日本の病院で医療ミスが続出している。

7月24日、新潟県の病院が白内障の80代女性の両眼に視力回復のレンズを入れる手術をしたが、左右のレンズを取り違えて入れてしまい、再手術をするハメになった。

7月7日にも千葉県の病院で心臓手術を受けた患者が7人死亡するなど、様々な形でミスが発覚し、医療への信頼が問われている。

こんな時代に私たちはどのように「良い医師・悪い医師」を見分けるべきなのか。心臓カテーテル治療の世界的な権威にして、大崎病院・東京ハートセンター副院長の細川丈志(じょうじ)先生に聞いた。

細川 なんでもかんでも風邪だ慢性疲労だと診断し、「とりあえず薬を出します」とか「とりあえず様子をみましょう」と、とても便利な言葉として「とりあえず」を多用する医師がいます。ところが、その通りにしても症状が一向に改善せず、別の大きな病院にかかったら誤診だったことが発覚し手遅れに…というケースもあるんです。

「とりあえず」の本来の意味は、他のなすべきことを差し置いての意味ですよね。ハッキリとした理由を説明せず、「(よくわからないので)とりあえず」という意味で使っている場合は要注意です。

―それは判断がつかないことの裏返しだと。

細川 そういった場合も多いと思います。私も、例えば心臓に期外収縮という不整脈が見られた場合、簡単な検査を行なって、治療が必要な状態でなければ、「とりあえず様子をみましょう」という言葉を使うことはあります。しかし、その場合にはきちんと理由を説明するようにしています。

ちなみに、もし仮に医者から「判断がつきません」と言われたらどう感じますか?

―不安になります。

細川 そうですか。でも、どんな医師でも判断がつかないことはあるんです。専門領域外のことは深く知らなくて当然ですからね。そして専門分野に自信を持っている医者ほど、自信のない疾患については「自分ではわからない」と正直に言うことができますし、専門の医師宛てに躊躇(ちゅうちょ)なく紹介状を書きます。

割とアッサリとした説明しかしない?

―すぐに紹介状を書くって、医者にとって恥ずかしいことではないんですか?

細川 いえいえ、すぐ紹介状を書く医師はむしろ信用していいと思いますよ。自分の知識や技術を見極められている人ですから。また、紹介状を書けば紹介先の病院からフィードバックがあり、次に生かせます。逆に、判断を留保して何度も通院させるような医師はいつまでたっても経験値が上がりません。

―他にも見極められる点はありますか?

細川 これはすべての分野に同じことが言えると思いますが、努力や頑張りを評価してもらえるのがアマチュアで、結果だけで評価されるのがプロです。当然、医師にも高いプロ意識を持った医師とアマチュア意識そのままの医師がいます。そしてその意識の差というのは、医療方針や手術の内容について説明を受ける段階で見極めることができるんです。

―ポイントはどこになるんでしょう?

細川 高度な手術に際し、その危険性や死亡率などを患者へ十分に説明することは重要かつ必要なことで、それが正しいとされているのも事実です。しかし、プロ意識が高い医師の中には、割とアッサリとした説明しかしない医師もいるんです。

―なぜですか?

細川 それは患者に不都合な事態が発生した時、すべて自分で責任を負う覚悟ができているからだと思います。

一方、アマチュア的な意識を持った医師には、手術の必要性や方法ではなく、リスクや死亡率の話を延々として、いたずらに患者を怯えさせる者もいる。それは自信のなさの表れだったり、もし万一の事態が起きた時、「自分の努力を認めてください」と弁明したい意識の表れかもしれません。

―なるほど。

細川 とはいえ、最後にお伝えしておきたいのは、その医師がどんな意識で医療に臨んでいるかを見極めるのは、患者個人の眼力によるところも大きいと思います。医師の技量を判断するためにも社会での対人経験が重要になってくるのではないでしょうか。

●細川丈志(ほそかわ・じょうじ)大崎病院東京ハートセンター副院長。心臓カテーテル治療の分野における世界的な権威。Best Doctors inJapan(2008~2009)