日本の自動車メーカーといえば、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、スバル、スズキ、ダイハツといったあたりを思い浮かべる人が多いだろう。
だが、実は国内には16もの自動車メーカーがあり、大手以外にも独自路線のイカしたクルマを開発・製造しているのだ。
富山県富山市に本社を置く「タケオカ自動車工芸」は、そんな“国産インディーズ自動車メーカー”の老舗。1982年に創業し、50ccのミニ自動車「アビー」を開発したことから事業をスタートした。
現在は、ひとり乗りの電動ミニ自動車を開発・製造している同社。専務の武岡学氏に会社の成り立ちを聞いた。
「弊社はもともと屋外広報(看板)の設計制作などを手がけており、その技術を見込まれて同じ富山県にある光岡自動車(後述)のミニ自動車のシャーシとボディの設計を手がけていたんです。それをきっかけに独自のミニ自動車開発が始まったのです。
富山のような田舎では公共交通機関が少ないので、高齢者や障害者の方でも気軽に外出できるようになればと考え、原付免許しか持っていない高齢者の方をターゲットにした屋根付き四輪50ccスクーターや、車いすのままでも乗り込めるガソリン車などをつくってきましたね。その後、97年にひとり乗り電動四輪車を北陸電力と共同開発しています」
―最新車種「ダウンタウンガール」には画期的なオプションが登場したそうですね。
「はい。基本価格の88万円から上乗せになりますが、電動ミニ自動車として史上初、オプションでエアコンをつけられるようになりました(笑)。これまでは暖房しかなかったんですよ」
たかがエアコンと侮るなかれ! 電動ミニ自動車のようにバッテリーも車体も小さいクルマにはこれまでエアコンを搭載することができなかったのだそうだ。
―それにしても、なぜそこまでミニ自動車の開発にこだわるのですか?
「大手メーカーはファミリーカーや軽自動車のようなマーケットの大きい車種をメインにつくっていますが、弊社くらいの規模の会社が同じ土俵に上がったところで勝負になりません。だから、マーケットの小さいミニ自動車で勝負しているんです。
でも、だからこそ、お客さまの細かい要望にも応えられるものをどんどん開発していける部分もありますし、その小回り感は大手メーカーにはない強みだと自負しています。近い将来、今度は車いすのまま乗り込める電動ミニ自動車の3度目のフルモデルチェンジを行なっていきたいと考えています」
崖っぷちから甦ったインディーズ国産自動車業界の雄!
そして次は、タケオカ自動車工芸と同じく富山県富山市に本社を置く光岡自動車だ。
光岡自動車といえば、2001年に発表されたファッションスポーツカー「オロチ」(現在は生産・販売終了)や、昔の名車を再現したキットカーでかつて名を上げた、まさにインディーズ国産自動車業界の雄!
その歴史を国内営業課課長の笠原勝義氏に聞いた。
「創業者(現会長)である光岡進は本当にクルマやものづくりが好きな人間なんです。自動車会社に就職した後、自ら小さな自動車整備工場や中古車販売会社を立ち上げました。そして1982年には当時、原付免許で乗ることができたミニ自動車の生産・販売を手がけてヒットさせたんです」
ところが、85年の道路交通法改正により、ミニ自動車は普通自動車免許がないと運転できなくなってしまった。当然、販売台数は急降下し、同社はミニ自動車からの撤退を余儀なくされたという。
「大好きなものづくりを取り上げられた光岡でしたが、気晴らしにアメリカを旅行した際にレプリカカーの存在を知ったそうです。いわゆる昔の名車を再現したキットカーですね。そして87年にフォルクスワーゲン『ビートル』をベース車にして、ベンツ『SSK』のレプリカをつくり、改造車として販売したところ、たまたまTVのニュースで紹介してもらったこともあって売れに売れ、その勢いに乗じて自社開発のオリジナル車『ゼロワン』の開発に乗り出したんです」
―ものすごいバイタリティ! とはいえ、大手メーカーがひしめく普通自動車のマーケットへ参入となると、かなりの苦労があったのでは?
「当初は運輸省(当時)から『無理でしょう』と言われたそうです(笑)。でも光岡はあきらめず、法律を勉強して正面から何度もぶつかりながらも、96年に開発した当時の最新『ゼロワン』で型式認定(新型の自動車などの生産・販売を行うための認定)を取得し、晴れて自動車メーカーの仲間入りができたわけです。
光岡は崖っぷちの状況でも、自分たちのつくりたいものを自由につくるために全力疾走する気質。そんな彼に惹かれ、有能なデザイナーたちが大手メーカーを辞めてまで弊社に集まってきてくれています。だからこそ、個性的なクルマを打ち出していけるのだと思っています」
創業者の情熱と人柄が、光岡自動車のクルマには宿っているということか。
光岡自動車とタケオカ自動車工芸に共通しているのは、“自分たちのつくりたいもの”をそのまま具現化したクルマを開発しているということ。これって、巨大組織の大手メーカーでは返って実現が難しいことでもある。
ニッチな市場を土俵にしているからこそ打ち出せる、個性あふれるクルマの登場に今後も期待したい!
(取材・文/牛嶋健、昌谷大介[A4studio])