「別物な大人のスポーツカーになった」と評判だ。

86はロードスターのようにオープンにはならない代わりに、曲がりなりにも200馬力の大台に達した水平対向2.0リッターエンジンと、死ぬほど狭いが、あると重宝する後席がついているのが独自のメリットといえる。

今回取材した86はver 3.0ではなく、厳密には「ver2.0」だったのだが、それでも初期のver1.0とはもはや別物だ。さほど神経質にならなくても、予想外にケツを出すようなリスキーな操縦性は完全に解消されており、リアタイヤのキック力もさらに強力になって、走行ペースも確実に上がっている。しかも、そのレスポンスや乗り心地には、ほんのり高級感すら漂う。

今回は残念ながら3.0を試乗できなかったが、乗っている限りは、2.0でもツッコミどころは皆無だ。

ちなみに、初期の1.0でも一部のボルトとダンパーを交換するだけで2.0まではバージョンアップ可能だ。今回試乗した2.0は、新型ロードスターと比較してもマジで甲乙つけ難い魅力があり、「これなら2.0にバージョンアップするだけでも大満足」と、初期86の中古車を真剣に探してしまったほどだ。

さらに86は、200馬力というパワーだけでなく、スバル謹製の水平対向独特の“鼓動”や高回転でのひと伸び…で、エンジン本体の魅力と存在感だけは現時点でロードスターに勝ち目なし。「スポーツカーはエンジン命」という信念を持つマニアにオススメなのは、断然86である。

(取材・文/佐野弘宗 撮影/池之平昌信)