恵比寿のダイニングバーで働いているというAさんも「鯨とアンチョビのアヒージョ」をオススメ。「ツナみたいで美味しい!」 恵比寿のダイニングバーで働いているというAさんも「鯨とアンチョビのアヒージョ」をオススメ。「ツナみたいで美味しい!」

デートスポットとして頻繁(ひんぱん)にメディアで取り上げられる恵比寿。いわずと知れた都内有数のオシャレタウンだ。

また、恵比寿といわれ思い浮かぶのは、やはり「エビスビール」。サッポロビールが本社を構え、「恵比寿麦酒祭り」や「恵比寿ビール坂祭り」などビール絡みのイベントも多い。

そんな街で28の飲食店が鯨料理を提供する恵比寿鯨祭(げいさい)」が開催されている(~10月18日[日])。恵比寿でなぜ鯨?と、おそらく誰もが思うところだが…。

実際、恵比寿の街で日々飲み歩く15人に聞いてみても「なんでなんだろうね?」「そういえば知らない」など、理由を知る人はひとりもおらず。ますます疑問が募る。

「ほとんどの人が知らないんですけど、恵比寿様というのは鯨の化身なんですよ。実は恵比寿様は七福神の中で唯一、日本の神様。昔から日本人は鯨に助けられてきました。そうしたことから、鯨のことを神様だと思って『恵比寿様』と読んでいたそうです」

そう説明してくれたのは、恵比寿鯨祭実行委員会の古井貴委員長だ。

なるほど。確かに、古くから捕鯨が盛んだった日本には、鯨を祀(まつ)った塚や神社が各地に存在している。

漁業者の間では魚群の存在を示す目印として神のように扱われ、“漁業の神”である恵比寿さまと同一視されていたそうだが、割と鯨好きの記者(名前にも鯨の一字、実家にある印鑑は鯨歯製!)にとっても初めて知る情報だ。

恵比寿様にちなんで選ばれた鯨。しかし、そもそもなぜ祭りとしてイベントが始まったのか。

「恵比寿に、地元小学校の『おやじの会』というのがあるんですよ。東日本大震災をきっかけに、何か起きた時に男手で力をあわせて地元の子供たちを守らないと、という話がまずありまして…」(古井委員長)

「おやじの会」とは、いわゆる地域の“町内会”的なものだそう。平日はシャレオツなビジネスマン&ビジネスウーマンが行き交い、休日はカップルがひしめく恵比寿だが、意外と下町的な一面もあるんだとか。

「その飲み会で、お父さんたちの『何か街起こしで、住民が一体となって楽しめる祭りを作りたいね』という話から始まったんです。よくあるパターンですよね(笑)。でも、それを本当に実行したんです。それで調べてみたら、目黒はサンマが有名なので隣の恵比寿は鯨でいこうと」(古井委員長)

参加店は年々増加、個性的な鯨料理も続々!

今年で3回目を迎えた同イベントだが、実際、地元住民や飲み歩いている人の間でも、その存在はすっかり浸透しているよう。先の15人に聞いても「あ~毎年やってるよね」「去年、知り合いのお店がやってて食べましたよ」「今年もやってるんだ!」など知らぬ人はいなかった。

また、鯨といえば、ベーコンや竜田揚げのイメージだが、「恵比寿鯨祭」では和洋の28店舗がそれぞれ個性的な鯨料理を出しているのも特徴。

「鯨のロールキャベツ コンソメ仕立て」(ebitei)や「恵比寿風クジラガパオライス」(EBISU KITCHEN by KU.)、「鯨の天婦羅衣」(食酒房 ふさ助)など珍しいものばかり。都内の主だった鯨料理店は大体、制覇した記者も見たことがないラインナップだ…気になる。

イタリアンバル『ファンタスティコ』で「鯨とアンチョビのアヒージョ」を注文した女性(24歳)は「前からポスターとか飲み友達の間でイベントは知っていました。初めて鯨を食べたけどアヒージョとか意外。ビールでイケる!」と、若い女のコもすんなり受け入れている様子。

「今回は飲食店から『うちもやりたい』と声がかかって、以前より参加店も増えました。でも、まだ途中ですよ。何事も定着して周りに知られていくには時間がかかりますからね」と古井委員長は今後の発展に意気込みを明かす。

続々と増える恵比寿の鯨。目黒のサンマと肩を並べられる日が来るよう、(個人的にも)期待したい!

(取材・文・撮影/鯨井隆正)